事業承継・引継ぎ補助金とは?申請枠ごとの補助率や補助上限を解説

申請枠

事業承継やM&Aの実施の際、補助が受けられる「事業承継・引継ぎ補助金」。本補助金を活用することで事業承継やM&Aの負担を軽減できますが、「詳しく知りたい」という方もいるでしょう。

そこで本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の9次公募における申請枠や補助上限、申請の流れについて解説します。

目次
  1. 1. 事業承継・引継ぎ補助金とは
  2. 2. 【2024年9次公募】事業承継・引継ぎ補助金の補助率・補助上限額
    1. 2-1. 経営革新枠
    2. 2-2. 専門家活用枠
    3. 2-3. 廃業・再チャレンジ枠
  3. 3. 申請の流れ
  4. 4. 事業承継・引継ぎ補助金の加点ポイント
    1. 4-1. 経営革新枠
    2. 4-2. 専門家活用枠
    3. 4-3. 廃業・再チャレンジ枠
  5. 5. 事業承継・引継ぎ補助金における交付採択率
  6. 6. 【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金で事業展開の負担を軽減しましょう

事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継・引継ぎ補助金とは、中小企業および小規模事業の事業承継・M&Aを支援するための補助金です。主に事業承継やM&Aをきっかけに、経営革新に取り組む企業が対象となり、定められた事業期間中に発生した経費に対して補助金が交付されます。

事業承継・引継ぎ補助金には、事業承継やM&Aの形態に応じた申請枠・類型が設定されており、適したものに申請をします。ただし、補助金の対象となる経費は、申請枠・類型ごとに定められており、指定の経費以外は補助金の対象外です。事業承継・引継ぎ補助金を利用する際は、はじめに申請枠・類型と対象について理解しておく必要があります。

なお、事業承継・引継ぎ補助金は、これまでにも定期的に公募が実施されており、2024年4月に9次公募の受付が開始されました。9次公募でも審査が実施されるので、はじめに申請枠・類型の概要や補助率を把握しておきましょう。

【2024年9次公募】事業承継・引継ぎ補助金の補助率・補助上限額

9次公募には3種類の申請枠が設けられており、それぞれの補助率と補助上限は以下のとおりです。

申請枠

類型

補助率

補助上限額

経営革新枠

創業支援類型

対象経費の2/3 or 1/2以内

600万円

or

800万円以内

経営者交代類型

M&A類型

専門家活用枠

買い手支援類型

補助対象経費の2/3以内

600万円以内

売り手支援類型

補助対象経費の2/3 or 1/2以内

600万円以内

廃業・再チャレンジ枠

廃業・再チャレンジ

(再チャレンジ申請)

補助対象経費の2/3以内

+150万円以内

(参照:事業承継・引継ぎ補助金|経営革新枠 公募要領 9次公募(PDF)
(参照:事業承継・引継ぎ補助金|専門家活用枠 公募要領 9次公募(PDF)
(参照:事業承継・引継ぎ補助金|廃業・再チャレンジ枠 公募要領 9次公募(PDF)

9次公募では、申請枠ごとに類型も設定されており、対象や要件が異なります。それぞれ詳しくみていきましょう。

なお、補助金の対象についてより詳しく知りたい方は、以下の関連記事にて詳細を解説しているので、ぜひあわせてご参照ください。

関連記事:事業承継・引継ぎ補助金の対象となる事業を申請枠ごとに解説

経営革新枠

申請枠

類型

補助率

補助上限額

経営革新枠

創業支援類型

対象経費の2/3 or 1/2以内

600万円 or 800万円以内

経営者交代類型

M&A類型

対象事業

経営者の交代(予定も可)、または事業再編や事業統合などをきっかけに、

引き継いだ経営資源で経営革新・生産性向上を実現するための取り組み

対象経費

店舗等借入費、設備費、原材料費、産業財産権等関連経費、

謝金、旅費、マーケティング調査費、広報費、会場借料費、外注費、委託費

 (参照:事業承継・引継ぎ補助金|経営革新枠 公募要領 9次公募(PDF)

経営革新枠は、事業承継やM&Aをきっかけに、経営革新に取り組む企業を支援するための申請枠です。事業承継やM&Aで引き継いだ経営資源を活用することが前提となり、その際に発生した経費に対して補助金が交付されます。

経営革新枠には「創業支援類型」「経営者交代類型」「M&A類型」の3つの類型があります。
補助率・補助上限額は同条件となっていますが、それぞれに対象と要件が定められています。

創業支援類型(Ⅰ類)

創業支援型は、法人の設立や個人業の開業・創業を支援するものです。主に事業承継やM&Aを実施して開業や創業をする際、自社とは関連性のないほかの事業者が保有する経営資源を引き継ぐときが対象となります。

創業支援類型では、経営資源(設備・従業員・顧客など)の「一体的」な引き継ぎが必要です。「設備のみを引き継ぐ」というような、個別的な経営資源の引き継ぎは該当しないとされています。

経営者交代類型(Ⅱ類)

経営者交代型は、主に社内における事業承継を支援するものです。親族内承継や従業員承継をきっかけに、経営革新に取り組む事業者が対象となります。加えて、後継者候補者が事業承継前に実施した取り組みについても対象です。ただし、経営などに関する実績や知識を有していることなど、承継者に関する要件が定められています。

M&A類型(Ⅲ類)

M&A型は、M&Aをきっかけに経営革新に取り組む企業を支援するものです。同業他社との事業統合や事業再編をはじめとするM&Aで、経営資源を引き継ぐケースなどが該当します。

ただし、親族内承継はM&A類型の対象外です。 加えて株式譲渡によるM&Aの場合には、株式譲渡後の承継者が保有する対象会社の議決権が、過半数以上でなければなりません。

専門家活用枠

申請枠

類型

補助率

補助上限額

専門家活用枠

買い手支援類型

補助対象経費の2/3以内

600万円以内

売り手支援類型

補助対象経費の2/3 or 1/2以内

600万円以内

対象事業

買い手支援類型

  • 事業承継やM&Aによる経営資源の引継ぎをおこなったあとに、
  • シナジーを活かした経営革新の取り組みが見込める
  •  
  • 事業承継やM&Aによる経営資源の引継ぎをおこなったあとに、
  • 地域における経済全体を牽引できる事業の取り組みが見込める

売り手支援類型

  • 地域における経済全体を牽引できる事業おこなっており、
  • 事業承継やM&Aを実施したあとにも、
  • これらの取り組みが第三者を通じて継続されていくことが見込める

対象経費

謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料、廃業費、

廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用

(参照:事業承継・引継ぎ補助金|専門家活用枠 公募要領 9次公募(PDF)

専門家活用枠は、M&Aや事業承継にて専門家を活用する場合に利用できる申請枠です。

在庫廃棄費・解体費・原状回復費など承継で発生する費用に加え、専門家の利用にあたり発生した謝金・外注費・委託費といった費用も補助金の対象となります。ただし、委託費のうちFA・M&A 仲介費用に関しては、「M&A 支援機関登録制度」に登録された業者に対する費用のみが対象です。

なお、本申請枠の基本的な要件は、以下の2つです。

  • 対象期間内に事業承継・M&Aが実施されること
  • 専門家活用枠(9次公募)の公募要領「6-2. 経営資源引継ぎ形態に係る区分整理」で定める形態であること

本申請枠には「買い手支援類型」と「売り手支援類型」の2つの類型があり、利用する際は基本的な要件に加えて、それぞれに定められた要件も満たす必要があります。

買い手支援類型

買い手支援類型は、M&Aで株式や経営資源を「承継する側」が対象です。申請するには、以下にある 2つの要件を満たす必要があります。

事業再編・事業統合で経営資源を譲り受けたあとに、
①シナジーを活かした経営革新などの実施が見込まれること
②地域の雇用をはじめとする地域経済全体を牽引する事業の実施が見込まれること

(参照:事業承継・引継ぎ補助金事務局|専門家活用枠 公募要領 9次公募(PDF)

売り手支援類型

売り手支援類型は、M&Aで株式や経営資源を「譲り渡す側」が対象です。売り手支援類型の申請には、以下の要件を満たす必要があります。

地域の雇用をはじめとする地域経済全体を牽引する事業をおこなっており、事業再編・事業統合されたあとも、これらが第三者によって継続されることが見込まれること。

(参照:事業承継・引継ぎ補助金事務局|専門家活用枠 公募要領 9次公募(PDF)

廃業・再チャレンジ枠

申請枠

廃業・再チャレンジ枠

申請の種類

再チャレンジ申請
(単独申請)

M&A契約が成立しなかった際に発生する廃業と、

再チャレンジへの取り組みを支援する

併用申請

経営革新枠や専門家活用枠を活用したM&Aの実施において、

譲り受けた事業の一部、または既存事業の廃業を支援する

補助率

補助対象経費の2/3以内

補助上限額

+150万円以内

対象事業

▼併用申請

  • 中小企業者が事業承継やM&Aに伴う廃業
  • 経営者の交代またはM&Aなどをきっかけにおこなう、経営革新の際の廃業

▼再チャレンジ申請

  • 中小企業者(その株主でも可)もしくは、
  • 個人事業主が新たにチャレンジするための既存事業の廃業

対象経費

廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用※1

※1 移転・移設費用は、併用申請のみ計上が可能
(参照:事業承継・引継ぎ補助金|廃業・再チャレンジ枠 公募要領 9次公募(PDF)

廃業・再チャレンジ枠は、事業承継やM&Aに伴って発生する廃業を支援するための申請枠です。ほかの申請枠とは異なり、類型ではなく、「再チャレンジ申請」と「併用申請」という2つの申請方法が設けられています。

再チャレンジ申請は、廃業後の再チャレンジが前提です。M&Aが成立しなかったことを理由に、単に廃業するのみの場合には利用できません。一方の併用申請では、経営革新枠や専門家活用枠との併用が前提です。いずれかの採択を受けていない場合には、併用申請は利用できません。

なお、本申請枠には「基本的な要件」と「廃業に伴って求められる行動」の2つの定めがあり、利用するには申請の種類ごとに定められた要件を満たす必要があります。

申請の流れ

事業承継・引継ぎ補助金は、大まかに以下のような流れで進みます。

  1. 自社に適した申請枠・類型の選定と応募要項を確認する
  2. 認定経営革新など支援機関(経営革新枠・廃業・再チャレンジ枠に申請する場合)
  3. 行政ログインサービス「gBizIDプライム」を取得する
  4. 提出書類の策定と準備
  5. 電子システム「jGrants」を利用して申請をおこなう
  6. 審査と交付者の決定
  7. 事業の実施と実績報告
  8. 補助金額の決定と補助金の交付
  9. 後年報告

事業承継・引継ぎ補助金は、電子システム「jGrants」が申請をおこないますが、あらかじめ行政ログインサービス「gBizIDプライム」の取得が必要です。「gBizIDプライム」の取得には、申請から数週間ほどかかるので、gBiz公式サイトより早めに手続きを済ませましょう。申請が受理されると審査が実施され、交付者が決定されます。

事業承継・引継ぎ補助金は、事業の実施後に補助金が交付される仕組みです。まずは事業を実施し、実施した内容をまとめて実績報告をします。その後、実績報告をもとに検査・確認がおこなわれ、補助金額の決定と交付がされます。対象期間外の経費および、申請枠ごとに定められた経費以外は認められないので注意しましょう。

また、経営革新枠と専門家活用枠は、補助金が交付されたあと、定められた期間中の後年報告が必要です。経営革新枠は事業完了年度より5年間、専門家活用枠業完了年度より3年間、毎年指定された方法にて報告をおこないます。

なお、補助金事業のスケジュールは、申請枠によって手順(スキーム)が異なります。詳しい流れを知りたいときは、以下の記事もご参照ください。

関連記事
事業承継・引継ぎ補助金のスケジュールは?3つの申請枠と採択率を高めるポイントも解説
事業承継・引継ぎ補助金を利用する流れは?申請枠も分かりやすく解説

事業承継・引継ぎ補助金の加点ポイント

事業承継・引継ぎ補助金とは?申請枠ごとの補助率や補助上限を解説_1

事業承継・引継ぎ補助金の9次公募では、すべての申請に対して実施される「資格審査」と、資格審査に通過したあとの「書面審査」が実施されます。

「資格審査」は、申請した事業者が応募した申請枠に対して、補助対象者・補助上限額・補助率などが適合しているかを審査されます。

一方の「書面審査」では、提出した交付申請書類などをもとに、申請枠ごとに定められた着眼点にもとづいた審査を実施。たとえば経営革新枠の場合、取組の独創性・実現可能性・収益性などをチェックされます。

なお、事業承継・引継ぎ補助金では、加点ポイント(加点事由)が設けられているのが特徴です。加点ポイントは、申請枠ごとに設定されており、事由に該当するほど審査で有利にはたらく可能性があります。

経営革新枠

経営革新枠は、ほかの申請枠よりも加点ポイントの項目が豊富です。「中小企業の会計に関する指針の適用を受けている」や「健康経営優良法人に認定されている」をはじめ、12項目が設定されています。

また、経営革新枠では、類型独自の加点ポイントが設定されているのが特徴です。たとえば創業支援類型・M&A類型には、「PMI計画書」の作成が加点ポイントとして設けられています。加えて創業支援類型の場合、認定市区町村による「特定創業支援等事業」の支援を受けていることも加点ポイントの項目です。

専門家活用枠

専門家活用枠の加点ポイントは、経営革新枠とほぼ同等です。しかし、類型独自に設定された項目はないため、経営革新枠と比べると少なめの9項目となっています。

なお、経営革新枠と専門家活用枠で共通する「申請時点でワーク・ライフ・バランス推進の取り組みを実施している」とは、女性活躍推進法にもとづく「えるぼし認定」を受けていることなどが該当します。

また、事業場内の最低賃金に関する項目も、経営革新枠と専門家活用枠ともに設定されている項目です。事業化状況報告のときまでに、事業所内の最低賃金を地域別最低賃金+30円以上に賃上げすることを予定しており、従業員に表明していることが必要となります。

廃業・再チャレンジ枠

廃業・再チャレンジ枠の加点ポイントは、ほかの2つの申請枠と項目が大きく異なります。事業所内の最低賃金に関する項目は同じく設定されていますが、以下にある2つを合わせた計3項目が加点ポイントです。

  • 再チャレンジする主体の年齢が若い
  • 再チャレンジの内容が、「起業(個人事業主含む)」「引継ぎ型創業」である

なお、審査の着眼点や加点ポイントについての詳細を知りたいときは、以下の記事もあわせてご参照ください。

関連記事:事業承継・引継ぎ補助金の加点ポイントや申請の流れを解説

事業承継・引継ぎ補助金における交付採択率

以下は、5~7次公募までの採択率です。

 

経営革新

専門家活用

廃業・再チャレンジ

5次公募

60.1%

申請数:309

採択数:186

60.7%

申請数:453

採択数:275

45.9%

申請数:37

採択数:17

6次公募

61.0%

申請数:357

採択数:218

60.2%

申請数:468

採択数:282

62.1%

申請数:37

採択数:23

7次公募

60.7%

申請数:313

採択数:190

60.0%

申請数:498

採択数:299

35.7%

申請数:28

採択数:10

まず応募数を見てみると、専門家活用枠がよく利用されていることがわかります。採択率では多少の幅はあるものの、およそ60%が平均です。過去のデータをみると、毎回半数以上の事業者が補助金の交付決定を受けているため、狭き門とはいえないでしょう。

ただし、補助金の申請にはさまざまな手続きと準備が必要です。現実的でない取り組みや明確でない部分があると、審査を通過できない可能性が高まります。もしも自社のみでの対応が難しいようであれば、支援機関への相談やサポート依頼を検討しましょう。

【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金で事業展開の負担を軽減しましょう

事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継に関する費用を支援してくれるものです。補助金を活用できれば、事業承継における費用負担を軽減できます。

ただし、本補助金は申請枠によって補助率や補助上限が異なり、それぞれに補助対象事業・要件・対象経費などが設定されています。申請時には、審査が実施されるので、審査の着眼点に沿った事業計画を立てましょう。審査を有利に進めるには、加点ポイントをできる限り満たしておくのがおすすめです。

申請には、必要書類の策定をはじめ、さまざまな準備が必要となるため、ゆとりをもったスケジュールで進めましょう。