育児や介護をサポートする企業が対象の両立支援等補助金とは?
事業者の方で、従業員の育児や介護をどうやってサポートすればいいのかとお悩みの方も多いのではないでしょうか?今回は仕事と家庭生活の両立のために支給される両立支援等補助金について解説します。休職による稼働率の低下を補助金で補うことができるので参考にしてみてください。
両立支援等助成金とは
両立支援等助成金とは、国が育児や子育てを行う労働者の雇用を守るために事業者に対して助成金を支給する制度です。令和3年に育児休暇休業法が改正し、男性の育児休暇の枠組みが創設されるなど従来の職場環境からの変化が求められるようになりました。企業は育児休暇や介護休暇の制定を行い、職場環境の改善に取り組むことが求められています。
両立支援等助成金の3つのコースと要件
コースに共通する要件や設定された3つのコースの内容についてそれぞれ解説していきます。
全コース共通の要件について
助成金を受けるための基本的な要件は以下の通りです。
- 雇用保険被保険者が存在する事業所の事業主であること
- 支給のための審査に協力すること
- 申請期間内に申請を行うこと
支給のための審査協力とは支給に必要な書類の整備、保管を行い、いつでも提出できるようにすることです。
出生時両立支援コース
出生時両立支援コースとは、男性従業員の育児休暇取得を推進する事業者に助成金が支給される制度です。支給対象は中小企業の事業者に限られており、要件の違いによって2つの区分に分かれてい
ます。
区分と助成金額は以下の通りです。
区分 |
助成金額 |
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第1種 |
育児休業取得 |
20万円 |
代替要員加算 (休業者の代替要員の確保が対象) |
20万円(3人以上45万円) |
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育児休業等に関する情報公表加算 (育休取得状況の公表が対象) |
2万円 |
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第2種 |
育児休業取得率の30%以上上昇 |
1年以内達成:60万円 2年以内達成:40万円 3年以内達成:20万円 |
1事業主につき1回限りの支給です。
第1種と第2種では要件が変わります。
第1種の要件 |
第2種の要件 |
・育児休暇に関する研修や窓口の設置、 事例収集や社内方針の周知を行うこと ・育児休業取得者の業務を代替する 従業員の負担を増やさないこと ・男性従業員が子供の出生後8週間以内に 連続5日以上の育児休業を取得すること |
・第1種の助成金を受給していること ・第1種の申請をしてから3年以内に、 男性従業員の育児休業取得率が30%以上上昇していること。 または第1種の申請年度に子供が出生した男性従業員が5人未満、 育児休業取得率が70%以上であり、 その後の3年以内で2年連続70%以上となること ・第1種申請の対象となる従業員以外に 2人以上の休暇申請者がいること |
介護離職防止支援コース
介護離職防止支援コースとは、介護支援プランを作成し、従業員の介護休暇の取得・職場復帰に取り組んだ中小企業の事業者が対象の制度です。助成金の区分や金額は以下の通りです。
区分 |
助成金額 |
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介護休業 |
休業取得時 |
各30万円 (1年に各5人分まで支給可能) |
職場復帰時 |
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業務代替支援加算 (休業要員の新規雇用または手当支給を行い、 休業取得者を職場に復帰させた場合が対象、 介護休業への加算) |
新規雇用:20万円 手当支給等:5万円 |
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介護両立支援制度 (介護のための制度を導入した場合が対象) |
30万円 (1年に各5人分まで支給可能) |
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個別周知・環境整備加算 (介護休業者に対する個別説明と仕事を 両立しやすい環境整備を行った場合が対象) 介護休業または介護両立支援制度の金額へ追加される |
15万円 |
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新型コロナウイルス感染症対応特例 (新型コロナウイルス感染症への対応を行った場合が対象) |
5日以上10日未満:20万円 10日以上:30万円(各1人当たり) |
各区分の要件は以下の通りです。
介護休業の要件
休業取得時 |
職場復帰時 |
・介護休業の措置を実施する旨を、 あらかじめ従業員へ周知すること ・介護に直面した従業員との 面談を実施すること ・対象従業員が合計5日以上の 介護休業を取得すること |
・休業を取得した従業員に対し、介護休業終了後に その上司または人事労務担当者が面談を実施すること ・面談結果を踏まえて原則として原職等に復帰させ、 復帰後も雇用保険被保険者として3か月以上継続雇用していること |
介護両立支援制度の要件
- 介護両立支援制度の利用について、あらかじめ従業員へ周知すること
- 介護に直面した従業員との面談を実施すること
- 介護休暇、介護フレックスタイム制などの介護制度を対象の従業員が20日以上利用すること
- 支給申請に係る期間の制度利用終了後から申請日までの間、雇用保険被保険者として継続雇用していること
新型コロナウイルス感染症対応特例の要件
- 介護のための有給休暇(新型コロナウイルス感染症対応)について、制度を設け、あらかじめ従業員に周知すること
- 新型コロナウイルス感染症による家族の介護のため、対象の従業員が合計5日以上休暇を取得すること
- 対象従業員を休暇取得日から申請日までの間、雇用保険被保険者として継続雇用していること
育児休業等支援コース
育児休業等支援コースとは、従業員の育児休業の円滑な取得、職場復帰を推進した中小企業事業主(新型コロナウイルス感染症対応特例以外)が対象です。助成金の区分や金額は以下の通りです。
区分 |
助成金額 |
育休取得時 |
30万円 |
職場復帰時 |
30万円 |
業務代替支援 (休業要員の新規雇用または手当支給を行い、 休業取得者を職場に復帰させた場合が対象) |
新規雇用:50万円 手当支給:10万円※有期雇用者加算10万円 |
職場復帰後支援 (1か月以上の育児休業から復帰した後 6か月以内に看護休暇や保育サービス制度の 利用実績がある場合が対象) |
制度導入:30万円 |
育児休業等に関する情報公表加算 (育休取得状況の公表が対象) |
新型コロナウイルス感染症対応特例 以外いずれかへの加算として2万円 |
新型コロナウイルス感染症対応特例 |
上限100万円 |
各区分の要件は以下の通りです。
育休取得時の要件
- 育児休業の取得、職場復帰についての措置を実施する旨を従業員へ周知すること
- 育児に直面した従業員との面談を実施すること
- 対象従業員の業務引き継ぎを実施して、連続3か月以上の育児休業を取得させること
職場復帰時の要件
- 対象従業員へ職務や業務の情報、資料の提供を実施すること
- 育休取得従業員に対し、休暇終了前に上司または人事労務担当者が面談を実施すること
- 対象従業員を原則として原職に復帰させ、原職復帰後も雇用保険被保険者として6か月以上継続雇用していること
業務代替支援の要件
- 育児休業取得者を、育児休業終了後、原職等に復帰させる旨を就業規則等に規定すること
- 対象従業員が3か月以上の育児休業を取得し、事業主が休業期間中の代替要員を新たに確保するか、業務を見直し周囲の社員により業務をカバーさせること
- 対象従業員を上記規定に基づき原職等に復帰させ、雇用保険被保険者として6か月以上継続雇用していること
職場復帰後支援の要件
- 育児・介護休業法を上回る「子の看護休暇制度(有給、時間単位)」または「保育サービス費用補助制度」を導入していること
- 対象従業員が1か月以上の育児休業から復帰した後6か月以内において、導入した制度の一定の利用実績があること(看護休暇制度10時間以上の取得または保育サービス費用補助制度3万円以上の補助の利用実績)
新型コロナウイルス感染症対応特例の要件
- 小学校等の臨時休業等に伴い、子どもの世話を行う必要がある従業員が取得できる制度について、労働協約または就業規則等に規定していること
- 小学校等が臨時休業等した場合でも勤務できる両立支援の仕組み(テレワーク、時差出勤など)を社内に周知していること
- 従業員に特別有給休暇(賃金全額支給)を1日以上取得させていること
- 対象従業員が雇用保険被保険者であること
申請の流れについて
両立支援等助成金申請の大まかな流れについて、育児休業等支援コースを例に紹介します。
上記以外のコースは事業者が行う対応が変わるため、くわしくは以下を参考にしてください。
参照記事:事業主の方への給付金のご案内
申請の際は一般事業主行動計画の届出が必要なことに注意!
助成金を受けるには各コースで指定された書類の他に一般事業主行動計画の届出が必要になります。
一般事業主行動計画は企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、対策及びその実施時期を定めるものです。従業員101人以上の企業には行動計画の策定、届出が義務付けられています。
一般事業主行動計画のくわしい内容や、各コースに必要な書類は以下を確認してください。
参考記事:一般事業主行動計画の策定・届出等について
参考記事:両立支援等助成金
令和5年度の両立支援等助成金の変更点
出生時両立支援コース第2種の拡充
出生時両立支援コースの第2種について、以下の一部の要件が緩和されています。
内容 |
変更前 |
変更後 |
育児休業取得率 上昇の要件について |
男性従業員の育児休業取得率が、 第1種の助成金の支給を受けてから 3年以内に30%以上上昇していること |
男性従業員の育児休業取得率が、 第1種の助成金の支給を受けてから 3年以内に30%以上上昇していること または、第1種受給年度に育休対象の男性が 5人未満かつ育児休業取得率70%以上の場合に、 次の3年以内に2年連続70%以上となること |
助成額 |
1年以内に30%以上上昇:60万円 2年以内に30%以上上昇:40万円 3年以内に30%以上上昇:20万円 |
1年以内に30%以上上昇:60万円 2年以内に30%以上上昇:40万円 3年以内に30%以上上昇:20万円 または、第1種受給年度に育休対象の男性が5 人未満かつ育児休業取得率70%以上の場合、 1、2年目に取得率70%以上:40万円 2、3年目に取得率70%以上:20万円 |
育児休業等に関する情報公表加算の新設
出生時両立支援コースにおいて自社の育児休業取得状況に関する情報を公表した場合に、助成金を加算して支給することが追加されています。主な要件は厚生労働省が運営するサイト「両立支援のひろば」において公表した場合に、第1種の支給額に2万円が加算されます。
内容 |
変更前 |
変更後 |
第1種の区分について |
・育児休業取得のみ ・代替要員加算 (休業者の代替要員の確保が対象) |
・育児休業取得 ・代替要員加算 (休業者の代替要員の確保が対象) ・育児休業等に関する情報公表加算 (育休取得状況の公表が対象) |
助成額 |
20万円 20万円(3人以上45万円) |
20万円 20万円(3人以上45万円) 2万円 |
業務代替支援加算の新設
介護離職防止支援コースにおいて、介護休業中の従業員の業務を他の従業員が代替した場合に助成金を加算して支給することが追加されています。主な要件は休業要員の新規雇用または手当支給を行い、休業取得者を職場に復帰させた場合が対象です。新規雇用の場合は20万円、手当支給の場合は5万円が加算されます。
内容 |
変更前 |
変更後 |
介護休業の区分について |
・休業取得時 ・職場復帰時 |
・休業取得時 ・職場復帰時 ・業務代替支援加算 (休業要員の新規雇用または手当支給を行い、 休業取得者を職場に復帰させた場合が対象、 介護休業への加算) |
助成額 |
各30万円 |
各30万円 新規雇用:20万円 手当支給等:5万円 |
個別周知・環境整備加算の新設
介護離職防止支援コースにおいて、仕事と介護を両立しやすい雇用環境整備を行った場合に15万円加算することが追加されています。対象従業員に対して制度の個別周知を行う必要があります。
内容 |
変更前 |
変更後 |
介護離職防止 支援コースの区分について |
・介護休業 (休業取得時、職場復帰時) ・介護両立支援制度 (介護のための制度を 導入した場合が対象) |
・介護休業 (休業取得時、職場復帰時) ・介護両立支援制度 (介護のための制度を導入した場合が対象) ・個別周知環境整備加算 (介護休業者に対する個別説明と仕事を 両立しやすい環境整備を行った場合が対象、 介護休業、介護両立支援制度への加算) |
助成額 |
各30万円 |
各30万円 15万円 |
新型コロナウイルス感染症対応特例の再開
育児休業等支援コースにおいて、新型コロナウイルス感染症による対応への制度が再開されています。小学校の臨時休業により子どもの世話をする従業員が利用できる特別休暇制度、小学校等が臨時休業等した場合でも勤務できる両立支援制度の社内周知が要件です。実際に有給休暇を取得した従業員が生じた場合1人あたり10万円、1事業主につき10人まで支給されます。
内容 |
変更前 |
変更後 |
育児休業等 支援コースの区分について |
新型コロナウイルス 感染症の対応はなし |
新型コロナウイルス感染症対応特例 |
助成額 |
なし |
上限100万円 |
育児休業等に関する情報公表加算の新設
育児休業等支援コースにおいて、自社の育児休業取得状況に関する情報を公表した場合に、助成金を加算して支給することが追加されています。育休取得時、職場復帰時、業務代替支援、職場復帰後支援支給額のいずれかに2万円が加算されます。
内容 |
変更前 |
変更後 |
育児休業等 支援コースの区分について |
・育休取得時 ・職場復帰時 ・業務代替支援 (休業要員の新規雇用または 手当支給を行い、休業取得者を 職場に復帰させた場合が対象) ・職場復帰後支援 (1か月以上の育児休業から 復帰した後6か月以内に 看護休暇や保育サービス制度の 利用実績がある場合が対象) |
・育休取得時 ・職場復帰時 ・業務代替支援 (休業要員の新規雇用または 手当支給を行い、休業取得者を 職場に復帰させた場合が対象) ・職場復帰後支援 (1か月以上の育児休業から 復帰した後6か月以内に 看護休暇や保育サービス制度の 利用実績がある場合が対象) ・育児休業等に関する情報公表加算 (育休取得状況の公表が対象) |
助成額 |
30万円 30万円 新規雇用:50万円 手当支給:10万円 ※有期雇用者加算10万円 制度導入:30万円 |
30万円 30万円 新規雇用:50万円 手当支給:10万円 ※有期雇用者加算10万円 制度導入:30万円 2万円 |
生産性要件の廃止
生産性要件(労働生産性を向上させた事業主に対する助成金支給額の割増)については、令和4年度限りで廃止になりました。
両立支援等助成金を利用して制度の負担を軽減
両立支援等助成金を利用すれば、育児や介護による従業員の休暇取得を推進しながら、稼働率の低下による事業の負担を軽減できます。制度の導入に悩む事業者の方は、この記事を参考に休暇制度の改善を図ってみてください。