ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介

自社のDXにAIを活用したいが費用を捻出できず、ものづくり補助金の活用を考える企業は多いのではないでしょうか。しかし要件が難解で、申請しても採択されるか、不安な方もいるでしょう。

本記事ではAI導入のためにものづくり補助金を申請する方法や、AI導入に使える他の支援事業、採択されるポイントと採択事例を解説します。

目次
  1. 1. ものづくり補助金はAI導入に活用できる
    1. 1-1. AI導入に活用できる申請枠
    2. 1-2. 補助対象者
    3. 1-3. 補助対象経費
    4. 1-4. 基本要件
    5. 1-5. 補助額・補助率
    6. 1-6. 申請方法・スケジュール
  2. 2. AIを導入するメリット
    1. 2-1. 人的リソースの有効活用
    2. 2-2. 生産性向上と利益の最大化
    3. 2-3. ビッグデータの利活用
    4. 2-4. 顧客満足度の向上
    5. 2-5. 危険回避と安全性の向上
  3. 3. AI導入の注意点
    1. 3-1. AIを導入したのみでは補助対象とならない場合がある
    2. 3-2. セキュリティ対策が必要
  4. 4. AI導入でものづくり補助金に採択されるポイント
    1. 4-1. AIの活用方法と見込まれる効果を具体的に説明する
    2. 4-2. 要件を申請書類に確実に盛り込む
    3. 4-3. 審査項目・加点項目を確認する
  5. 5. AI導入でものづくり補助金に採択された事例
    1. 5-1. カルビーポテトかいつか株式会社(旧 株式会社ポテトかいつか:卸売業・小売業)
    2. 5-2. UNTRACKED株式会社(電気機械器具製造業)
    3. 5-3. 株式会社アクト・ノード(情報サービス業)
    4. 5-4. 株式会社マルマ(飲食品卸売業)
    5. 5-5. フリーズ・フレーム・ジャパン株式会社(その他の生活関連サービス業)
  6. 6. AI導入・AI開発に使えるものづくり補助金以外の制度
    1. 6-1. IT導入補助金
    2. 6-2. 小規模事業者持続化補助金
    3. 6-3. AI活用融資
  7. 7. 【まとめ】AI導入に利用できるものづくり補助金について解説しました

ものづくり補助金はAI導入に活用できる

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_9

画像引用:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.0版

ものづくり補助金(正式名称「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」)は、AI導入に活用できる国の支援制度です。

制度の目的は、中小企業・小規模事業者による「革新的サービス開発」「試作品開発」「生産プロセスの改善を行うための投資」に対する支援。働き方改革・被用者保険の適用拡大・賃上げ・インボイス導入といった、相次ぐ制度変更に対する事業者の対応をサポートする目的もあります。

補助対象経費総額の2分の1以上という高い補助率が特徴で、事業者に給与や最低賃金の引き上げ、付加価値の増加も促しています。

AI導入に活用できる申請枠

ものづくり補助金(18次公募回)でAI導入に使える申請枠は、以下の2つです。

  • 省力化(オーダーメイド)枠
  • 製品・サービス高付加価値化枠
    1.通常類型
    2.成長分野進出類型(DX・GX)

省力化(オーダーメイド)枠

「省力化(オーダーメイド)枠」は、デジタル技術を活用した専用設備(オーダーメイド設備)の導入にかかる設備・システム投資を支援する枠です。事業者は補助金でICTやIoT、AI、ロボット、センサーを導入し、人手不足を解消しながら、革新的な生産プロセス・サービス提供方法の効率化・高度化を図れます。

ここでいう「デジタル技術を活用した専用設備(オーダーメイド設備)」の定義は以下のとおりです。

「ICTやIoT・AI・ロボット・センサーを活用して生産工程を自動化するために、外部のシステムインテグレータ(SIer)と連携し、事業者の業務専用に設計された機械装置やシステム」

省力化(オーダーメイド)枠で申請する場合は、3~5年の事業計画期間内に以下の要件すべてを満たすことが求められます。

  • 労働生産性が2倍以上となる事業計画の策定
  • 投資回収可能な事業計画の策定
  • 外部SIerを活用する場合、保守・メンテナンス契約をSIerと締結し、SIerは必要な体制を整備する

省力化(オーダーメイド)枠の補助上限額と補助率は、事業者規模と従業員数により異なり、詳細は後述します。

製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)

「製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)」は、事業における革新的な製品・サービス開発に必要な設備・システム投資を支援する枠・類型です。「顧客への新たな価値提供」を目的に、導入した設備・システムを用いて「自社の技術力を活かして製品・サービスを開発」する事業が対象です。

ここでいう開発とはAI、IoT、センサー、デジタル技術を活用した「遠隔操作」「自動制御」「プロセスの可視化」などの機能を持つ製品・サービスの開発(部品、ソフトウェア開発を含む)を指します。

製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)で、3~5年の事業計画期間内に満たすべき要件は以下のとおりです。

  • 開発した新製品・サービスの売上高の合計額が、企業全体の売上高の10%以上となる事業計画を策定すること

製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)の補助上限額と補助率は従業員数と事業者規模により異なり、詳細は後述します。

製品・サービス高付加価値化枠(成長分野進出類型 DX・GX)

「成長分野進出類型(DX・GX)」は、今後成長が見込まれる分野(DX・GX)での革新的な製品・サービス開発に必要な設備・システム投資を支援する類型です。

成長分野進出類型(DX・GX)では、以下の要件1および2もしくは3を満たす必要があります。

  1. 3~5年の事業計画期間内に、新製品・サービスの売上高の合計額が総売上高の10%以上となる事業計画を策定すること
  2. DXにつながる革新的な製品・サービスの開発であること
  3. グリーン成長戦略「実行計画」14分野※に掲げられた課題の解決につながる、革新的な製品・サービスの開発であること

※グリーン成長戦略「実行計画」14分野:2021年策定の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で「実行計画」が策定されている14分野のこと

成長分野進出類型(DX・GX)の補助上限金額と補助率は通常類型よりも大きく、詳細は後述します。

補助対象者

ものづくり補助金の補助対象事業者は、日本国内に本社と補助事業の実施場所を持つ以下のいずれかに当てはまる事業者です。

  • 中小企業者(組合関連以外)
  • 中小企業者(組合・法人関連)
  • 小規模企業者・小規模事業者(個人事業主を含む)
  • 特定事業者の一部
  • 特定非営利活動法人
  • 社会福祉法人

ただし以下に当てはまる場合は、申請時点で補助対象外です。

  • 過去3年間に、2回以上、本事業の交付決定を受けた事業者
  • みなし大企業※
  • 申告済みの直近3年分の各年または各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超える事業者
  • 法律に規定する暴力団または暴力団員と関係がある事業者
  • 他の助成制度との重複申請
  • 他の事業者との計画重複
  • 虚偽の申請をした事業者
  • 過去の採択事業者で「事業化状況・知的財産権等報告書」を未提出の者
  • 補助金を受ける目的で、一時的に資本金や従業員数の増減を行った事業者

※事業者規模が中小企業・小規模事業者であっても、以下の条件に当てはまると「みなし大企業」として補助対象外となります。

  • 発行済株式の総数、または出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有
  • 発行済株式の総数または出資価格の総額の3分の2以上を大企業が所有
  • 大企業の役員または職員を兼ねている者が役員総数の2分の1以上を占める
  • 発行済株式の総数または出資価格の総額を、上記3つに当てはまる中小企業者が所有している
  • 役員総数のすべてが上記4つに当てはまる中小企業者の役員・職員を兼任している

出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.0版

補助対象経費

ものづくり補助金の補助対象経費には、補助事業のために使用される以下の費用が該当します。

補助対象経費

概要

備考

機械装置・

システム構築費

  • 機械・装置、工具・器具の購入、製作、借用の経費
  • 専用ソフトウェア・情報システムの購入・構築、借用の経費
  • 上記にともなう改良・修繕または据付けの経費

単価50万円(税抜き)以上の設備投資が必須

 

技術導入費

  • 本事業に必要な知的財産権の導入経費

上限額は補助対象経費総額(税抜き)の3分の1

専門家経費

  • 本事業のために依頼した専門家に支払われる経費

上限額は補助対象経費総額(税

抜き)の2分の1

運搬費

  • 運搬料、宅配・郵送料などの経費

_

クラウドサービス利用費

  • クラウドサービスの利用に関する経費

_

原材料費

  • 試作品の開発に必要な原材料・副資材の購入経費

_

外注費

  • 新製品・サービスの開発に必要な加工や
    設計(デザイン)・検査の一部を外注する経費

上限額は補助対象経費総額(税抜き)の2分の1

知的財産権等関連経費

  • 新製品・サービスの事業化に必要な知的財産権の取得にかかる
    弁理士の手続代行費用・
    外国特許出願などにかかる経費

上限額は補助対象経費総額(税抜き)の3分の1

出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.0版

上記のうち、次の条件を満たした経費が補助対象となります。

  • 補助事業の対象と明確に区分できること
  • 経費の必要性・金額の妥当性が証拠書類で明確に確認できること
  • 交付決定以降に発注し、補助事業実施期間内に支払いを完了していること

一方、以下に当てはまる経費は補助対象外です。

  • 販売する目的の製品・商品を生産する機械装置・システム構築費以外の諸経費(試作品の原材料費は補助対象)
  • 工場や構築物、簡易建物の取得費用および建てる部材の取得費用
  • 再生エネルギーの発電設備と附属設備
  • 設置場所の整備工事や基礎工事の費用
  • 家賃、保証金、敷金、仲介手数料、光熱水費
  • 電話代、インターネット利用料金などの通信費(クラウドサービス利用費以外)
  • 商品券などの金券
  • 消耗品代、雑誌・新聞代、団体会費
  • 飲食・娯楽・接待費
  • 不動産・車両の購入・修理・車検の費用
  • 税務申告・決算書作成の税理士・公認会計士の支払い費用と訴訟の弁護士費用
  • 収入印紙
  • 振込(代引手数料を含む)・両替手数料
  • 消費税・地方消費税額
  • 各種保険料
  • 借入金の利息・遅延金
  • 事務局に提出する書類の作成・申請費用
  • ※汎用性があり、補助事業のみに使用すると証明できない費用
  • 価格設定の適正性が明確でない中古品の購入費
  • 事業にかかる自社の人件費
  • 同一代表者・役員が含まれる事業者や、資本関係がある事業者への支払い
  • 上記のほか、公的な資金の用途として社会通念上、不適切と認められる経費

※汎用性のある経費の例:事務用のパソコン・プリンタ・文書作成ソフトウェア・タブレット端末・スマートフォン・デジタル複合機・キュービクル・乗用エレベータ・家具・3Dプリンター など

計上する経費が補助対象かどうか不明な場合は、専門家に相談するか、補助金事務局に確認しましょう。

出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.0版

基本要件

ものづくり補助金に申請する際には、以下の要件すべてを満たす事業計画を策定する必要があります。

  • 給与支給総額の増加:事業計画期間で、給与支給総額を年平均成長率1.5%以上増加させること
  • 最低賃金の引上げ:事業計画期間で、事業場内最低賃金が毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準となること
  • 付加価値額の増加:事業計画期間で、付加価値額を年平均成長率 3%以上増加させること

補助額・補助率

ものづくり補助金の補助額と補助率は、申請枠と従業員数により異なり、省力化枠と製品・サービス高付加価値化枠では以下のとおりです。

枠・類型

補助上限額(大幅賃上げを行う場合)

補助率(補助対象経費総額に対して)

省力化(オーダーメイド)枠

5人以下 :750万円(1,000万円)

 6~20人 :1,500万円(2,000万円)

 21~50人 :3,000万円(4,000万円)

 51~99人 :5,000万円(6,500万円)

 100人以上:8,000万円(1億円)

中小企業 :1/2

小規模企業者・再生事業者:2/3

※補助金額1,500万円までは1/2もしくは2/3、
 1,500万円を超える部分は1/3

製品・サービス高付加価値化枠

通常類型

5人以下 :750万円(850万円)

 6~20人 :1,000万円(1,250万円)

 21人以上 :1,250万円(2,250万円)

中小企業: 1/2

小規模企業者・再生事業者:2/3

成長分野進出類型
(DX・GX)

5人以下 :1,000万円(1,100万円)

 6~20人 :1,500万円(1,750万円)

 21人以上 :2,500万円(3,500万円)

2/3

出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.0版

申請方法・スケジュール

ものづくり補助金の申請方法は、電子申請システム「 jGrants」のみで、郵送は受け付けていません。申請には「GビズIDプライムアカウントへの事業者登録が必要で、IDの取得までに時間がかかるため、ゆとりを持った手続きが必要です。

申請に必要な書類は以下のとおりです。

  • 事業者情報(法人番号、代表者氏名、本社所在地、株主等一覧など)
  • 経費明細
  • 事業計画書
  • 事業計画書算出根拠
  • 補助経費に関する誓約書
  • 賃金引上げ計画の誓約書
  • 決算書など
  • 従業員の確認書類
  • 労働者名簿

再生事業者や新型コロナ加速化特例申請者、大幅賃上げ特例申請者、金融機関から借り入れを行う事業者、加点申請を行う事業者は別途提出書類があるため、公募要項でご確認ください。なお、ものづくり補助金の申請書類については、以下の記事で詳細に解説しています。

関連記事:ものづくり補助金の申請書類は?申請の流れや記載時のポイントも解説

jグランツでの申請手続きは「jグランツ事業者向け_入力ガイド」に従い、以下の流れで行います。

  1. 「補助金を探す」から申請したい補助金を選択
  2. GビズIDでログイン後「申請する」を選択
  3. 申請フォームへ入力、必要書類を添付

2024年3月現在、18次公募回の申請期限は「2024年 3月 27日(水)17:00まで」となっています。公式サイト上では「令和5年度補正予算に基づく公募は、本公募で終了」とあり、今後の公募の実施については不明です。

出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.0版

AIを導入するメリット

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_1

ここで、ものづくり補助金を活用してAIを導入するメリットを紹介します。

人的リソースの有効活用

これまで人間が携わってきた業務の一部をAIが担えれば、人的リソースの有効活用が可能です。

単純作業などの定型業務、AIが得意とする業務をAIに割り振れば、現場の人手不足解消が期待できます。さらに定型作業に当たっていた人材を、より専門的なコア業務に専念させることも可能です。

工場や倉庫のルーティンワークやデータ入力のような単純なタスクは、AIで自動化できる可能性が高いでしょう。

生産性向上と利益の最大化

業務へのAI導入により、生産性の向上と経費節減による利益の最大化も期待できます。

AIには疲労や集中力低下が起こらないため、24時間の精密な作業も可能。ヒューマンエラーによるロスを削減しながら、稼働率を上げられます。

現場にAIを活用すれば作業のムリ・ムダ・ムラを防ぎ、人件費やインフラコストを抑えながら、事業の生産性を高められるでしょう。

ビッグデータの利活用

AIはルーティンワークや定型作業だけでなく、データの利活用にも貢献します。

人間が把握困難なデータでも、AIの機械学習アルゴリズムを利用すれば、傾向やパターンを容易に分析・予測ができます。例えばECサイトでAIを導入すれば、顧客の属性や購入履歴をもとに、購入につながるレコメンドを表示できる可能性が高まります。

ビッグデータを活用すれば、今後のトレンド把握や需要予測・販売予測も可能になるでしょう。

顧客満足度の向上

Aiをビジネスの多様なシーンで活用すれば、顧客満足度を高められる可能性があります。

例えばチャットボットで顧客の「声」を収集しながら、AIで顧客の行動パターンや思考も分析が可能。顧客の個別ニーズから市場のトレンドまで詳細に把握でき、ターゲットごとに的確なサービス提供が可能です。

さらにAIは製品の異常を精密に検知できるため、早期点検・早期修繕による品質の維持・管理にも貢献でき、顧客満足度をより高められるでしょう。

危険回避と安全性の向上

AIには危険予測と危険作業の代替が可能です。

建設業や製造業などで、これまで人が行ってきた危険な作業工程の一部を、AIに代替させられれば、作業員による作業の危険度を軽減できます。またAIは精度の高い危険予測が可能なため、現場で起こり得る事故を未然に防ぐことも可能です。

AIは現場に必要なリソースを自動的に算出も可能なため、必要最低限の人員を現場に配置するコントロールもできるでしょう。

AI導入の注意点

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_2

ものづくり補助金を活用したAI導入にはメリットがある半面、注意点もあるため、1つずつ解説します。

AIを導入したのみでは補助対象とならない場合がある

ものづくり補助金では、単にAIを導入しただけでは補助対象とならない場合がある点に注意が必要です。

製品・サービス高付加価値化枠の公募要項には「設備・システムを導入するだけで、製品・サービスの開発を伴わないものは該当しない」と明記されています。同枠の補助対象は「革新的な製品・サービス」を「自社の技術力を活かして開発」する事業のため、事業計画から明確な開発の目的が読み取れる必要があるのです。

セキュリティ対策が必要

AIのビジネス導入には利便性・生産性の多大な恩恵がある一方で、セキュリティ面でのリスクがある点も見逃せません。

AIを狙ったハッキングによる情報漏洩のリスクが特に懸念されます。AIの導入計画においては、ウイルス対策ソフトやパスワード管理、アクセス権限の厳格化などの対策まで、盛り込んでおくことが重要です。

ものづくり補助金の公募要項にも「生産性向上をともなえば、製品やサービスのセキュリティ向上のためのソフトウェアを補助対象経費に含められる」と記載があります。AI導入はセキュリティ対策までを1セットとして実施しましょう。

AI導入でものづくり補助金に採択されるポイント

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_5

AI導入でものづくり補助金に採択されやすくするために、事業計画書の記載内容で押さえるべきポイントを解説します。

AIの活用方法と見込まれる効果を具体的に説明する

補助金申請を採択されやすくするためには、AIをどう活用し、AIがどのように自社の新規事業やDXに貢献するのかを、具体的に説明することが重要です。AI活用事業に取り組む「必要性」と、事業の「目的」、達成するための「手段」をそれぞれ明確に記載しましょう。

AIの活用で自社に見込まれる効果については、数値による定量的な説明も必要です。導入前の課題と導入後の展望を数値で説明できれば、目標達成までのプロセスと根拠を明確に示すことができ、審査でアピールが可能です。

要件を申請書類に確実に盛り込む

補助金申請時に、ものづくり補助金の要件を満たす事業計画であることが、採択に向けての必須条件です。

審査では、公募要領に記載された対象事業・対象者であるか、申請要件・申請枠・補助率を満たしているか、基本要件を達成する事業計画であるかを最初にチェックされます。基本要件「給与支給総額の増加」「最低賃金の引き上げ」「付加価値額の増加」について、期間中に達成できることが明確な事業計画書を作成しましょう。

審査項目・加点項目を確認する

審査項目については申請枠ごとに、どのようなポイントで審査され、どのような加点項目があるのか、自社に当てはまる加点項目はあるのか確認しましょう。

審査では「技術面」「事業化面」「政策面」からチェックされます。

  • 技術面:製品やサービスの革新性、課題解決方法の明確性・具体性
  • 事業化面:事業化計画の具体性、製品・サービスの市場性、企業の収益性・生産性
  • 政策面:地域経済への貢献性、国の経済政策への貢献性

また、今後起こり得る中長期的な経済・社会構造の変化に対応できる可能性があるとみなされれば、審査時に加点される項目もあるため、確認しましょう。

  • 成長性加点
  • 政策加点(創業5年以内、DX認定事業者、J-Startup、GXリーグ参画 など)
  • 賃上げ加点
  • 女性活躍等の推進の取り組み加点(えるぼし、くるみん など)

自社に当てはまる加点項目があれば、申請書類に記載・貼付し、審査時のアピールポイントに加えましょう。なお、採択率を高める事業計画書の作成方法は、以下の記事で詳細に解説していますのでご参照ください。

関連記事:ものづくり補助金の事業計画書の書き方|項目・記載ポイントを紹介

AI導入でものづくり補助金に採択された事例

AIは比較的新しい技術で高価なため、大企業以外での導入事例は多いとはいえないかもしれません。ここではAI導入でものづくり補助金に採択された、貴重な中小企業の事例を紹介します。

  • カルビーポテトかいつか株式会社(旧 株式会社ポテトかいつか:卸売業・小売業)
  • UNTRACKED株式会社(電気機械器具製造業)
  • 株式会社アクト・ノード(情報サービス業)
  • 株式会社マルマ(飲食品卸売業)
  • フリーズ・フレーム・ジャパン株式会社(その他の生活関連サービス業)

カルビーポテトかいつか株式会社(旧 株式会社ポテトかいつか:卸売業・小売業)

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_10

画像引用:カルビーかいつかスイートポテト株式会社

茨城県かすみがうら市の「カルビーポテトかいつか株式会社」は、茨城県名産のさつまいもを全国に販売する卸売・小売業者です。仕入先の生産者と密接に連携し、必要な情報を提供しながらさつまいもの品質を高めています。

さつまいもの自社生産を開始した同社では、独自技術で熟成させ糖度を高めたさつまいものブランド化を企画。さらなる製品の品質向上と人手不足への対応策として、ものづくり補助金を活用した、AIによる生産ラインの自動化に取り組みました。

新設備の導入により、外注がメインだったさつまいもの加工品製造について、自社生産体制の強化を図ることができ、内製化は順調に進んでいるとのこと。ものづくり補助金をAI導入に活用し、生産性とブランド力を高めた好事例といえます。

UNTRACKED株式会社(電気機械器具製造業)

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_4

画像引用:UNTRACKED株式会社

横浜国立大学発ベンチャー企業「UNTRACKED株式会社」は、最先端の医療用人間支援機器を提供する会社です。

同社では独自の確率的AI技術を開発し、人間の立位機能・転倒リスクの可視化と機能回復自動提案装置「StA²BLE」の商品化に成功。人間が何かに触れていると安定するという現象をもとに「立位年齢」を1分足らずで測定できる機器です。

人間の「感覚」に着目し、転倒リスクを計測する機器・システムは、世界初となる革新的なサービスです。超高齢化社会の課題解決につながるStA²BLEは「日経2022Healthtech/SUMピッチコンテスト最優秀賞」をはじめ、数々のアワードを獲得しています。

株式会社アクト・ノード(情報サービス業)

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_6

画像引用:アクト・ノード

株式会社アクト・ノードは、一次産業とバリューチェーンのシステムデザイン・開発・運用、ITコンサルテーションを手がけている会社です。

同社ではものづくり補助金を活用し、クラウドやIT・IoT、AIテクノロジーを活用した一次産業生産活動記録アプリ「ACT.app」を開発。アプリでは作業内容や資材・環境・生育状況まで、生産にかかわるすべての情報を、一括管理・可視化が可能です。

例えば「AIカメラによる養鶏ブロイラーの24時間体重計測」で採集したデータを、クラウドで一元管理し、レポート・グラフ化しダッシュボードに表示してくれます。作業現場での記録が簡易化されたほか、データをグループで共有できるため、管理業務の大幅な効率化も実現できました。

ものづくり補助金をAI導入に活用し、自動化が困難とされた一次産業のシステム化と、生産性向上に貢献した事例です。

株式会社マルマ(飲食品卸売業)

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_7

画像引用:事業内容|株式会社マルマ 静岡県三ケ日町

株式会社マルマは、蜜柑を中心とした農産物を出荷契約し、全国の市場や小売店へ出荷・販売する青果物販売代行事業者です。生産農家との協働で生産技術を向上させ「マルマブランド」を構築しています。

ブランドの海外進出を図る同社の課題は、従来の目視による選果方法では外傷を検知できず、海外への輸出に対応しきれないこと。目視には多大な時間と人員がかかるほか、腐敗した蜜柑を見逃すと腐敗が周囲へ広がってしまうという、柑橘類ならではのリスクも課題でした。

そこで同社はものづくり補助金で高度検査アルゴリズムを導入した「蜜柑AIビジョン」を導入。傷の混入率を2%から0.01% 以下に、腐敗の混入率を0.3%から0.2%以下まで抑えることに成功しています。

AI検査システムにより、検査技術への信用性を高め、海外への長期輸送を可能にしたことで、ブランドの付加価値向上と新たな販路開拓につなげた好事例です。

フリーズ・フレーム・ジャパン株式会社(その他の生活関連サービス業)

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_8

画像引用:フリーズフレームジャパン

山梨県富士吉田市のフリーズ・フレーム・ジャパン株式会社は、米国企業の日本法人として設立され、日本全国の遊園地での記念撮影サービスを展開する会社です。

同社の看板サービスの1つは、富士急ハイランド内の「FUJIYAMA TOWER」展望台での、富士山をバックにしたプロによる記念撮影。しかし曇天により富士山が見えない日も多く、記念写真やSNS映えする写真が撮れない日も少なくありません。

そこで同社はものづくり補助事業を活用して、曇天時の記念撮影向けにAIを用いた画像作成ソフトウェアを導入。従来の専用スクリーンと照明器具を使う写真合成手法では困難な、屋外での撮影と画像合成を可能にしました。同時にデータ販売システムも開発したため、ユーザーはダイナミックな富士山を背景に撮った写真を、その場でSNSに投稿もできます。

コロナ禍で打撃を受けた観光産業に対し、革新的なサービス開発で貢献した好事例です。

AI導入・AI開発に使えるものづくり補助金以外の制度

ものづくり補助金はAI導入に活用可能?申請方法と採択事例を紹介_3

最後にものづくり補助金の次回公募を待てない方のために、ものづくり補助金以外のAI導入に使える補助金や制度を紹介します。

IT導入補助金

「IT導入補助金」は、中小企業・小規模事業者による業務効率化やDXのための ITツール導入を支援する制度です。

他の制度では補助対象とならない「ハードウェア」や、相談・コンサルティング・サポートの費用やクラウドサービス利用料も補助対象に含まれる点が特徴です。

補助対象となるITツール(ソフトウェア、サービス)は、事務局の審査を受け公式HPに登録されているものです。申請に当たっては、事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組む必要があります。

出典:ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)

2024年の同補助金支援枠のうち、AI導入に活用できる可能性が高いのは「通常枠」と「複数社連携IT導入枠」で、補助額は30万円~450万円/者、補助率は1/2~4/5です。

申請手続きは「gBizID」プライムアカウントから行います。申請時に「みらデジ」で経営チェックを受け、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「SECURITY ACTION」の宣言をすることが必要です。

なお、複数社連携IT導入枠以外では、事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで申請する必要がある点にご注意ください。

出典:IT導入補助金公募要領(2024.3.15版)

小規模事業者持続化補助金

「小規模事業者持続化補助金」とは、小規模事業者の販路開拓・生産性の向上・持続的発展を支援する制度です。商工会と商工会議所が運営主体となっていますが、両会の非会員でも申請は可能です。

補助対象となる「小規模事業者」とは「宿泊・娯楽業を除く商業・サービス業」で5人以下、「宿泊業・娯楽業」「製造業その他」で20人以下の事業者で、個人事業主も含まれます。

補助対象事業は、販路開拓のための事業、もしくは販路開拓を目的とした業務効率化のための事業で、商工会(商工会議所)の支援を受けて行われなければなりません。

補助対象経費は、策定した「経営計画」に基づいて実施される事業に使われる以下の経費です。AI導入に活用できる可能性の高い申請枠「通常枠」の補助上限は50万円、補助率は対象経費の2/3です。

  • 機械装置の費用
  • 広報費
  • ウェブサイト関連費
  • 展示会等出展費(オンライン展示会・商談会を含む)
  • 旅費
  • 新商品開発費
  • 資料購入費
  • 借料
  • 設備処分費
  • 委託・外注費

申請手続きは電子申請と郵送の2種類で受け付けています。事業所が商工会・商工会議所どちらのエリアかによって申請先が異なるため、事前に確認が必要です。

出典:小規模事業者持続化補助金<一般型> 第15回公募 公募要領

AI活用融資

「AI活用融資」とは、AI活用により付加価値向上を図る中小企業に対し、必要な設備資金を特別利率で融資する日本政策金融公庫の支援制度です。

融資対象のAI活用とは「経営関連のデータを用いて、従来は人間の経験や勘で行われていた知的活動を代替・補完・強化しうるような『最適解の予測』を行うこと」です。具体的には以下の活用法が挙げられます。

  • 撮影した画像データの解析による、識別・検査作業の自動化・多機能化
  • 収集したデータの学習による来客・需要・故障の予測、および施策実施計画の提案
  • 収集したデータの学習・解析結果を用いた言語処理

貸付限度額7.2億円の融資を、利率0.65%以下の低金利で20年まで受けられる点が同制度の特徴。申請時には、日本政策金融公庫の審査を受ける必要があり、貸付対象範囲は以下のとおりです。

  • AIを活用して生産性向上を図る中小企業
  • 中小企業庁が指定する認定情報処理支援機関「スマートSMEサポーター※」から、AIの導入に関する指導・助言を受けること

※スマートSMEサポーター:中小企業庁経営支援課により、中小企業のIT活用支援に相応しい実績を持つと認定された、ITベンダーなどの情報処理機関のこと。

【まとめ】AI導入に利用できるものづくり補助金について解説しました

AI導入のためのものづくり補助金申請に採択されるのは、AI導入の目的が明確な業務効率化、もしくは革新的な製品・サービス開発であるケースです。

補助金に採択されるためには、要件を満たすだけでなく、事業計画書に自社の課題とAIを導入する目的、導入後に見込まれる明確な成果を記載する必要があります。補助金を活用した事業が、加点項目に該当するかどうかも確認し、ものづくり補助金の採択率を高めましょう。