障害者雇用納付金制度とは?種類別に詳細も解説
障害者雇用納付金制度は、一定規模の企業に障害者雇用を義務付け、条件を満たせば給付金を支給する制度です。しかし、制度を活用するには条件がわかりにくいのも事実。本記事を読むことで、障害者雇用納付金制度について、受給条件や金額、手続き方法などについて理解できるようになります。ぜひご活用ください。
障害者雇用納付金制度とは
障害者雇用給付金制度とは、障害者の雇用の促進と職業の安定を図るための制度。障害者を雇用することは、事業主の共同責任であるという理念に基づいて、常用雇用労働者数100人以上の企業には障害者法定雇用率(2.3%)が課せられています。
しかし、障害者を雇用するには相応の設備や社内制度の整備などのためにある程度の投資が必要。
そのため、障害者法定雇用率を達成している企業には「助成金」を支給して、障害者雇用で発生する経済的負担の一部を助成します。かわりに、障害者法定雇用率を達成できない事業主からは「納付金」を納めてもらい、制度に貢献してもらうのです。
納付金として徴収されたお金は、以下の財源として利用されます。
- 障害者雇用調整金
- 報奨金
- 在宅就業障害者特例調整金
- 在宅就業障害者特例報奨金
- 特例給付金及び各種助成金
このように、障害者雇用納付金制度は障害者の雇用を促すためのインセンティブとして機能し、社会全体で障害者の就労機会を増やすことを目指しています。
障害者雇用納付金制度で支給される調整金・報奨金
支給される調整金・報奨金には以下の5種類があります。それぞれの詳しい条件や受給額などを解説します。
なお、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金の受給額に関しては金額の決まり方がやや複雑なので、後ほどのそれぞれの詳しい説明の中で解説しています。
調整金・報奨金 |
概要 |
受給額 |
障害者雇用調整金 |
常用雇用労働者数の総数が100人を超えていて、 常用障害者数が法定雇用障害者数を 超えている事業主に対して支給 |
2.7万円/人 |
報奨金 |
常用雇用労働者が100人以下で、 常用障害者数が一定数を超えている 事業主に対して支給 |
2.1万円/人 |
在宅就業障害者 特例調整金 |
在宅就業障害者に仕事を発注した 納付金申告事業主に対して支給 |
詳細は後述 |
在宅就業障害者 特例報奨金 |
在宅就業障害者に仕事を発注した 報奨金申請対象事業主に対して支給 |
詳細は後述 |
特例給付金 |
特定短時間労働者である障害者を雇用する事業主に対し、 事業主の区分に応じた額を支給 |
0.7万円または 0.5万円/人 |
障害者雇用調整金
常用雇用労働者数が100人を超えていて、常用障害者数(障害者の雇用人数のこと)が法定雇用障害者数を超えている事業主に対して支給されます。
対象事業主
事業主は、以下の条件を満たす必要があります。
- 前年度の各月の常用雇用労働者数が100人を超えている月が5ヶ月以上ある
- 前年度の各月の常用障害者数の年間合計が、法定雇用障害者数(常用雇用労働者数×2.3%)の年間合計を上回っている
例)常用雇用労働者数が120人、短時間労働者数が6人の場合(短時間労働者は0.5人換算)
(120人+(6人×0.5))×2.3%=2.82人となり、毎月2人以上の障害者を雇用する必要があります(小数点は切り捨て)。
支給額
法定雇用障害者数を上回った人数に対し、一人当たり2.7万円支給されます。支給額は、以下の式で計算できます。
(常用障害者の年度間合計数ー法定雇用障害者数の年度間合計数)×2.7万円
例)常用障害者の年度間合計数36人、法定雇用障害者数の年度間合計数24人の場合
(36人ー24人)×2.7万円=32.4万円
申請に必要な書類
必要な書類は以下のとおり。
- 納付金申告書
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅰ)
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者以外の常用雇用労働者用〕」
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者用」
- 分割支給先一覧表 (※支給金の申請を行う場合で、特例子会社等への分割支給の申請を行う場合のみ作成)
- 源泉徴収票(常用雇用労働者の総数が300人以下の場合)
- 障害者手帳(常用雇用労働者の総数が300人以下の場合)
各種申請書は作成・申請ともに電子申告申請システムから行います。
申請期間
4月1日から5月15日まで(2023年の場合)
報奨金
常用雇用労働者が100人以下で、常用障害者数が一定数を超えている事業主に対して支給されます。
対象事業主
事業主は、以下の条件を満たす必要があります。
- 前年度の各月の常用雇用労働者数が100人以下の月が8ヶ月以上ある
- 前年度の各月の常用障害者数の年間合計が、以下のいずれか多い数を超えている
・72人
・各月ごとの常用雇用労働者数の4%を合計した数
例)常用雇用労働者数が50人、短時間労働者数が10人の場合(短時間労働者は0.5人換算)
(50人+(10人×0.5))×4%=2.82人となり、毎月2人以上の障害者を雇用する必要があります(小数点は切り捨て)。
つまり「各月ごとの常用雇用労働者数の4%を合計した数」は年間24人となり、72>24であるため、「各月の常用障害者数の年間合計」は72人以上である必要があります。
支給額
支給額は、以下の式で計算できます。
(各月ごとの常用障害者数の年度間合計数ー「各月ごとの算定基礎日における常用雇用労働者数に4%を乗じて得た数の年度間合計数」または「72人」)×2.1万円
例)常用障害者の年度間合計数117人の場合
(117人ー72人)×2.1万円=94.5万円
申請に必要な書類
必要な書類は以下のとおり。
- 報奨金支給申請書
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅰ)
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者以外の常用雇用労働者用〕」
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者用」
- 分割支給先一覧表 (※支給金の申請を行う場合で、特例子会社等への分割支給の申請を行う場合のみ作成)
- 源泉徴収票
- 障害者手帳
申請は電子申告申請システムから行います。
申請期間
4月1日から7月31日まで(2023年の場合)
在宅就業障害者特例調整金
在宅就業障害者に仕事を発注した事業主に対して支給されます。
対象事業主
事業主は、以下の条件を満たす必要があります。
- 2023年度障害者雇用納付金申告事業主もしくは障害者雇用調整金支給申請事業主であること
- 前年度に在宅就業障害者または在宅就業支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払っていること
支給額
支給額は、以下の式で計算できます。
(年間の在宅就業障害者への支払い総額 / 35万円)× 2.1万円
申請に必要な書類
必要な書類は以下のとおり。
- 納付金申告書
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅰ)
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者以外の常用雇用労働者用〕」
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者用」
- 在宅就業契約報告書
- 発注証明書(在宅就業契約報告書)
- 分割支給先一覧表 (※支給金の申請を行う場合で、特例子会社等への分割支給の申請を行う場合のみ作成)
- 源泉徴収票(常用雇用労働者の総数が300人以下の場合)
- 障害者手帳(常用雇用労働者の総数が300人以下の場合)
申請は電子申告申請システムから行います。
申請期間
4月1日から5月15日まで(2023年の場合)
在宅就業障害者特例報奨金
在宅就業障害者に仕事を発注した事業主に対して支給されます。
対象事業主
事業主は、以下の条件を満たす必要があります。
- 2023年度報奨金申請対象事業主であること
- 前年度に在宅就業障害者または在宅就業支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払っていること
支給額
支給額は、以下の式で計算できます。
(年間の在宅就業障害者への支払い総額 /35万円)× 1.7万円
申請に必要な書類
必要な書類は以下のとおり。
- 報奨金支給申請書
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅰ)
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者以外の常用雇用労働者用〕」
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者用」
- 在宅就業契約報告書
- 発注証明書(在宅就業契約報告書)
- 分割支給先一覧表 (※支給金の申請を行う場合で、特例子会社等への分割支給の申請を行う場合のみ作成)
- 源泉徴収票
- 障害者手帳
申請は電子申告申請システムから行います。
申請期間
4月1日から7月31日まで(2023年の場合)
特例給付金
特定短時間労働者である障害者を雇用する事業主に対し、事業主の区分に応じた額を支給します。
対象事業主
事業主は、以下の条件を満たす必要があります。
- 障害者を常用雇用している事業主であること
- 所定労働時間が週10時間以上20時間未満勤務の障害者を雇用していること
支給額
支給額は、以下の式で計算できます。
所定労働時間10時間以上20時間未満の障害者の合計数 × 7,000円または5,000円
※申告義務がある事業主の場合は7000円、ない事業主の場合は5000円
※「申告義務のある事業主」とは、前年度の各月の常用雇用労働者数が100人を超えている月が5ヶ月以上ある事業主のこと
申請に必要な書類
必要な書類は以下のとおり。
- 特例給付金支給申請書
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅰ)
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者以外の常用雇用労働者用〕」
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者用」
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「特定短時間労働者用」
- 分割支給先一覧表 (※支給金の申請を行う場合で、特例子会社等への分割支給の申請を行う場合のみ作成)
- 源泉徴収票(常用雇用労働者の総数が300人以下の場合)
- 障害者手帳(常用雇用労働者の総数が300人以下の場合)
申請は電子申告申請システムから行います。
申請期間
申告義務がある事業主の場合:4月1日から5月15日まで
申告義務がない事業主の場合:4月1日から7月31日まで
(2023年の場合)
障害者雇用納付金制度で徴収される納付金
ここからは、障害者雇用納付金制度で徴収される納付金の納付額や対象事業主などについて解説し
ます。
障害者雇用納付金
常用雇用労働者数が100人を超えていて、常用障害者数が法定雇用障害者数を下回る場合、1人あたり月5万円を徴収する制度です。
対象事業主
以下の条件を満たす事業主が対象となります。
- 前年度の各月の常用雇用労働者数が100人を超えている月が5ヶ月以上あること
- 前年度の各月の常用障害者数の年間合計数が、各月の法定障害者数の年間合計数に満たないこと
納付額
納付額は、以下の式で計算できます。
(法定障害者数の年間合計数 ー 常用障害者数の年間合計数)× 5万円
例)「法定障害者数の年間合計数」が50人で「常用障害者数の年間合計数」が30人の場合
50人 ー 30人 = 20人 × 5万円 = 100万円
申告に必要な書類
必要な書類は以下のとおり。
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅰ)
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者以外の常用雇用労働者用〕」
- 障害者雇用状況等報告書(Ⅱ)「短時間労働者用」
申請は電子申告申請システムから行います。
申告期限
4月1日から5月15日まで(2023年の場合)
障害者雇用納付金制度で申請する流れ
画像引用:障害者雇用納付金「電子申告申請システム」
原則として、障害者雇用納付金制度の申請は電子申告申請システムから行います。もし電子申告申請ができない場合は、最寄りの各都道府県支部申告申請窓口に郵送または持参して提出してください。
電子申告申請システムでの流れは以下の通りです。納付金を納める場合も助成金をもらう場合も申請の流れは同じです。
- 電子申告申請用ID・パスワードの取得
- 申告申請書を作成
- ログインして申告申請書と添付書類データを送信
- 審査結果メールの受信
障害者雇用納付金制度の申告、申請時の注意点
罰金が存在する
障害者雇用納付金制度では、申告義務と納付義務を怠ると罰金を課されます。
申告義務を怠った場合、納付すべき額に10%を加算した追徴金が課されます。100人前後の常用雇用者を抱える事業主は、申告義務の有無は常に意識しておくべきでしょう。
また、納付義務を怠った場合、未納付時に年14.5%の割合で延滞金を支払う必要があります。未納付が発覚すると督促状が届きますので、速やかに納付することをおすすめします。
自社が申告義務のある事業主か確認する
前年度の各月の常用雇用労働者数が100人を超えている月が5ヶ月以上ある事業主には、障害者雇用納付金制度の申告義務が発生します。
自社が申告義務の対象になるかどうかは独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者雇用納付金制度記入説明書で確認することをおすすめします。
障害者雇用納付金制度の各納付金・調整金の詳細を説明しました
本記事では、障害者雇用納付金制度の各納付金・調整金の詳細を説明しました。
障害者雇用納付金制度は、社会全体で障害者の雇用促進と職業安定を図るための制度です。そのため、一定の従業員を抱える企業は制度に参加する義務が発生します。障害者の雇用を検討しているのであれば、助成金の活用も視野に入れてみてください。