キャリアアップ助成金とは?コースや申請方法、注意点を解説
非正規雇用労働者を正社員に近い待遇にしてモチベーションアップにつなげたいが、人件費がかさむとお悩みではありませんか?
キャリアアップ助成金には様々なコースがあり、非正規労働者の待遇改善に利用できます。この記事では、キャリアアップ助成金の申請方法・流れやコースごとのキャリアアップ助成金の支給金額や期限などについて解説。
ただし、あくまでも2023年3月時点の情報であり、最新版ではありません。
最後まで読めば、キャリアアップ助成金の内容を理解し、申請するか判断できます。また、申請するときのフローもわかり、資金不足改善のためのアクションを起こすことが可能です。
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、以下のような非正規雇用労働者の正社員化、待遇改善をした事業主に助成する制度のことです
- 有期雇用労働者
- 短時間労働者
- 派遣労働者
キャリアアップ助成金には以下の7つのコースがあります。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース(令和4年9月末をもってコース廃止)
- 短時間労働者労働時間延長コース
キャリアアップ助成金の目的
キャリアアップ助成金の目的は非正規雇用労働者の処遇改善。対象となる事業主は以下の通りです。
コース |
対象事業主 |
正社員化コース |
非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換 |
障害者正社員化コース |
障害のある非正規雇用労働者を正規雇用労働者等に転換 |
賃金規定等改定コース |
非正規雇用労働者の基本給の賃金規定等を改定し 3%以上増額 |
賃金規定等共通化コース |
非正規雇用労働者と正規雇用労働者との同等の賃金規定を 新たに規定 |
賞与・退職金制度導入コース |
非正規雇用労働者に賞与・退職金制度を導入し支給 |
選択的適用拡大導入時処遇改善コース |
短時間労働者の意向を把握し、社会保険に加入 |
短時間労働者労働時間延長コース |
非正規雇用労働者の週所定労働時間を 3時間以上延長し社会保険を適用 |
事業主の共通要件は以下の通り。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- キャリアアップ管理者を配置
- キャリアアップ計画を策定し管轄労働局長から認定
- 就業規則の作成・改定
- 非正規雇用労働者に対するキャリアアップへの取り組み
キャリアアップ助成金の対象となる中小企業の範囲
キャリアアップ助成金の対象となる中小企業の範囲は以下の通りです。
資本金の額・出資の総額 |
労働者数 |
|
小売業(飲食店を含む) |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
キャリアアップ助成金の申請方法・流れ
ここでは正社員化コースの例について解説します。
キャリアアップ計画書を提出する
まず、「キャリアアップ計画書」の作成が必要。キャリアアップ計画書とは、キャリアアップを計画的に進めるため、今後の取り組みを以下のように記載したものです。
- 対象者
- 目標
- 期間
- 事業主が行う取り組み
最寄りの労働局に提出し、認定後、直接雇用を実施する前日までに提出します。
キャリアアップ助成金の申請期間は以下の通りです。
- 正規雇用転換日:キャリアアップ計画期間内
- 申請期間:正規雇用転換後半年分の賃金支払日翌日から2か月以内
申請書類は以下の通り。
項目 |
書類 |
申請書類 |
|
添付書類 |
|
就業規則を改訂して正社員へ転換する
最寄りの労働基準監督署に改定後の就業規則の届け出が必要です。転換制度を規定している場合でも、以下の規定は必須です。
- 試験等の手続き
- 対象者の要件
- 転換実施時期
雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に渡し、労働条件・待遇の変更も必要です。
転換後賃金支払いを実施し助成金の支給申請を行う
転換後半年間の賃金を転換前半年間の賃金と比べて3%以上の増額が必要。3%以上増額にならない場合、不支給となってしまいます。
詳細については後述の「正社員化コース」をご覧ください。
転換後半年分の賃金(残業代等を含む)を支給した日の翌日から起算して2か月以内に支給申請する必要があります。審査に通過すると受給可能。
コースごとのキャリアアップ助成金の支給金額や期限
コースごとのキャリアアップ助成金の支給金額について解説します。
正社員化コース
正社員化コースとは、非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換、直接雇用した場合に、事業主に助成する制度。
正規雇用労働者に転換した対象労働者に対し、正規雇用労働者の賃金半年分(直接雇用前の6か月間の賃金より3%以上増額)を支給した日の翌日から2か月以内に申請する必要があります。
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
正規雇用労働者へ転換した場合でも、合理的な理由がなく基本給・諸手当の低下が見られると、支給対象にならない場合があります。
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
加算措置を含め、支給額の概要は下記の通りです。
項目 |
助成金額 |
支給額 |
(1)有期 → 正規: 57万円<72万円>(42万7,500円<54万円>)/人 (2)無期 → 正規: 28万5,000円<36万円>(21万3,750円<27万円>)/人 |
加算措置 |
28万5,000円<36万円>(大企業も同額)
(1)95,000円<12万円>/人 (2)47,500円<60,000円> /人 (大企業も同額)
(1)95,000円<12万円>/人 (2)47,500円<60,000円> /人 (大企業も同額)
95,000円<12万円>(71,250円<90,000円>)/事業所 |
※< >は生産性が向上した場合の金額、( )内は大企業の金額
障害者正社員化コース
障害者正社員化コースとは、障害者の雇用促進と職場定着を目的として助成を行います。
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
支給申請期間は以下の通りです。
項目 |
助成金額 |
第1期 |
最初の半年分支給した翌日から2か月以内に申請 |
第2期 |
第1期支給対象期後の半年分に関する賃金を 支給した日の翌日から2ヶ月以内に申請 |
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
項目 |
キャリアアップ助成金 (障害者正社員化コース) |
|
訓練対象 障害者 |
|
|
支給額 |
重度障害者 ・精神障害者 |
120万円(90万円)/人 60万円 × 2期(45万円 × 2期)
60万円(45万円)/人 30万円 × 2期(22.5万円 × 2期)
60万円(45万円)/人 |
重度以外の 障害者 |
90万円(67.5万円)/人 45万円 × 2期(33.5万円 × 2期)
45万円(33万円)/人 22.5万円 × 2期(16.5万円 × 2期)
45万円(33万円)/人 22.5万円 × 2期(16.5万円 × 2期) |
※( )内は中小企業以外の額
賃金規定等改定コース
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
賃金規定等改定コースとは、一部の非正規雇用労働者の基本給に関する賃金規定等を2%以上増額改定し、昇給させた場合に助成。
賃金を増額改定した場合の適用条件は以下の通りです。
- 増額改定前の基本給に比較し2%以上昇給
- 中小企業:3%以上増額改定し、加算適用時、3% 以上昇給
- 中小企業:5%以上増額改定し、加算適用時、5% 以上昇給
対象労働者の賃金規定改定後半年分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請します。
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
加算措置を含め、支給額の概要は下記の通りです。
項目 |
助成金額 |
支給額 |
(1)1~5人: 32,000円 <40,000円>(21,000円<26,250円>)/人 (2)6人以上: 28,500円 <36,000円>(19,000円<24,000円>)/人 |
加算措置 |
14,250円 <18,000円>/人
23,750円 <30,000円>/人
19万円 <24万円>(14万2,500円<18万円>)/事業所 |
※< >は生産性が向上した場合の金額、( )内は大企業の金額
賃金規程等共通化コース
賃金規程等共通化コースとは、就業規則において有期雇用労働者等を正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定を新たに作成し、適用した場合に助成。
賃金規定等の有期雇用労働者等と正規雇用労働者区分について以下の要件を満たす必要があります。
- それぞれ3区分以上設けている
- 同一の区分を2区分以上設け1区分以上を適用
- 有期雇用労働者の賃金が正規雇用労働者と同額以上
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
対象労働者の賃金規定等共通化後半年分の賃金を支給した日の翌日より2か月以内に申請する必要があります。
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
加算措置を含め、支給額の概要は下記の通りです。
項目 |
助成金額 |
支給額 |
57万円<72万円>(42万7,500円<54万円>)/事業所 |
※< >は生産性が向上した場合の金額、( )内は大企業の金額
賞与・退職金制度導入コース
賞与・退職金制度導入コースとは、非正規雇用労働者に関して、賞与・退職金制度を設け、支給した場合に助成。
助成されるのは以下の要件を満たした場合です。
- 賞与:半年分相当として50,000円以上支給
- 退職金:1か月分相当として3,000円以上を半年分/半年分相当として18,000円
項目 |
助成金額 |
支給額 |
38万円<48万円>(28万5,000円<36万円>)/事業所 |
加算措置 |
16万円<19万2,000円>(12万円<14万4,000円>)/事業所 |
対象労働者に、初回賞与の支給または退職金に関する積立て後半年分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請。
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
選択的適用拡大導入時処遇改善コース
選択的適用拡大導入時処遇改善コースとは、有期雇用労働者等の意向を把握し、対象労働者を新たに社会保険に加入させた場合に助成。加算措置は有期雇用労働者の基本給を一定の割合以上増額した場合に加算されます。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースは令和4年9月30日までの時限措置のため、注意が必要です。
項目 |
助成金額 |
支給額 |
19万円<24万円>(14万2,500円<18万円>)/事業所 |
加算措置 |
19,000円 <24,000円>(14,000円<18,000円>)/人
29,000円 <36,000円>(22,000円<27,000円>)/人
47,000円 <60,000円>(36,000円<45,000円>)/人
66,000円 <83,000円>(50,000円<63,000円>)/人
94,000円<11万9,000円>(71,000円<89,000円>)/人
13万2,000円<16万6,000円>(99,000円<12万5,000円>)/人
10万円(75,000円)/事業所
|
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
社会保険適用日以降半年分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に支給申請します。
短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者労働時間延長コースとは、有期雇用労働者等について、以下のように待遇を改善し社会保険に加入させた場合に助成。
- 勤務時間を1週間につき3時間以上延長
- 勤務時間を1週間につき1時間以上3時間未満延長
項目 |
助成金額 |
|
短時間労働者 |
22万5,000円<28万4,000円>(16万9,000円<21万3,000円>)/人 |
|
労働者 |
要件 |
|
支給額 |
55,000円 <70,000円>( 41,000円 <52,000円>)/人
11万円 < 14万円>( 83,000円<10万5,000円>)/人 |
画像引用:キャリアアップ助成金パンフレット
短時間労働者の勤務時間延長後半年分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に支給申請します。
キャリアアップ助成金が支給されないケース
キャリアアップ助成金が支給されないケースについて解説します。
実地調査に協力しなかった
管轄労働局は申請した企業の調査を実施。雇用関係助成金に共通の要件は下記の通りです。
1 雇用保険適用事業所の事業主であること(雇用保険被保険者が存在する事業所の事業主であること)
2 支給のための審査に協力すること
(1)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
(2)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること
(3)管轄労働局等の実地調査を受け入れること など
3 申請期間内に申請を行うこと“
上記のように、労働局の実地調査を拒否すると助成金は不支給となります。また、調査時に総勘定元帳や賃金台帳を不正に改ざんし、発覚した場合も不支給の対象です。
受給後の会計監査員検査に協力しなかった
キャリアアップ助成金の書類に関しては、5年間保存する義務があります。助成金受給後、会計検査院の検査がある場合も。
検査への協力に同意しないと、不支給となってしまいます。労働局に提出した支給申請書、添付書類の写しは必ず保管しておきましょう。
書類不備などに対して対応しなかった
一度提出された書類は、事業主の都合で差し替えや訂正ができません。慎重に確認してから提出しましょう。
また、申請書等に疑義があると、都道府県労働局長が追加書類を求めたり、書類修正の必要があります。都道府県労働局長が指定した期日までに提出できないと、不支給となります。
過去1年以内に法令違反をしたことがある
過去1年以内に労働基準法違反があると、不支給になります。以下の点についても、法律違反となっていないか確認する必要があります。
- 残業代の算出方法
- 労働時間
- 有給休暇付与・取得
例えば、支払うべき残業代を支払っていない場合、労働基準法37条に違反します。助成金を受給する場合、労働法関係の諸法令に適合させなくてはいけないと覚えておきましょう。
不正受給をしてから5年以内に申請した
助成金は要件を満たさず受給すると不正受給になってしまいます。不正受給が発覚すると5年間の不支給措置に。
よって、不正受給をしてから5年以内に申請すると不正受給扱いになります。不正受給が発覚すると、助成金の全額請求だけではなく不正受給額の2割相当額を返還請求されます。
また、企業名も公表され信用を失ってしまうため注意が必要です。
キャリアアップ助成金の審査は厳しいのか?
「支給されないケース」からわかる通り、キャリアアップ助成金の審査は厳しく設定されています。
特に気をつけるべき点は下記の通り。
- 就業規則を改定していない
- 就業規則に非正規雇用労働者と正規雇用労働者の違いが明記されていない
- 転換前半年間の賃金より3%以上増額が守られていない
- 諸手当の算定方法を就業規則に記載していない
- 対象労働者が転換時に定年年齢まで1年未満である
- 月額給与(基本給+諸手当)が減額されている
- 対象労働者が雇用保険・社会保険に未加入である
- 支給決定時に雇用保険被保険者が0名である
- 転換日の前後半年間に対象労働者が会社都合退職をしていた
不安であれば社労士やハローワークなどに相談するのがおすすめです。キャリアアップ助成金は労働法関係の諸法令に適合させるなど、法律の知識が必要。社内に法務スタッフがいない場合、申請には手間と時間がかかります。
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キャリアアップ助成金のコース・申請方法・注意点を解説しました
キャリアアップ助成金について知りたい方向けに、キャリアアップ助成金の申請方法・流れやコースごとのキャリアアップ助成金の支給金額や期限などを解説しました。
キャリアアップ助成金には以下の7つのコースがあります。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース(令和4年9月末をもってコース廃止)
- 短時間労働者労働時間延長コース
本記事で紹介した内容をもとに、キャリアアップ助成金の申請を検討してみましょう。