通年雇用助成金とは?メニューごとの対象要件や支給額、申請方法を解説
季節労働者から「働き続けたい」といわれて打開策を検討中ですか?そういうときにおすすめなのが通年雇用助成金です。ただし、通年雇用助成金を利用するには一定の条件をクリアしなくてはいけません。
本記事を読めば通年雇用助成金の対象要件や支給額、申請方法が理解できます。ぜひご活用ください。
通年雇用助成金とは
「通年雇用助成金」とは、北海道や東北地方などの積雪地帯や寒冷地にある事業主が冬季間に離職を余儀なくされる季節労働者を通年雇用する場合に、助成する制度です。
通年雇用助成金の指定地域
通年雇用助成金の指定地域は全部で13道県あります。
全市町村指定 |
北海道、青森、岩手、秋田 |
一部の市町村指定 |
宮城、山形、福島、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜 |
通年雇用助成金の指定業種
通年雇用助成金の指定業種は以下の11業種です。
- 建設業
- 林業
- 採石業および砂・砂利または玉石の採取業
- 水産食料品製造業
- 野菜缶詰・果実缶詰または農産保存食料品の製造業
- 一般製材業
- セメント製品製造業
- 特定貨物自動車運送業
- 建設用粘土製品(陶磁器製のものを除く)の製造業
- 建設現場において据付作業を行う「造作材製造業(建具を除く)」「建具製造業」「鉄骨製造業」「建設用金属製品製造業(鉄骨を除く)」「金属製サッシ・ドア製造業」「鉄骨系プレハブ住宅製造業」「建築用金属製品製造業(サッシ、ドア、建築用金物を除く)」「畳製造業」
- 農業(畜産農業および畜産サービス業を除く)
通年雇用助成金の種類別比較表
通年雇用助成金には事業ごとに7つの種類があります。以下の表に概要と支給額をまとめました。詳細については各章で解説します。
|
概要 |
支給額 |
事業所内就業 助成 |
対象事業所で就業させた労働者に 支払った賃金額の一部を助成する制度 |
賃金の1/2~2/3 (上限71万円) |
事業所外就業 助成 |
対象事業所外で就業させた労働者に 支払った賃金額の一部を助成する制度 |
賃金の1/2~2/3 (上限71万円) |
休業助成 |
対象労働者を一時的に休業させ 休業手当を支払った場合、 労働者に支払った賃金額の一部を助成する制度 |
休業手当と賃金の合計の 1/2~2/3 (上限71万円) |
業務転換助成 |
対象労働者を季節的業務以外の業務へ転換させた場合、 労働者に支払った賃金額の一部を助成する制度 |
6か月間の賃金の1/3 (上限71万円) |
移動就労経費 助成 |
労働者を指定地域外で就業、 業務転換をさせるのに引越しが必要になった場合、 引っ越し費用などを助成する制度 |
3万~15万円 |
職業訓練助成 |
労働者を事業所内外で 就業させながら職業訓練を実施した場合、 訓練費用を助成する制度 |
対象費用の1/2~2/3 (上限4万円) |
新分野進出 助成 |
新分野事業に進出するために必要な事業所の設置 および整備かかった費用の一部を助成する制度 |
事業所の設置・ 整備費用の1/10の額 (上限500万円) |
通年雇用助成金の対象要件や支給額
ここからは、通年雇用助成金の各助成制度について、解説していきます。
事業所内就業助成
概要
事業所内就業助成は、12月16日から翌年3月15日までの間、対象事業所で就業させた労働者に支払った賃金額の一部を助成する制度です。
対象事業主
以下の要件をすべて満たす事業主が対象です。
- 指定地域内で指定業種に属する事業を行う雇用保険適用事業主であること(民間事業主に限る)
- 対象となる労働者を対象期間中に事業主の事業所で継続雇用し、少なくとも届出年の翌年12月15日まで継続雇用が見込めること
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等の労働関係帳簿類を整備、保管し、要請があればすみやかに提出できること
対象労働者
- 新規継続労働者(1回目の助成金の申請対象労働者)届出年度の9月16日以前から継続して雇用されている人で、通常ならシーズンオフで離職し、季節的受給者(特例一時金の受給者)となる人
- 継続労働者(2回目の助成金の申請対象労働者)前年度に同じ事業主の下で1回目の助成金の申請対象労働者となり、その後も継続して雇用されている労働者
- 再継続労働者(3回目の助成金の申請対象労働者)前年度に同じ事業主の下で2回目の助成金の申請対象労働者となり、その後も継続して雇用されている労働者
助成金を受けられるのは、申請対象労働者1人につき3回が限度です。
支給額
- 新規継続労働者:賃金の2/3の額(上限71万円)
- 継続労働者・再継続労働者:賃金の1/2の額(上限54万円)
支給額は以下の式で計算します。
支給対象労働者の数=申請対象労働者の数-(基礎数(※)-届出年度の3月15日現在の継続雇用労働者の数)
基礎数とは
通年雇用助成金の目的は「常用労働者の数を増加させ通年雇用すること」。そのため、常用労働者の数が増加していることを判定するための指標が「基礎数」で、以下のように計算します。
<2019年12月15日現在の継続雇用労働者数が3人の場合>
年度 |
支給対象労働者 |
2019年度 |
新規継続労働者6人 |
2020年度 |
継続労働者(休業助成)5人 |
2021年度 |
再継続労働者2人業務転換助成1人 |
2022年度の基礎数は
3人+1人+((6人+5人+2人)×1/3)= 8.33人
1未満は切り捨てとなるので、2022年度の基礎数は「8人」となります。
つまり、2022年度の申請対象労働者が9人以上いれば、助成金を受けられるということです。
申請期間・申請の流れ
申請期間と申請の流れは以下のとおりです。
- 通年雇用届等の提出(提出期間:届出年度12月16日~翌年1月31日)
- 支給申請書等の提出(提出期間:届出年度3月16日~翌年6月15日)
事業所外就業助成
概要
事業所外就業助成は、12月16日から翌年3月15日までの間、対象事業所外で就業させた労働者に支払った賃金額の一部を助成する制度です。
対象事業主
以下の要件をすべて満たす事業主が対象です。
- 雇用保険適用事業主であること(民間事業主に限る)
- 対象となる労働者を対象期間中に事業主の事業所外で継続雇用し、少なくとも届出年の翌年12月15日まで継続雇用が見込めること
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等の労働関係帳簿類を整備、保管し、要請があればすみやかに提出できること
対象労働者
- 新規継続労働者(1回目の助成金の申請対象労働者)届出年度の9月16日以前から継続して雇用されている人で、通常ならシーズンオフで離職し、季節的受給者(特例一時金の受給者)となる人
- 継続労働者(2回目の助成金の申請対象労働者)前年度に同じ事業主の下で1回目の助成金の申請対象労働者となり、その後も継続して雇用されている労働者
- 再継続労働者(3回目の助成金の申請対象労働者)前年度に同じ事業主の下で2回目の助成金の申請対象労働者となり、その後も継続して雇用されている労働者
助成金を受けられるのは、申請対象労働者1人につき3回が限度です。
支給額
- 新規継続労働者:賃金の2/3の額(上限71万円)
- 継続労働者・再継続労働者:賃金の1/2の額(上限54万円)
支給額は以下の式で計算します。
支給対象労働者の数=申請対象労働者の数-(基礎数(※)-届出年度の3月15日現在の継続雇用労働者の数)
基礎数とは
通年雇用助成金の目的は「常用労働者の数を増加させ通年雇用すること」。そのため、常用労働者の数が増加していることを判定するための指標が「基礎数」で、以下のように計算します。
<2019年12月15日現在の継続雇用労働者数が3人の場合>
年度 |
支給対象労働者 |
2019年度 |
新規継続労働者6人 |
2020年度 |
継続労働者(休業助成)5人 |
2021年度 |
再継続労働者2人業務転換助成1人 |
2022年度の基礎数は
3人+1人+((6人+5人+2人)×1/3)= 8.33人
1未満は切り捨てとなるので、2022年度の基礎数は「8人」となります。
つまり、2022年度の申請対象労働者が9人以上いれば、助成金を受けられるということです。
申請期間・申請の流れ
申請期間と申請の流れは以下のとおりです。
- 通年雇用届等の提出(提出期間:届出年度12月16日~翌年1月31日)
- 支給申請書等の提出(提出期間:届出年度3月16日~翌年6月15日)
休業助成
概要
事業所外就業助成は、12月16日から翌年3月15日までの間に対象労働者を一時的に休業させ休業手当を支払った場合、労働者に支払った賃金額の一部を助成する制度です。
対象事業主
以下の要件をすべて満たす事業主が対象です。
- 雇用保険適用事業主であること(民間事業主に限る)
- 対象となる労働者を対象期間中に事業主の事業所内・外で継続雇用し、少なくとも届出年の翌年12月15日まで継続雇用が見込めること
- 一時的に休業させて休業手当を支払うこと
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等の労働関係帳簿類を整備、保管し、要請があればすみやかに提出できること
対象労働者
- 新規継続労働者(1回目の助成金の申請対象労働者)届出年度の9月16日以前から継続して雇用されている人で、通常ならシーズンオフで離職し、季節的受給者(特例一時金の受給者)となる人
- 継続労働者(2回目の助成金の申請対象労働者)前年度に同じ事業主の下で1回目の助成金の申請対象労働者となり、その後も継続して雇用されている労働者
- 再継続労働者(3回目の助成金の申請対象労働者)前年度に同じ事業主の下で2回目の助成金の申請対象労働者となり、その後も継続して雇用されている労働者
ただし、休業助成を申請できるのは1人あたり2回が限度。具体的には、事業所内・外就業助成を活用すると3回まで助成を受けられますが、そのうち2回までは対象労働者を休業してもらうことができます。
支給額
支給額は1回目と2回目で異なります。
- 1回目の申請:支給対象労働者1人あたり「休業手当」と「賃金」の合計の1/2の額
- 2回目の申請:支給対象労働者1人あたり「休業手当」と「賃金」の合計の1/3の額
申請期間・申請の流れ
申請期間と申請の流れは以下のとおりです。
- 通年雇用届等の提出(提出期間:届出年度12月16日~翌年1月31日)
- 支給申請書等の提出(提出期間:休業助成の対象となる期間の最後の賃金締切日の翌日~~翌年6月15日)
業務転換助成
概要
業務転換助成は、12月16日から翌年3月15日までの間に季節的業務以外の業務へ転換させた場合、労働者に支払った賃金額の一部を助成する制度です。
対象事業主
以下の要件をすべて満たす事業主が対象です。
- 雇用保険適用事業主であること(民間事業主に限る)
- 対象となる労働者を対象期間中に、事業主の事業所で季節的業務以外の業務に転換させ、少なくとも届出年の翌年12月15日まで継続雇用が見込めること
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等の労働関係帳簿類を整備、保管し、要請があればすみやかに提出できること
対象労働者
- 業務転換を開始する日が「今年度の12月16日~3月15日」の場合前年の9月16日以前から雇用されていて、通常ならシーズン・オフになると離職し、季節的受給者(特例一時金の受給者)となる人
- 業務転換を開始する日が「前年度の3月16日~今年度の12月15日」の場合支給対象事業所に3か月以上継続雇用されていて、通常ならシーズン・オフになると離職し、季節的受給者(特例一時金の受給者)となる人
支給額
支給対象労働者の業務転換の開始日から起算して6か月の間、事業主が支払った賃金の1/3の額(上限額71万円)
申請期間・申請の流れ
申請期間と申請の流れは以下のとおりです。
- 通年雇用届(業務転換用)等の提出(提出期間:業務転換の開始日から起算して1か月以内)
- 支給申請書等の提出
- 業務転換開始日が3/16~9/16の場合(提出期間:翌年3/16~6/15)
- 業務転換開始日が9/17~3/15の場合(提出期間:「業務転換開始日から6か月経過日」から「80日」を経過する日まで)
移動就労経費助成
概要
移動就労経費助成は、労働者を指定地域外で就業、業務転換をさせるのに引越しが必要になった場合、引越し費用などを助成する制度です。なお、本制度は事業所内・外就業助成などに加算して助成されます(2025年3月15日まで有効な暫定制度)。移動就労経費助成単体での申請はできません。
対象となる移動就労経費
- 往復の交通費
- 遠距離移動のため途中で宿泊を必要とする場合の宿泊料(移動中の宿泊に限る)
- 引っ越し費用
支給額
移動距離 |
上限額 |
400km以上800km未満 |
3万円 |
800km以上1,200km未満 |
6万円 |
1,200km以上1,600km未満 |
9万円 |
1,600km以上2,000km未満 |
12万円 |
2,000km以上 |
15万円 |
※移動距離が400km未満である場合は、支給されません。
申請期間・申請の流れ
申請期間と申請の流れは以下のとおりです。
- 移動就労届等の提出(提出期間:届出年度12月16日~翌年1月31日)
- 支給申請書等の提出(提出期間:届出年度3月16日~翌年6月15日)
職業訓練助成
概要
職業訓練助成は、12月16日から翌年3月15日までの間に労働者を事業所内外で就業させながら職業訓練を実施した場合、訓練費用を助成する制度。なお、本制度は事業所内・外就業助成などに加算して助成されるものです。職業訓練助成単体での申請はできません。
対象事業主
以下の要件をすべて満たす事業主が対象です。
- 雇用保険適用事業主であること(民間事業主に限る)
- 対象となる労働者を対象期間中に、事業所内・外で就業させて、少なくとも届出年の翌年12月15日まで継続雇用が見込めること
- 対象となる職業訓練を実施すること
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等の労働関係帳簿類を整備、保管し、要請があればすみやかに提出できること
対象となる職業訓練
「事業主自ら運営する職業訓練」または「施設に委託して行う職業訓練」のうち、以下のすべてに該当する職業訓練が対象です。
- 訓練時間が10時間以上あること
- 業務外での訓練であること
- 職業訓練指導員免許保持者、または専門的な知識や技能を持つ講師によって行われる訓練であること
- 職業に必要な専門的な知識や技能を習得させるために適切な訓練であること
支給額
- 季節的業務に関する訓練:対象費用の1/2の額(対象労働者1人あたり上限3万円)
- 季節的業務以外に関する訓練:対象費用の2/3の額(対象労働者1人あたり上限4万円)
対象費用は以下のとおりです。
- 職業訓練指導員または講師の謝金・手当(1人につき1時間あたり限度額3万円とします。)
- 訓練会場施設や設備のレンタル費用
- 教科書、その他教材費用
申請期間・申請の流れ
申請期間と申請の流れは以下のとおりです。
- 職業訓練実施計画書の提出 (提出期間:職業訓練開始日の前日まで)
- 支給申請書等の提出(提出期間:届出年度3月16日~翌年6月15日)
申請は1つの事業所につき、1年度に1回限り。そのため、職業訓練を複数行った場合はまとめて申請手続きをしましょう。
新分野進出助成
概要
新分野進出助成は、新分野事業進出に必要な事業所の設置および整備にかかった費用の一部を助成する制度です。
対象事業主
以下の要件をすべて満たす事業主が対象です。
- 指定地域内で指定業種に属する事業を行う雇用保険適用事業主であること(民間事業主に限る)
- 指定業種以外の業種の事業所を設置・整備し、通年雇用が見込まれる事業主を3人以上雇い入れていること
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等の労働関係帳簿類を整備、保管し、要請があればすみやかに提出できること
対象となる事業所
既存事業とは別の事業に進出し、新設・増設・購入・賃借をした事業所(費用が20万円以上であること)。
支給額
事業所の設置・整備にかかった費用の1/10の額(上限500万円)
申請期間・申請の流れ
申請期間と申請の流れは以下のとおりです。
- 通年雇用助成金新分野進出事業所設置・整備および雇入れ計画書の提出(提出期間 : 対象労働者を雇入れた後から設置・整備した施設の引渡前まで)
- 支給申請書等の提出
- 提出期間(1回目):設置・整備が完了し、最初の対象となる労働者を雇い入れた日から起算して18か月を経過する日まで
- 提出期間(2回目):完了日の1年後の日の翌日から起算して2か月以内
- 提出期間(3回目):完了日の2年後の日の翌日から起算して2か月以内
通年雇用助成金の対象要件や支給額、申請方法について説明しました
通年雇用助成金は、安定した季節労働者の雇用を支援するための制度です。助成制度がいくつもあり混乱しやすいですが、以下のケースで利用可能です。
- 事業所の中または外で就業する
- 休業する
- 業務転換する
- 職業訓練する
- 新分野に進出する
適切な制度を選択すれば、雇用を維持できるのでぜひ活用を検討してみてください。