キャリアアップ助成金の不正受給の実態|発覚理由やペナルティを紹介
キャリアアップ助成金の申請を検討しているものの、不正受給にならないか心配に思う企業の担当者も多いでしょう。
本記事では、キャリアアップ助成金の不正受給に関する実態やペナルティなどを解説します。ぜひ申請時の参考にしてみてください。
キャリアアップ助成金の不正受給の実態
会計検査院の令和3年度検査報告によると、平成29年度〜令和3年度の検査対象にしたキャリアアップ助成金等の支給件数は491,046件でした。代理人等が関与した不正受給の有無に関するキャリアアップ助成金等の支給件数は50件、そのうち不正受給であることが判明したものは22件でした。
不正受給が判明した助成金の支給額は4,300万円で、代理人が申請したものだけでもかなりの被害が確認されています。
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進することを目的に正社員化や処遇改善などを実施する事業主を支援する制度です。労働者の意欲や能力を高めたり、事業の生産性を向上させたりするために利用されています。
キャリアアップ助成金には、以下のコースが設けられています。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
キャリアアップ助成金については、以下の関連記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:キャリアアップ助成金とは?コースや申請方法、注意点を解説
キャリアアップ助成金の不正受給によるペナルティ
キャリアアップ助成金の不正受給が発覚すると、様々なペナルティが課せられます。
不支給の決定
キャリアアップ助成金の受給前であれば、お金が振り込まれていない状態のため不支給が決定します。たとえ審査が通っていたとしても、趣旨・目的に沿った取り組みではないと判断されたら、事業完了後に助成金を受け取れません。
助成金の返還と延滞金の支払い
助成金の受給後は、原則、全額を返還する必要があります。さらに、受給した日の翌日から返還を終了する日までの期間に対し年3%の延滞金、返還額の20%の額が違約金として請求されます。
雇用関係の助成金を5年間受給できない
キャリアアップ助成金の不正受給をすると、雇用関係の助成金を5年間受給できなくなります。その間、雇用関係の事業を行うために費用が必要になって助成を受けたくても、制度を利用できません。
事業者名が公開される
キャリアアップ助成金は労働局やハローワークで申請の審査を行います。不正受給が発覚した後は、都道府県ごとの労働局やハローワークなどで事業者名が公表されます。
公表される内容は、以下のとおりです。
- 会社名
- 代表者名
- 所在地
- 事業の概要
- 助成金名
- 不正受給の金額(返還状況)
- 不正受給の内容
上記の情報は誰でも閲覧できてしまうため、自社が掲載されると取引先に知られてしまい今後の事業活動に影響が出る可能性があります。
刑事告発される
キャリアアップの不正受給は、場合によって刑事告発される可能性があります。例えば、代表者の詐欺未遂、有印私文書偽造などの罪が挙げられます。実際に書類創建された事案が発生しているので、不正受給をしないように注意しましょう。
キャリアアップ助成金の不正受給はいつ発覚するのか
実際にキャリアアップ助成金の不正受給が発生していますが、どのような理由で発覚するのかみていきましょう。
書類確認時
キャリアアップ助成金の審査は厳密に行われています。審査は書類で行われますが、審査担当者が細かい部分まで確認しています。矛盾点があれば指摘され、適切な回答ができなければ不正受給と判断されてしまうでしょう。
実地調査時
キャリアアップ助成金の支給を受けるには、実地調査が行われるケースがあります。実地調査は予告なしで行われ、出勤簿・賃貸台帳などの提出が求められます。書類での報告と実態に矛盾があると、不正受給の対象になるでしょう。
また、実地調査を求められたときに拒否すると、調査員が真偽を確認できないため助成金が支給されません。
受給後の会計検査院の検査時
キャリアアップ助成金は、受給後に会計検査院による検査の対象になるケースもあります。検査を求められた場合は従わなければならず、同意して協力しないと助成金が支給されません。
検査では必要な書類をスムーズに提出できるように、支給決定から5年間は書類を整理・保管してください。
書類の疑義に適切な対応ができないとき
キャリアアップ助成金の申請の中で、労働局・ハローワークから書類内容の質問をされるケースがあります。その際に、書類の補正・追加書類の提出など適切な対応をしなければ不支給の対象になります。
周囲から告発されたとき
キャリアアップ助成金を申請する際は、複数人で確認をしながら行うケースがあるでしょう。その場合、申請に関わった人からの告発によって、不正受給が発覚する可能性があります。
雇用関係の助成金の不正受給事例
ここからは、雇用関係の助成金の不正受給事例をみていきましょう。
虚偽の申請書類の作成・提出
令和4年6月9日に東京都渋谷区に拠点を置いて宝石類・衣類のリユース事業を行う企業で、雇用調整助成金および緊急雇用安定助成金の不正受給が発覚しています。
教育訓練に取り組んでいないにもかかわらず、虚偽の申請書類を作成し、助成金を不正に受給していました。また、十分な勤怠管理ができていないのに休業したとする申告書類を作成・提出しており、2つの助成金をあわせて約2億700万円が支給されています。
本事例はペナルティとして、東京労働局の「不正受給による公表事案」での公表、不正受給した分の全額返還が課されています。
不支給要件に該当する事業主による申請
令和5年4月28日に東京都豊島区に拠点を置き小売業を行う企業で、雇用調整助成金の不正受給が発覚しました。同社は助成金の不支給要件に該当する事業主でしたが、虚偽の申請書類を作成して429万円の助成金を不正受給していました。
本事例のペナルティとして、東京労働局の「不正受給による公表事案」での公表と助成金の全額返還が課されています。
キャリアアップ助成金の不正受給についてまとめました
キャリアアップ助成金は多数の不正受給が発覚しています。実地調査や会計検査院の検査など、様々な理由により不正受給が見つかる可能性があるでしょう。
不正受給が発覚すると、助成金の全額返還や事業者名の公表などのペナルティが課せられます。本記事を参考に正しい申請を行いましょう。