業務改善助成金とは|令和5年度の対象者・助成額・申請の流れを紹介

業務改善助成金とは|令和5年度の対象者・助成額・申請の流れを紹介

業務改善助成金を活用したいものの、内容を把握していないため、手続きを前に進められていない企業も多いのではないでしょうか。本記事では、令和5年度の業務改善助成金の概要を紹介します。活用事例も合わせて紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

目次
  1. 1. 業務改善助成金は、最低賃金の引き上げに活用できる助成金
    1. 1-1. 対象事業者
    2. 1-2. 特例事業者
    3. 1-3. 助成上限額
    4. 1-4. 助成率
    5. 1-5. 助成対象の経費
    6. 1-6. 申請・事業完了期限
  2. 2. 業務改善助成金を申請する流れ
  3. 3. 業務改善助成金を申請する際の注意点
    1. 3-1. 過去に業務改善助成金を活用した事業者も対象になる
    2. 3-2. 申請期間内でも募集が終了になる場合がある
    3. 3-3. 交付決定前の設備投資費は対象外になる
  4. 4. 業務改善助成金の採択後の注意事項
  5. 5. 業務改善助成金の活用事例
    1. 5-1. 株式会社デナリファーム
    2. 5-2. 株式会社ポトペリー
    3. 5-3. 市村蒲鉾有限会社
  6. 6. 業務改善助成金について解説しました

業務改善助成金は、最低賃金の引き上げに活用できる助成金

業務改善助成金は、生産性を向上させる設備投資を行って一定額以上の最低賃金を引き上げた場合に利用できる制度です。設備投資などにかかった費用の一部を助成してもらえます。

対象事業者

業務改善助成金の対象事業者は、以下のとおりです。全てを満たす事業者が支給対象になります。

  • 中小企業・小規模事業者であること
  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内であること
  • 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと

中小企業と小規模事業者の定義は、以下のとおりです。

業種

資本金または出資額

労働者数(常勤)

小売業

5,000万円以下

50人以下

サービス業

5,000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他

3億円以下

300人以下

引用:厚生労働省 業務改善助成金

特例事業者

業務改善助成金には特例事業者が設けられています。対象事業者のうち以下のいずれかに該当する事業者は、助成金の上限額・対象経費の拡大を受けられます。

 

特例事業者の対象者

賃金要件

事業場内最低賃金が920円未満の事業場に係る申請を行う事業者

生産量要件

新型コロナウイルス感染症の影響で、売上高や生産量など事業活動が

示す指標の直近3ヶ月間の月平均値が、前年、前々年または3年前同期に

比べて15%以上減少している事業者

物価高騰等要件

物価高騰など社会的・経済的慣行の変化等の外的要因によって、

申請前3ヶ月間で任意の1月の利益率が、

前年同期に比べて3%以上低下している事業者

引用:厚生労働省 業務改善助成金

助成上限額

業務改善助成金の助成額は最低賃金引き上げ額によって異なります。

コース

事業所内の

最低賃金の引き上げ額

賃金を引き上げる

労働者数

30人以上の

事業者の場合

30人未満の

事業者の場合

30円コース

30円以上

1人

30万円

60万円

2〜3人

50万円

90万円

4〜6人

70万円

100万円

7人以上

100万円

120万円

10人以上

120万円

130万円

45円コース

45円以上

1人

45万円

80万円

2〜3人

70万円

110万円

4〜6人

100万円

140万円

7人以上

150万円

160万円

10人以上

180万円

180万円

60円コース

60円以上

1人

60万円

110万円

2〜3人

90万円

160万円

4〜6人

150万円

190万円

7人以上

230万円

230万円

10人以上

300万円

300万円

90円コース

90円以上

1人

90万円

170万円

2〜3人

150万円

240万円

4〜6人

270万円

290万円

7人以上

450万円

450万円

10人以上

600万円

600万円

引用:厚生労働省 業務改善助成金

10人以上の賃金を引き上げる場合の上限額は、特例事業者が対象です。業務改善助成金を利用する際は、自社がどのくらい賃金を引き上げるのかを明確にしてみましょう。また、「生産量要件」と「物価高騰等要件」のみ助成対象経費の拡大を受けることが可能です。特例的な拡充を受けたい場合は、特例事業者の要件を確認してみてください。

助成率

業務改善助成金は経費の全てを助成してもらえるわけではありません。経費に助成率をかけて算出した費用を支援してもらえます。

助成率は以下のとおりです。

引き上げ前の事業場内の最低賃金

助成率

870円未満

9/10

870円以上、920円未満

4/5(9/10)

920円以上

3/4(4/5)

※()内は生産性要件に該当した場合に適用される

引用:厚生労働省 業務改善助成金

助成対象の経費

一般事業者は、生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資が助成対象の経費です。

助成対象経費

経費の例

一般事業者

特例事業者

生産性向上に

資する設備投資

在庫管理を短縮するためのPOSレジシステムの導入、

送迎時間を短縮する車両の導入など

定員7人以上または車両本体価格200万円以下の

乗用自動車や貨物自動車

パソコン、スマートフォン、タブレット等の

端末と周辺機器の新規導入

×

関連する経費

広告宣伝費、汎用事務機器、

事務室の拡大、机や椅子の増設など

×

引用:厚生労働省 業務改善助成金

対象経費ではないものは助成金が支給されないので、事前に要件を確認してから導入しましょう。

申請・事業完了期限

令和5年度の業務改善助成金の申請・事業完了期限は、以下のとおりです。

  • 申請期限:2024年(令和6年)1月31日
  • 事業完了期限:2024年(令和6年)2月28日

期限を過ぎると助成金を受けられないので注意しましょう。

業務改善助成金を申請する流れ

業務改善助成金を申請する際の流れは、以下になります。

  1. 労働局に交付申請書・事業実施計画書などを提出する
  2. 審査後、交付が決定する
  3. 申請内容に沿って事業を実施する
  4. 労働局に事業実績報告書と助成金支給申請書を提出する
  5. 審査後、交付額が確定する
  6. 助成金が振り込まれる

申請に必要な交付要綱と申請様式などの情報は、業務改善助成金の公式サイトに掲載されています。申請前に確認してから手続きを進めてみてください。

業務改善助成金を申請する際の注意点

業務改善助成金の申請をする際は、以下に注意して手続きを進めましょう。

業務改善助成金を申請する際の注意点

過去に業務改善助成金を活用した事業者も対象になる

業務改善助成金は、過去に制度を利用していても助成対象になる点が、他の助成金とは異なります。一般的に助成金や補助金は過去に利用していると、再度受けられません。すでに業務改善助成金を受けている事業者でも、利用を検討してみてください。

申請期間内でも募集が終了になる場合がある

業務改善助成金は申請期間が設けられており、期間内であればいつでも申請ができます。しかし、あらかじめ予算が決まっており、採択した額が予算に達してしまうと期間内でも募集が終了するケースがあります

申請期間内でも早めに書類の準備をして、手続きを進めましょう。

交付決定前の設備投資費は対象外になる

業務改善助成金は交付決定後に導入した設備投資費が対象です。交付決定前に導入しているものは、対象外の経費になるため注意しましょう。

業務改善助成金の採択後の注意事項

交付決定を受けた後の注意事項として、当初の業務改善計画または賃金引上計画に変更がある場合は事業計画変更申請書の提出が必要です。場合によっては、事業完了予定期日変更報告書が必要になるケースもあります。

以下のように少しでも変更があるなら、事前に交付決定を受けた都道府県の労働局に問い合わせをしてみてください。

  • 引き上げ対象の労働者数が減って助成上限額が変更になる
  • 導入予定の助成対象経費が変更になる
  • 導入予定の助成対象経費の支払日・納品日が変更(後ろ倒し)になる

業務改善助成金の活用事例

ここからは、業務改善助成金を利用した賃金の引き上げ事例を紹介します。

株式会社デナリファーム

イチゴやサツマイモの生産・販売をしている株式会社デナリファームは、作業の省力化と増収を両立させて、パートタイム労働者の賃金の引き上げを実現しました。

同社は、農業に従事する人材が減少する中ビジネスとして成り立つ農業について模索していました。労働者が定着し長期的に働いてもらうために、厚生労働省の業務改善助成金を利用することに。

具体的には、今まで人の手で行っていたビニールハウスの環境制御を自動化する環境制御システムを導入しました。ビニールハウス内の温度・湿度・日照時間・給水などの環境を機械的に制御できるようになり、作業の省力化を実現。さらに、作物の生育環境が安定・良好化し、安定的な生産量を確保できるようになり、良質なイチゴの生産にもつながっています。

結果的に、令和3年9月にパートタイム従業員15人の1時間あたりの賃金額を30円引き上げられ、賃金引き上げと増収に成功しています。

株式会社ポトペリー

生活雑貨の企画・製造・販売を行う株式会社ポトペリーは、業務改善助成金の利用によりアルバイト・パート社員や一部正社員の賃金の引き上げを実現しました。

同社はアルバイト・パート社員に子育てをする時短勤務者が多く柔軟な勤務体制をとっていたことから賃上げができていませんでした。専門性が求められる製造業務に見合う賃金額にしたいという思いから業務改善助成金を利用することに。

具体的には、陶磁器の型をつくる機械と電気窯を購入し、今まで手作業だった型づくりの機械化を行って、焼きを倍増して製造数増を効率的に実現しました。その後、原材料の高騰により売上の伸び分を賃上げの原資に充てられませんでしたが、国と江東区の資金貸付制度も活用したことで、賃上げ原資を確保できました。

並行してSNS発信による増収や企業とのタイアップなどで増収を実現し、アルバイト・パート社員7名の時給を1,041円から1,131円に一律90円アップ。さらに、ショップの販売管理や営業・企画を担当する一部の正社員の基本給を265,000円から310,000円に引き上げています。

市村蒲鉾有限会社

食料品の製造を行う市村蒲鉾有限会社は、業務改善助成金を活用して賃上げを行い人材確保や老舗の技術・品質の伝承に取り組んでいます。

食品製造業は手作業が多く人手に頼らないといけない状況ですが、人手不足により従業員の離職や新たな人材確保に課題がありました。同社は国が最低賃金を1000円以上に引き上げるという方針を発表したことで、大手企業に先駆けて賃金引き上げに取り組むことを判断しています。

今までの機械は賞味期限の日付変更を手作業で行っていたため慣れと時間がかかっていました。2021年度に業務改善助成金の申請を行って自動包装機械を導入したことで、タッチパネルで賞味期限の日付変更を素早く誰でもできるようになりました。

さらに一定の慣れと勘を要していた包装フィルムの張りや位置合わせなどの微調整も容易になり、時間のロスが減少し、オペレーターのストレスも軽減されています。新機器の導入が生産性の向上に貢献した結果、賃上げの原資の確保につながっています

結果的に、パート従業員の事業場内最低賃金(時間額)を91円引き上げることに成功。長期間勤務しているパート従業員には賃金の上乗せを実施し、不公平感を生じさせない賃金バランスにしました。長期在籍しているパート従業員から感謝の声を聞けたり、60歳以上のパート従業員の応募者が増えたりする効果が得られています。

業務改善助成金について解説しました

ここまで業務改善助成金を解説しました。業務改善助成金は生産性の向上を実現するために、設備投資を行い最低賃金を一定以上引き上げる際に利用できる制度です。最低賃金の引き上げ額や対象の労働者数に応じて、支給額が決まります。

業務改善助成金を利用するなら、本記事をお役立てください。