事業承継・引継ぎ補助金の売り手支援類型とは?補助対象の事業要件や補助上限額を解説!
会社売却を視野にM&Aを検討しているが、どういうパターンなら事業承継・引継ぎ補助金の売り手支援類型を利用できる?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、補助対象事業の要件や補助上限額など、事業承継・引継ぎ補助金の売り手支援類型を解説していきます。
事業承継・引継ぎ補助金の売り手支援類型とは
売り手支援類型とは、事業承継・引継ぎ補助金の申請枠「専門家活用枠」に用意された2つの申請類型の1つのこと。他社へ経営資源を譲渡することで、地域の雇用創出や経済活性化などのシナジー効果を生み出す、中小企業のM&Aを支援する補助金制度です。
売り手支援類型は、主にM&A仲介業者やファイナンシャルアドバイザー(FA)などの専門家報酬の補助を目的としますが、対象事業者/ 要件が気になる方は多いはず。しかしその前に、制度の全体像を把握するため、事業承継・引継ぎ補助金の概要を押さえておくことが重要です。
事業承継・引継ぎ補助金の概要
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継・M&Aを契機に、新たな事業や事業再編に取り組む中小企業を支援する補助金制度のこと。中小企業生産性革命推進事業「事業承継・引継ぎ補助金」を正式名称とし、中小企業の生産性向上を地域の雇用創出や経済発展につなげていくことが目的です。
そのため、経営資源の譲渡に向けた売り手支援類型だけでなく、承継後の新事業支援など、事業承継・M&Aに関連するさまざまな局面で利用できることが特徴です。
事業承継・引継ぎ補助金の補助事業期間
3つの申請枠が用意された事業承継・引継ぎ補助金は、対象事業を補助事業期間内に実施 / 完了させることが原則。補助事業期間とは、一般的に「交付日から補助事業の最終日まで」を意味します。
たとえば、事業承継・引継ぎ補助金の9次公募の場合、申請期間は2024年4月1日〜30日、補助事業の最終日は11月22日。申請が採択され、6月23日に交付されるのであれば、補助事業期間は6月23日〜11月22日までの約5か月です。
事業承継・引継ぎ補助金に限らず、補助金制度は常に公募しているわけではないため、申請を検討している方は公式サイトをこまめにチェックしましょう。
事業承継・M&A後の取り組みを支援する「経営革新枠」
上述したように、事業承継・引継ぎ補助金には、売り手支援類型を含む専門家活用枠のほかに、2つの申請枠があります。そのうちの1つが経営革新枠。経営革新枠とは、革新的な製品・サービスの開発、事業再編による生産性向上など、事業承継・M&A後の新たな事業に取り組む中小企業を支援する申請枠です。
経営革新枠の補助対象経費は、店舗等借入費、設備費、原材料費など、新たな事業に関する費用。事業承継の形態に応じ、以下、3つの申請類型を選択できます。
経営革新枠の申請類型 |
概要 |
創業支援類型(I型) |
廃業を予定している事業者などから経営資源を引継ぎ、 譲り受けた者が中小企業等を設立、個人事業主として開業する場合 |
経営者交代類型(II型) |
個人事業主の被承継者が親族などの承継者に事業譲渡する、 あるいは同一法人内の代表者を変更する場合など |
M&A類型(Ⅲ型) |
M&Aによって経営資源(設備、人材など)を引き継ぐ場合 |
事業再編等に伴う廃業を支援する「廃業・再チャレンジ枠」
もう1つ、事業承継・引継ぎ補助金に用意されている申請枠が、廃業・再チャレンジ枠です。廃業・再チャレンジ枠とは、M&A時、またはM&A後の事業再編時にともなう会社 / 一部事業の廃業を支援する申請枠のこと。在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費、移転・移設費用などが補助対象経費となり、以下、4つが補助事業の対象です。
- 事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業
- M&Aで事業を譲り受けた際の廃業
- M&Aで事業を譲り渡した際の廃業
- M&Aで事業譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ申請
売り手支援類型を含む「専門家活用枠」
大まかな概要を把握できたところで、売り手支援類型を含む事業承継・引継ぎ補助金の申請枠、専門家活用枠について解説を進めていきましょう。
上述したように、M&A仲介業者やFAなど、主にM&Aの遂行 / 成立に欠かせない専門家報酬を補助するための申請枠が専門家活用枠。経営資源を譲り受ける「承継者」、譲り渡す「被承継者」、補助対象の事業者に応じ「買い手支援類型」「売り手支援類型」という2つの申請類型が用意されています。
専門家活用枠の申請類型 |
概要 |
買い手支援類型(I型) |
事業再編・事業統合にともない、 株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援 |
売り手支援類型(II型) |
事業再編・事業統合にともない、 株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援 |
売り手支援類型と買い手支援類型の違い
売り手支援類型と買い手支援類型は、補助対象の事業者が異なるという以外にも、補助事業の要件を含むいくつかの違いがあります。
たとえば、専門家活用枠は「経営革新枠」との併用申請を認められていますが、売り手支援類型と経営革新枠の併用申請は事実上不可能。なぜなら、経営革新枠は「経営資源を譲り受けた承継者の取り組み」を支援する補助金制度だからです。
売り手支援類型の専門家とは
主に専門家報酬の補助を対象経費とする売り手支援類型ですが、専門家であればだれでも補助対象になるわけではありません。中小企業庁の創設した「M&A支援機関登録制度」に登録する専門家のみが、売り手支援類型の経費対象となる専門家です。
参考:M&A支援機関登録制度
同制度には、M&A仲介業者、FAをはじめ、公認会計士、税理士、社労士、商工団体、金融機関など、さまざまな専門家が登録しており、状況 / ニーズに応じて選択可能。逆に、自社M&A案件に適した専門家であっても、同制度に登録していない専門家は売り手支援類型の補助対象外です。
売り手支援類型の対象事業者と要件
売り手支援類型の対象事業者は、事業承継・引継ぎ補助金すべての申請枠で共通する前提である、小規模事業者を含む中小企業です。
中小企業者の定義
業種 |
資本金(以下) |
常勤従業員数(以下) |
製造業、建設業、運輸業、旅行業 |
3億円 |
300人 |
卸売業 |
1億円 |
100人 |
サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) |
5,000万円 |
100人 |
小売業 |
5,000万円 |
50人 |
ゴム製造業 (タイヤ / チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く) |
3億円 |
900人 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 |
3億円 |
300人 |
旅館業 |
5,000万円 |
200人 |
その他の業種 |
3億円 |
300人 |
小規模企業者・小規模事業者の定義
業種 |
常勤従業員数 |
製造業その他 |
20人以下の会社および個人事業主 |
商業・サービス業 |
5人以下の会社および個人事業主 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 |
20人以下の会社および個人事業主 |
売り手支援類型の事業者要件
さらに、売り手支援類型を申請する事業者は、以下の要件を満たしている必要があります。
要件 |
1 日本国内に拠点または居住地を置き、日本国内で事業を営むこと |
2 対象者またはその法人の役員が、暴力団等の反社会的勢力ではないこと。 反社会的勢力との関係を持たないこと。資金提供を受けていないこと |
3 法令遵守上の問題を抱えていないこと |
4 事務局から質問、追加資料等の依頼があった場合に適切に対応すること |
5 事務局が必要と認めるとき、事務局が補助金の交付申請ほか各種事務局による承認 および結果通知に係る事項につき修正を加えて通知することに同意すること |
6 補助金の返還等の事由が発生した際、申請その他本補助金の交付にあたり負担した各種費用について、 いかなる事由においても事務局が負担しないことに同意すること |
7 経済産業および独立行政法人中小企業基盤整備機構から補助金停止指定措置 または指名停止措置が講じられていないこと |
8 申請・報告等で提供した個人情報を含む全ての情報は、データ利用について同意すること |
9 交付申請時点から過去18か月の間において、賃上げ加点の要件等が未達成の場合、 正当な理由がない限り大幅に減点されることを了承した上で申請すること |
10 事務局が求める調査やアンケートに協力できること |
11 FA・M&A仲介業者を補助対象経費とする場合は、事業対象者の内容について M&A支援機関登録制度事務局に実績報告されることに同意すること |
12 M&A支援機関登録制度に登録された専門家・専門家の代表が、 補助対象者・対象者の代表と同一でないこと |
売り手支援類型の対象になる補助事業
売り手支援類型の対象となる補助事業であるためには、上述した事業者の要件のほか、経営資源引継ぎの要件、補助事業の要件も満たさなければなりません。
経営資源引継ぎの要件
売り手支援類型で求められる経営資源引継ぎの要件は以下のいずれか。経営資源とは、設備・従業員・物品などを含み、不動産や物品のみの売買は対象外。親族間での経営資源引継ぎも売り手支援類型の対象になりません。
- 補助事業期間に被承継者と承継者の間で事業再編・事業統合が着手もしくは実施予定
- 補助事業期間に被承継者と承継者の間で廃業をともなう事業再編・事業統合が着手もしくは実施予定
また、売り手支援の対象事業として認められるのは、以下の形態のいずれかに限られます。
売り手支援類型(II型)
補助対象者 |
経営資源 引継ぎの形態 |
交付申請 類型番号 |
jGrants申請 フォーム番号 |
実績報告 類型番号 |
対象会社 + 対象会社の支配株主 または株主代表(法人) |
株式譲渡 |
3 |
4 |
1 |
株式譲渡 + 廃業 |
4 |
7 |
||
対象会社 + 対象会社の支配株主 または株主代表(個人) |
株式譲渡 |
5 |
1 |
|
株式譲渡 + 廃業 |
5 |
8 |
||
被承継者(法人) |
第三者割当増資 |
1 |
3 |
1 |
株式交換 |
||||
株式移転 |
5 |
|||
新設合併 |
6 |
|||
吸収合併 |
2 |
|||
吸収分割 |
3 |
|||
事業譲渡 |
4 |
|||
事業再編等 + 廃業 |
7 |
|||
被承継者(個人事業主) |
事業譲渡 |
2 |
6 |
4 |
事業再編等 + 廃業 |
6 |
8 |
補助事業の要件
売り手支援類型の対象となる補助事業は、以下の要件を満たさなければなりません。公序良俗に反する事業でないこと、社会通念上、不適切であると判断される事業でないことも求められます。
- 地域の雇用をはじめとした地域経済全体を牽引する事業を実施しており、第三者の承継によって継続が見込まれること
売り手支援類型の補助対象経費
売り手支援型の補助対象経費は、以下すべての要件を満たし、事務局が必要かつ適切と判断できるものに限られます。
- 使用目的が補助対象事業に必要だと明確に特定できるもの
- 補助事業期間内に契約・発注し、支払いの完了したもの
- 実績報告で提出する証憑などで金額・支払い等が確認できるもの
売り手支援類型の具体的な補助対象経費項目は以下の通り。
経費区分 |
概要 |
謝金 |
補助対象事業実施に伴って依頼した専門家報酬 |
旅費 |
販路開拓等を目的とした国内外出張に関する交通費・宿泊費 |
外注費 |
業務の一部を外注(請負)するための経費 |
委託費 |
業務の一部を外注(委任)するための経費 |
システム使用料 |
M&Aマッチングサイト等の登録料、利用料、成約手数料 |
保険料 |
表明保証保険等の保険料 |
廃業関連費 (廃業する場合) |
廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、移転・移設費用など |
売り手支援類型の併用申請
実質、経営革新枠と同時申請できない売り手支援型ですが、廃業・再チャレンジ枠との併用申請は可能。廃業をともなう経営資源の譲り渡しであれば、売り手支援型の補助上限額に上乗せされる形で、廃業・再チャレンジ枠の上限額も受給できます。
ただし、廃業をともなう経営資源の譲り渡しであっても、追加で廃業・再チャレンジ枠を申請する必要はありません。経営資源引継ぎの形態、補助対象経費の項目を見てもお分かりのように、売り手支援型類型には廃業関連費用が含まれているからです。
売り手支援類型の補助上限額・補助率
売り手支援類型の補助上限額・補助率は以下の通り。原則として、廃業費を含む補助率は1/2ですが、以下に当てはまる事業者は、補助率を2/3にする優遇措置を受けられます。
- 物価高等の影響により営業利益率が低下している者
- 直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の者
|
補助上限額 |
上乗せ額(廃業費) |
補助率 |
売り手支援類型 |
600万円 |
150万円まで |
1/2、または2/3 |
売り手支援類型の実施スキーム
申請から交付、補助事業期間終了後の報告まで、売り手支援型の実施スキームは以下の通り。申請・交付案内・補助事業終了後の報告などは、jGrantsを利用したオンラインで実施するため、GビズIDプレミアムアカウントの取得が必要です。申請からアカウント取得までには2〜3週間を要するため、早めに行動しましょう。
画像出典:事業承継・引継ぎ補助金 公募要領
【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の売り手支援類型を解説しました
会社売却を視野にM&Aを検討しているが、どういうパターンなら事業承継・引継ぎ補助金の売り手支援類型を利用できる?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、補助対象事業の要件や補助上限額など、事業承継・引継ぎ補助金の売り手支援類型を解説しました。