事業再構築補助金とは?第10回の概要・補助額・申請手順をわかりやすく解説
事業再構築補助金の申請を検討しているが、自社の事業が対象になるのか、いつまでにどんな準備が必要なのか知りたい方も多いのではないでしょうか。
本記事では事業再構築補助金の概要や申請の流れ、採択事例、申請における注意点を解説します。この記事を読めば事業再構築補助金のどの枠で申請すべきかや、申請に必要な準備が分かるでしょう。
事業再構築補助金とは
第10回の事業再構築補助金には6種類の枠がありますが、ここでは全体の概要や全体のスケジュールについて解説します。
参考:中小企業庁|事業再構築補助金の概要(中小企業等事業再構築促進事業)10.1版
概要
事業再構築補助金とは、新型コロナウイルス感染症の影響で経営状況が厳しい事業者を対象に、中小企業庁が採択する補助金です。苦しい経営状況の改善のため、思い切った事業再構築を目指す事業者を支援し、日本経済の構造転換を促すことを目的としています。
必須要件
事業再構築補助金には6種類の枠がありますが、種類にかかわらず以下の通り共通の要件があり
ます。
- 事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受けること
- 付加価値額を向上させること(目標となる数値は枠ごとに異なる)
事業再構築補助金は事業者が事業計画をつくり、認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があります。認定経営革新等支援機関とは、税務や金融、企業財務についての専門的知識と支援の実践経験が、一定水準以上の企業を中小企業庁が認定する制度です。
補助金額が3,000万円を超える場合は、認定経営革新等支援機関に加え、銀行などの金融機関の確認も受ける必要があります。
付加価値額とは営業利益と人件費と減価償却費を足した金額です。補助金の対象事業後、3~5年で付加価値額の年率平均か、従業員一人当たり付加価値額のどちらかを増加させる必要があります。
対象
事業再構築補助金の対象は、中小企業と中堅企業です。
中小企業は中小企業基本法の定義が適用され、資本金と従業員数が一定数以下の企業が該当します。業種ごとに中小企業に該当する資本金・出資額、常時使用する労働者の数は以下の通りです。
- 小売業:資本または出資額5,000万円以下、または常時使用する労働者数が50人以下
- サービス業:資本または出資額5,000万円以下、または常時使用する労働者数が100人以下
- 卸売業:資本または出資額1億円以下、または常時使用する労働者数が100人以下
- 製造業・その他:資本または出資額3億円以下、または常時使用する労働者数が100人以下
ただし大企業の子会社の場合は、上記を満たしていても、中小企業には該当しません。
中堅企業は中小企業の範囲に入らない会社でかつ、資本金10億円未満の会社です。
また、補助金によっては「大規模な賃上げ」をすることで補助率が増えるものもあります。
大規模な賃上げとは、事業終了時点で、以下の条件を満たすことです。
- 事業場内最低賃金45円以上増やすこと
- 給与支給総額を6%以上増加させること
ただし、事業終了後3~5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させることが出来なかった場合、差額分(補助率1/6分)の返還を求められます。
スケジュール
2023年度の第10回事業再構築補助金のスケジュールは以下の通りです。
公募開始 |
2023年3月30日(木) |
応募締切 |
6月30日(金)18:00 |
事業再構築補助金の申請要件・補助額
第10回の事業再構築補助金は以下の通り、6種類の枠があります。
枠ごとに申請要件と補助額に違いがあるため、枠別に申請要件・補助額を解説します。
成長枠
成長枠は成長分野に向けた事業再構築に取り組む事業者を対象にした枠です。
成長枠の要件は必須要件と同様で、求められる付加価値額は年率平均4.0%以上と定められています。補助金の上限額と補助率は以下の通りです。
従業員規模 |
補助上限額 |
補助率 |
20人以下 |
2,000万円 |
【中小企業】 1/2(大規模な賃上げを行う場合2/3) 【中堅企業】 1/3(大規模な賃上げを行う場合1/2) |
21~50人 |
4,000万円 |
|
51~100人 |
5,000万円 |
|
101人以上 |
7,000万円 |
グリーン成長枠
グリーン成長枠はエネルギー・環境などのグリーン分野で事業の再構築に取り組む事業者を対象にした枠です。
申請要件は必須要件に加え、以下のすべてを満たす必要があります。
- 付加価値額を年率平均4.0%以上増加させること
- グリーン成長戦略「実行計画」14分野に掲げられた課題の解決に資する取組に該当し、1年以上の該当分野に関する研究開発・技術開発か従業員の5%以上に対して年間20時間以上の人材育成を行うこと
- 事業終了後3~5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること
補助金上限と補助率は以下の通りです。
従業員規模 |
補助上限額 |
補助率 |
|
中小企業 |
20人以下 |
4,000万円 |
1/2 (大規模な賃上げを行う場合2/3) |
21~50人 |
6,000万円 |
||
51人~ |
8,000万円 |
||
中堅企業 |
ー |
1億円 |
1/3 (大規模な賃上げを行う場合1/2) |
大規模賃金引上促進枠
大規模賃金引上促進枠は、成長枠・グリーン成長枠を利用すると同時に、大規模な賃上げに取り組む事業者に対して、補助金額を上乗せして支援する枠です。
申請要件は必須要件に加え、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 成長枠かグリーン成長枠のどちらかに、同一の公募回で申請する
- 補助金の対象事業の終了後3~5年の間に、事業場内最低賃金を年額45円以上引き上げる
- 補助金の対象事業の終了後3~5年の間に、従業員数を年率平均1.5%以上増員させる
なお大規模賃金引上促進枠の補助対象経費は、成長枠やグリーン成長枠と別にする必要があります。補助金額と補助率は以下の通りです。
補助金額 |
補助率 |
3,000万円 |
中小企業:1/2 中堅企業:1/3 |
物価高騰対策・回復再生応援枠
物価高騰対策・回復再生応援枠は、コロナや物価高騰の影響で業績が厳しい事業者を支援する枠です。申請要件は必須要件に加え、以下のすべてを満たす必要があります。
- 付加価値額を年率平均3.0%以上増加させる
- 2022年1月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、2019年~2021年の同期間と比べて10%以上減少している
- 中小企業活性化協議会の支援を受け、再生計画等を策定する
補助金の上限額と補助率は以下の通りです。
従業員規模 |
補助上限額 |
補助率 |
5人以下 |
1,000万円 |
中小企業 :2/3 ただし、一定額までは3/4
中堅企業:1/2 ただし、一定額までは2/3
※一定額の基準(中小企業・中堅企業で共通) 従業員数5人以下の場合:400万円 従業員数6~20人の場合:600万円 従業員数21~50人の場合:800万円 従業員数51人以上の場合:1,200万円 |
6~20人 |
1,500万円 |
|
21~50人 |
2,000万円 |
|
51人以上 |
3,000万円 |
最低賃金枠
最低賃金枠は最低賃金の引上げのための原資の確保が難しい企業を対象にした枠です。最低賃金枠は物価高騰対策・回復再生応援枠に比べて採択率が高くなっています。
例えば第7回公募では、回復・再生応援枠と緊急対策枠(物価高騰対策・回復再生応援枠はこの2つを統合したもの)をあわせた応募数が5,124件に対して、採択件数が2,990件でした。その一方で最低賃金枠は、162件の応募に対し採択件数が131件となっています。
申請要件は必須要件に加え、以下のすべてを満たす必要があります。
- 付加価値額を年率平均3.0%以上増加させること
- 2022年1月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月間の合計売上高が、2019年~2021年の同期間と比べて10%以上減少している
- 3ヶ月以上最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員の10%以上いること(2021年10月から2022年8月までの期間)
補助上限額と補助率は以下の通りです。
従業員規模 |
補助上限額 |
補助率 |
5人以下 |
500万円 |
中小企業:3/4 中堅企業:2/3 |
6~20人 |
1,000万円 |
|
21人以上 |
1,500万円 |
サプライチェーン強靱化枠
サプライチェーン強靱化枠とは、海外で製造する部品などについて国内回帰を進め、国内サプライチェーンの強靱化や地域産業の活性化に取り組む事業者を対象にした枠です。
申請要件は必須要件に加え、以下のすべてを満たす必要があります。
- 付加価値額を年率平均5.0%以上増加させること
- 取引先から国内での生産や増産要請があること
- 取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に該当すること(対象業種・業態はこちらから確認できます)
- 経済産業省によるDX推進指標で自己診断し、結果を独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に提出していること
- SECURITY ACTIONで二つ星の宣言を行っていること
- 交付決定時点で、設備投資する事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いこと
- 事業終了後、事業年度から3~5 年の事業計画期間終了までの期間に給与支給総額を年率平均3%以上増加させること
- 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにて、宣言を公表していること
DX推進指標とは、DXの取り組みの進捗を管理することを目的とした経済産業省による指標です。具体的にはこちらの資料をご確認ください。
SECURITY ACTIONとは、情報セキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度です。目標となる具体的な指標は、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)で提示されています。目標の詳細や、宣言方法は独立行政法人 情報処理推進機構のサイトからご確認ください。
パートナーシップ構築宣言は、新たなパートナーシップを構築することを発注者側の立場から宣言するものです。サプライチェーンの取引先や価値創造を図る事業者との連携・共存共栄を進めることを目的にしています。
なお、海外の生産拠点を閉じることは、要件ではありません。
事業再構築補助金申請の流れ
事業再構築補助金は申請のために準備する手間が大きいため、事前に流れを把握して取り組むことが大切です。
それぞれの具体的な手順について次で解説します。
参考:事業再構築補助金事務局|事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠を除く】公募要領(第10回)1.1版
1.申請用のアカウントの取得
事業再構築補助金の申請には、GBizIDプライムアカウントの取得が必要です。GBizIDプライムアカウントはこちらから作成します。
事業再構築補助金の申請は電子申請でなければ、受付されません。申請から発行までに1週間ほどかかるため、早めに取得しておくことをおすすめします。
2.事業計画書の作成
事業計画書は経済産業省が提示する事業再構築指針に沿って作成する必要があります。
事業再構築指針とは、事業再構築補助金の要件である「事業再構築」という言葉の定義を明確化したものです。具体的には、新たな製品・事業・業種などを転換することなどが挙げられます。事業再構築指針の詳細はこちらをご確認ください。
事業計画書の作成は認定経営革新等支援機関と相談しながら実施しましょう。認定経営革新等支援機関はこちらから確認できます。
関連記事:事業再構築補助金の認定支援機関とは?役割と選び方も紹介
3.審査結果の通知・公表
事業再構築補助金の採択・不採択の結果は事業再構築補助金の事務局から通知されます。通知されるまでは補助金の対象事業について契約や発注を行わないようにしましょう。
ただし、事前着手の届出をしてからであれば、採択の結果を待たずに着手が可能です。この場合は採択されないリスクがあり、補助金が利用できない可能性を視野に入れておきましょう。
事業再構築補助金の採択事例
事業再構築補助金では事業の再構築が求められますが、具体的にイメージできない人もいるのではないでしょうか。ここでは、事業再構築補助金の採択事例をいくつか紹介します。
株式会社神戸工業試験場
株式会社神戸工業試験場は、独立資本で経営を行い、破壊試験を行う試験サービス業を提供している企業です。
新型コロナウイルス感染症の影響から、社会情勢に柔軟に対応すべく、元々手がけていた水素事業を加速させるために事業再構築補助金を申請しました。具体的には「高圧水素環境の試験」新サービスを開始するための投資を開始。
同社の鶴井副社長は事業再構築補助金について、新たな新ビジネスの創出の後押しや、やりがいにつながる福利厚生の拡充につながったと話しています。
参考:継続的な成長を通じて業界内随一の存在へ(株式会社神戸工業試験場)
株式会社九州築地
株式会社九州築地は、宮崎県産のチョウザメの卸売をしていました。同社では新型コロナウイルス感染症の影響で、顧客であるホテルや飲食店の休業や時短営業の影響を受け、売上が大幅下落。
卸売業だけではなく、同社の強みである技術力と仕入れ力を生かし、無添加かつ高栄養のチョウザメを主原料にしたペットフードの販売に向けて取り組みを始めました。
事業再構築補助金の申請は1回目は不採択になったものの、認定支援機関とともにブラッシュアップし、2回目で採択されています。
参考: 株式会社九州築地
事業再構築補助金を申請する際の注意点
事業再構築補助金を申請する際にはいくつか注意すべきことがあります。
どのような点に注意すべきか、次で解説します。
参考:事業再構築補助金事務局|事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠を除く】公募要領(第10回)1.1版
事業の実施と報告が必要
事業再構築補助金は採択後に、対象事業の実施と報告が必要です。対象事業の終了を報告した後についても、以降5年間(計6回)、対象事業について事業化状況・知的財産権等報告書で報告する必要があります。
また、対象事業に関係する調査への協力も必須です。協力しない場合には、補助金の交付取消や返還が求められる可能性があります。
全額補償対象になるとは限らない
事業再構築補助金の採択がされた後でも、全額が補助対象とならない可能性があることに注意が必要です。
事業再構築補助金の採択後申請者が「補助金交付申請」を行い、内容を事務局で補助対象経費として適切なものであるかどうか精査されます。
補助対象となる経費の例としては以下のものです。
- 建物の建築費
- 機械装置・システム構築費
- 技術導入費
- 専門家経費
- 運搬費
- クラウドサービス利用費
- 外注費
- 知的財産権等関連経費
- 広告宣伝・販売促進費
- 研修費
- 既存事業の廃業費
既存事業では利用できない
事業再構築補助金は、既存事業ではなく、思い切った事業再構築を対象とした補助金です。そのため、既存事業の立て直しなどを目的にした補助金の利用はできません。
既存事業に利用した経費は原則として認められず、実際に経費とした場合には、目的外利用と判断され、返還要請される可能性があります。
例えば飲食店がECサイトの新規構築を検討している場合で考えてみましょう。この場合、ECサイトの構築などの費用は補助金の対象です。
しかし、既存事業の飲食店に対しての改装費用などに関しては、上記項目に当てはまる場合でも補助金の対象にはなりません。
対象にならない経費の例としては以下のものがあります。
- 既存事業を対象とした経費
- 事務所などの家賃・保証金・敷金・仲介手数料・光熱水費
- 詳細が確認できない経費
- フランチャイズ加盟料
- 電話代・インターネット利用料金などの通信費(クラウドサービス利用費に含まれる付帯経費は除く)
- 娯楽・接待などの費用
- 税務申告、決算書作成等のための税理士、公認会計士等に支払う費用
- 登記や特許などの手数料・収入印紙
- 振込等手数料・両替手数料
- 借入金などの支払利息・遅延損害金
- 事業計画書などの補助金申請に必要な書類作成・提出にかかる費用
- 目的外使用になりえるものの購入費・レンタル費(パソコン・プリンタ・タブレット端末など
- 事業にかかる自社の人件費、旅費
計上されている経費の大半が補助対象外の場合、不採択や採択取消になる可能性もあるため、補助対象外の経費を含めないよう注意しましょう。
事業再構築補助金についてまとめました
本記事では事業再構築補助金の概要や申請の流れ、採択事例、注意点を解説しました。
事業再構築補助金は、既存事業以外の新しい事業に取り組む際に役立つ補助金です。採択されるためには補助金の趣旨をよく理解し、趣旨に沿った事業計画書の作成や補助対象事業の実施を行いましょう。