事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請できる?概要や注意点を解説

個人事業主

事業承継・引継ぎ補助金を活用したいと考えている個人事業主の方も多いのではないでしょうか。ただ、個人事業主が事業承継・引継ぎ補助金を申請できるか、注意点はあるかなどがわからない方もいるでしょう。

本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の概要や対象外になる個人事業主のポイント、申請方法、注意点、よくある質問などについて詳しく解説します。

目次
  1. 1. 事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも受け取れる可能性がある
    1. 1-1. 申請枠の種類
    2. 1-2. 補助上限額と補助率
    3. 1-3. 対象経費
    4. 1-4. スケジュール
  2. 2. 事業承継・引継ぎ補助金の対象外になる個人事業主のポイント
    1. 2-1. 白色申告の事業主
    2. 2-2. 専門家活用枠で青色申告を開始してから5年未満
    3. 2-3. 引き継ぐ従業員がいない専門家活用枠
    4. 2-4. 単なる不動産や物品の売買など
    5. 2-5. 0円の事業譲渡や1円の株式譲渡
    6. 2-6. 事業譲渡と見せかけたのれん分けやフランチャイズ契約
  3. 3. 事業承継・引継ぎ補助金の申請方法
    1. 3-1. 要件や申請枠の確認
    2. 3-2. 認定経営革新等支援機関へ相談
    3. 3-3. gBizIDプライムアカウントの取得
    4. 3-4. 必要書類の準備と申請
  4. 4. 事業承継・引継ぎ補助金の注意点
    1. 4-1. 課税対象になる
    2. 4-2. 後払いされる
    3. 4-3. 採択後に必要な手続きも存在する
    4. 4-4. 必ず採択されるわけではない
  5. 5. 事業承継・引継ぎ補助金の採択率
  6. 6. 事業承継・引継ぎ補助金の採択確率を高めるポイント
    1. 6-1. 審査項目を把握する
    2. 6-2. 加点項目を把握する
  7. 7. 事業承継・引継ぎ補助金を個人事業主で申請する際のよくある質問
    1. 7-1. 親族の事業承継も対象になる?
    2. 7-2. 外国籍も対象になる?
    3. 7-3. 不採択になった場合、再申請はできる?
    4. 7-4. 不採択の理由は確認できる?
  8. 8. 個人事業主が申請可能な他の補助金
    1. 8-1. 小規模事業者持続化補助金
    2. 8-2. ものづくり補助金
    3. 8-3. 事業再構築補助金
  9. 9. 【まとめ】個人事業主の事業承継・引継ぎ補助金について紹介しました

事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも受け取れる可能性がある

事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業者や個人事業主が事業承継もしくは事業再編および事業統合を機に、新たな取り組みを行う経費をサポートするものです。事業承継や事業再編などを促進し、日本経済の活性化が目的です。

以下では、事業承継・引継ぎ補助金について解説します。

申請枠の種類

事業承継・引継ぎ補助金の申請枠には、経営革新枠、専門家活用枠、廃業・再チャレンジ枠の3つが存在します。それぞれ、要件や対象者、補助金額などが異なるため、注意しましょう。

経営革新枠

経営革新枠は、事業承継やM&Aにより、経営・事業を引き継いだ(もしくは引き継ぐ予定である)中小企業者・個人事業主を対象とした枠です。引き継いだ経営資源を活用し、経営革新を行う費用の一部をサポートしてくれます。

経営革新枠には、以下の3類型が存在します。

 

要件(全てを満たす方が対象)

創業支援型

(Ⅰ類)

・事業承継対象期間内(2019年11月23日から2024年11月22日)の

  •  法人(中小企業者)設立、もしくは個人事業主としての開業
  • ・創業にあたり、廃業を予定している方から株式譲渡や事業譲渡などで、
  •  経営資源(設備、従業員、顧客など)の引き継ぎを受ける

経営者交代型

(Ⅱ類)

・親族内承継や従業員承継などの事業承継(事業再生を伴うものを含む)

  • ・産業競争力強化法にもとづく認定市区町村または
  •  認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者など、
  •  経営に関して一定の実績や知識を有している者である

M&A型

(Ⅲ類)

・事業再編・事業統合などのM&A

  • ・産業競争力強化法にもとづく認定市区町村または
  •  認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者など、
  •  経営に関して一定の実績や知識を有している者である

専門家活用枠

専門家活用枠は、後継者不在や経営力強化といった経営資源引継ぎ(M&A)のニーズをもつ中小企業者や個人事業主などを対象とした枠です。経営資源の引継ぎを行う際に活用する専門家の費用をサポートしてくれます。

専門家活用枠には、以下の2類型が存在します。

 

要件(全てを満たす方が対象)

買い手支援型

(Ⅰ型)

事業再編や事業統合にともない、経営資源を譲り受ける予定の中小企業や個人

 

  • ・事業再編や事業統合にともない経営資源を譲り受けた後に、
  •  シナジーを活かした経営革新を行うことが見込まれる
  • ・事業再編や事業統合にともない経営資源を譲り受けた後に、
  •  地域の雇用をはじめ、地域経済全体をけん引する事業を行うことが見込まれる

売り手支援型

(Ⅱ型)

事業再編や事業統合にともない、自社が有する経営資源を譲り渡す予定の中小企業や個人

 

  • ・地域の雇用をはじめとする地域経済全体をけん引する事業を行っている
  • ・事業再編や事業統合にともない、
  •  地域経済全体をけん引する事業が第三者により継続されることが見込まれる

廃業・再チャレンジ枠

廃業・再チャレンジ枠は、M&Aによる事業譲渡できなかった中小企業の株主や個人事業主を対象とした枠です。各地域における新たな需要の創造・雇用創出に向けた、新たなチャレンジのために、既存事業を廃業する経費の一部をサポートしてくれます。

廃業・再チャレンジ枠には、以下の2類型が存在します。

 

詳細

併用申請型

経営革新枠および専門家活用枠と併用申請できる類型です。

以下のいずれかに該当する事業を対象にしています。

 

  • ・会社自体を廃業するために、廃業登記や在庫を処分、
  •  建物・設備の解体、原状回復を行う事業
  • ・事業の一部を廃業(事業撤退)するために、
  •  廃業登記や在庫の処分、建物・設備の解体、原状回復を行う事業

再チャレンジ申請型

・会社自体を廃業するために、廃業登記や在庫の処分、

 建物・設備の解体、原状回復を行う事業が対象です。

・M&Aで事業譲渡ができなかった中小企業の株主や個人事業主が、

 地域の需要創造・雇用創出に貢献するチャレンジをするための

 既存事業の廃業をサポートしてくれます。

補助上限額と補助率

各枠ごとの補助上限額と補助率は以下の通りです。

 

補助率

補助下限額

補助上限額

上乗せ額

(廃業費)

経営革新枠

創業支援類型

(Ⅰ型)

補助対象経費の

3分の2以内

もしくは2分の1以内

100万円

600万円以内

もしくは

800万円以内

+150万円以内

経営者交代類型

(Ⅱ型)

M&A類型

(Ⅲ型)

専門家活用枠

買い手支援類型

(Ⅰ型)

補助対象経費の

3分の2以内

もしくは2分の1以内

50万円

600万円以内

+150万円以内

売り手支援類型

(Ⅱ型)

廃業・再チャレンジ枠

補助対象経費の

3分の2以内

50万円

150万円以内

 

なお、交付申請時の補助額が補助下限額を下回る申請はできません。補助率は、以下いずれかの条件を満たせば、2分の1以内から3分の2以内まで引き上げられます。

 

引き上げの条件

経営革新枠

  • ・中小企業基本法上の小規模企業者
  • ・物価高の影響等により、営業利益率が低下している
  • ・直近決算期の営業利益または経常利益が赤字
  • ・再生事業者等

専門家活用枠 売り手支援類型

  • ・物価高の影響等により、営業利益率が低下している
  • ・直近決算期の営業利益または経常利益が赤字

参照:事業承継・引継ぎ補助金説明資料(9次公募)

対象経費

補助対象となる経費は申請する枠ごとに異なります。具体的には以下の通りです。

 

対象となる経費

廃業・再チャレンジ申請と

併用申請した場合に対象となる経費

経営革新枠

  • 店舗などの借入費
  • 設備費
  • 原材料費
  • 産業財産権などの関連経費
  • 謝金
  • 旅費
  • マーケティング調査費
  • 会場借料費
  • 外注費
  • 委託費
  • 廃業支援費
  • 在庫廃棄費
  • 解体費
  • 原状回復費
  • リースの解約費

  • 移転、移設費用
  • (創業支援型とM&A型のみ対象)

専門家活用枠

  • 謝金
  • 旅費
  • 外注費
  • 委託費
  • システム利用料
  • 保険料
  • 廃業支援費
  • 在庫廃棄費
  • 解体費
  • 原状回復費
  • リースの解約費
  • 移転・移設費用

廃業・再チャレンジ枠

  • 廃業支援費
  • 在庫廃棄費
  • 解体費
  • 原状回復費
  • リースの解約費
  • 移転・移設費用
  • (併用申請のみ対象)

 

参照
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 【公募要領】(9次公募)
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用枠 【公募要領】(9次公募)
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 廃業・再チャレンジ枠 【公募要領】(9次公募)

ただし、補助対象経費となるためには以下3つの条件を満たし、かつ事務局から必要で適切と認められる必要があります。

  • 使用目的が補助対象事業に必要と明確に特定できる
  • 補助事業期間内に契約や発注支払いを行う
  • 実績報告で提出する証拠書類により金額や支払いなどが確認できる

参照:中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 【公募要領】 (9次公募)

スケジュール

事業承継・引継ぎ補助金の9次公募におけるスケジュールは以下の通りです。

  • 申請受付期間:2024年4月1日(月)~2024年4月30日(火)17:00まで
  • 交付決定日:6月上旬(予定)
  • 事業実施期間:交付決定日~2024年11月22日(金)
  • 実績報告期間:~2024年12月2日(月)
  • 補助金交付手続き:2024年12月中旬以降(予定)

4月末までに受付する必要があるため、申請予定の方はお急ぎください。スケジュールは、全ての枠で共通です。

事業承継・引継ぎ補助金の対象外になる個人事業主のポイント

事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請できる?概要や注意点を解説_6

以下では、事業承継・引継ぎ補助金の対象外になる個人事業主のポイントについて解説します。

白色申告の事業主

承継者もしくは被承継者が白色申告の事業主の場合、事業承継・引継ぎ補助金の対象になりません。個人事業主が申請するためには、青色申告者でかつ税務署の受領印が押印された確定申告書Bと所得税青色申告決算書の写しの提出が必要です。

なお、税務申告・届出を電子で行っている場合は受付印がないため、受付確認が可能なメール詳細(受付結果)を追加で提出します。受付結果のメール詳細がない場合は「納税証明 書(その2)所得金額の証明書」または「課税証明書(所得金額の記載のあるもの)」を追加で提出しなければなりません。

専門家活用枠で青色申告を開始してから5年未満

基本的に、承継者と被承継者が青色申告であれば、事業承継・引継ぎ補助金の対象になります。ただし、専門家活用枠は青色申告を開始してから5年未満の場合、対象外です。

申請には「個人事業の開業届出書」と「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出した日付から5年が経過していなければなりません。また、税務署の受領印が押印された確定申告書Bと所得税青色申告決算書の写しの提出が必要です。

なお、税務申告・届出を電子で行っている場合は受付印がないため、受付確認が可能なメール詳細(受付結果)を追加で提出します。受付結果のメール詳細がない場合は「納税証明 書(その2)所得金額の証明書」または「課税証明書(所得金額の記載のあるもの)」を追加で提出しなければなりません。

引き継ぐ従業員がいない専門家活用枠

専門家活用枠で、売り手支援型の補助対象者または、買い手支援型および売り手支援型の補助対象事業が不動産業の場合、常時雇用する従業員1名以上の引継ぎが必要です。また、不動産業以外でも、常時使用する従業員1名以上の引継ぎが行われなければ、経営資源引継ぎの要件を満たさないと事務局が判断する可能性があります。

常時雇用する従業員とは、労働基準法第20条の規定に基づく「予め(30日以上前)解雇の予告を必要とする者」のことです。正社員は対象ですが、パートやアルバイト、派遣社員、契約社員、非正規社員および出向者は会社ごとの個別判断が必要です。なお、会社役員および個人事業主は常時雇用する従業員に含まれません。

単なる不動産や物品の売買など

単なる不動産や物品の売買などで、実質的な事業譲渡にあたらない場合も、事業承継・引継ぎ補助金の対象外です。事業譲渡では、有機的一体な経営資源の引継ぎが行われていなければなりません。

なお、有形資産のみ・無形資産のみの事業譲渡と判断され、対象外となる例は以下の通りです。

 

有形資産のみの

事業譲渡と判断される

  • ・飲食事業における店舗や調理設備などのみの引継ぎ
  • ・整体やエステなどの事業における施術台、施術用機器のみの引継ぎ
  • ・運送事業における車両のみの引継ぎ
  • ・情報通信業におけるスマートフォンやPC、複合機などのみの引継ぎ

無形資産のみの

事業譲渡と判断される

  • ・従業員のみの引継ぎ
  • ・製作事例やノウハウのみの引継ぎ
  • ・顧客リストのみの引継ぎ
  • ・店舗の賃貸借契約のみの引継ぎ

参照:中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 【公募要領】 (9次公募)

0円の事業譲渡や1円の株式譲渡

0円の事業譲渡や1円の株式譲渡も補助金の対象外になる可能性があります。ただし、取引価格の合理性が確認できない場合のみ対象外になります。

例えば、債務超過で実質的に価値がない場合は対象外になりません

事業譲渡と見せかけたのれん分けやフランチャイズ契約

事業譲渡と見せかけたのれん分けやフランチャイズ契約も、事業承継・引継ぎ補助金の対象外になります。のれん分けやフランチャイズ契約は、ノウハウや設備を引き継ぐケースもありますが、事業承継や事業譲渡・M&Aではありません。

仮に、事業譲渡の契約を締結したとしても、実質的なのれん分け・フランチャイズ契約とみなされれば、対象外になります。

事業承継・引継ぎ補助金の申請方法

事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請できる?概要や注意点を解説_5

以下では、事業承継・引継ぎ補助金の申請方法について解説します。

要件や申請枠の確認

まず、経営革新枠、専門家活用枠、廃業・再チャレンジ枠のいずれかに該当するか要件を確認しましょう。事業承継・引継ぎ補助金のWebサイトを確認し、各事業の制度やルールを理解します。

認定経営革新等支援機関へ相談

経営革新枠もしくは廃業・再チャレンジ枠を利用する場合は、認定経営革新等支援機関から補助金の確認書を取得する必要があります。認定経営革新等支援機関とは、中小企業支援における税務や財務などの専門知識・実務経験が一定レベル以上であると、国が認定した支援機関のことです。商工会・商工会議所や税理士、公認会計士、中小企業診断士、金融機関などが該当します。

認定経営革新等支援機関に相談し、審査を受けなければなりません。締め切りの直前に認定経営革新等支援機関に確認依頼しても、間に合わない場合があるためご注意ください。なお、専門家活用枠に申請する場合は、認定経営革新等支援機関への相談は必要ありません。

gBizIDプライムアカウントの取得

事業承継・引継ぎ補助金の申請は、電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」にて行います。jGrantsの申請Webサイトにログインするためにはデジタルアカウントである「gBizIDプライム」が必要です。

アカウントの取得には、書類郵送もしくはオンラインの申請が求められます。各申請方法で手続きに必要なものは以下の通りです。

 

手続きに必要なもの

書類郵送

  • 個人事業主の場合は印鑑登録証明書
  • 法人の場合は印鑑証明書
  • 登録印
  • パソコンなどの申請用端末
  • メールアドレス
  • SMS受信用の携帯電話

オンライン

  • マイナンバーカード
  • パソコンなどの申請用端末
  • メールアドレス
  • カード読み取りとSMS受信用のスマートフォンgBizIDアプリ

参照:gBizIDで行政サービスへのログインをかんたんに|gBizID

2週間程度の審査が行われた後に発行されるため、早めに準備しましょう。

必要書類の準備と申請

最後に、必要書類を準備し申請を行います。必要な書類は、自社の状況や申請する枠に応じて大きく異なるため、事業承継・引継ぎ補助金のWebサイトや各枠の「必要書類チェックリスト」にてご確認ください。なお、必要な書類はPDF形式にて提出します。

申請時に入力した内容に間違いがあった場合や必要な書類が提出されなかった場合は、失格になります。申請時には以下を確認しましょう。

  • 適切な交付申請フォームを選択しているか
  • 申請内容に不備やミスはないか
  • 申請者本人が理解し、交付申請内容の記入や申請手続きを行っているか
  • 申請フォーム内の「担当者連絡先」は適切な連絡先を記載しているか
  • 期日に余裕を持ち、申請をしているか

事業承継・引継ぎ補助金の注意点

事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請できる?概要や注意点を解説_3

以下では、事業承継・引継ぎ補助金の注意点について解説します。

課税対象になる

事業承継・引継ぎ補助金は、交付された事業年度における収益にあたり、課税対象です。
個人事業主の場合は所得税、中小企業の場合は法人税が課せられます。

事業承継・引継ぎ補助金に限らず、多くの補助金や助成金、補助金は課税対象になるのが一般的です。

後払いされる

事業承継・引継ぎ補助金は後払いされます。例えば9次公募において、補助対象とする経費は交付決定日から2024年11月22日(金)の間に、契約や検収・支払いが必要です。補助金の交付は2024年12月中旬以降を予定しています。

自分の資金総額から先払いできる経費額を算出し、計画を立てましょう。

採択後に必要な手続きも存在する

事業承継・引継ぎ補助金は採択(交付決定)後にも必要な手続きが存在するため、注意が必要です。具体的には交付決定後、以下の書類を提出しなければなりません。

  • 事業承継完了の報告
  • 認定特定創業支援等事業を受けたことの証明書
  • 計画の変更に伴う届出
  • 交付申請内容の変更に伴う届出
  • 遂行状況の報告
  • 事故報告

必要書類や報告の遅延や未提出は、補助金額の減額や交付取り消しの原因となります。また、補助金交付後も5年間は事業化状況や収益状況の報告をしなければなりません。

必ず採択されるわけではない

事業承継・引継ぎ補助金は、申請すれば確実に採択されるわけではありません。直近の採択率は60%程度であり、審査の結果、不適格となるケースも存在します。

採択される可能性を高めるために、審査・加点項目の把握や適切な資料提出などを行いましょう。

事業承継・引継ぎ補助金の採択率

7次・8次公募における事業承継・引継ぎ補助金の採択結果は以下の通りです。

 

申請者数

採択者数

採択率

7次

経営革新枠

313件

190件

60.7%

専門家活用枠

498件

299件

60.0%

廃業・再チャレンジ枠

28件

10件

35.7%

合計

839件

499件

59.5%

8次

経営革新枠

334件

201件

60.2%

専門家活用枠

374件

229件

61.2%

廃業・再チャレンジ枠

22件

12件

54.5%

合計

730件

442件

60.5%

参照:採択結果|事業承継・引継ぎ補助金

全枠を合計して計算した採択率は60%程度です。2分の1以上の確率で採択されますが、確実に採択されるわけではありません。

事業承継・引継ぎ補助金の採択確率を高めるポイント

事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請できる?概要や注意点を解説_4

以下では、事業承継・引継ぎ補助金の採択確率を高めるポイントについて解説します。

審査項目を把握する

審査項目を把握し、評価される資料の作成が採択率向上に欠かせません。審査は、まず資格審査が行われ、通過すれば書類審査が実施されます。資格審査では、申請内容が以下に適合しているかが審査されます。

  • 補助対象者
  • 補助対象事業
  • 補助上限額や補助率など

当然ですが、自社が補助対象者に該当する枠で申請しなければなりません。また、申請する際に補助上限額や補助率などの間違いがないよう、ご注意ください。

各枠における書類審査の項目は以下の通りです。

 

概要

経営革新枠

  • ・取り組みの独創性
  • ・取り組みの実現可能性
  • ・取り組みの収益性
  • ・取り組みの継続性

専門家活用枠

  • 【買い手支援類型(Ⅰ型)】
  • ・経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるものである
  • ・財務内容が健全
  • ・買収の目的や必要性
  • ・買収による効果や地域経済への影響
  • ・買収実現による成長の見込み
  •  
  • 【売り手支援類型(Ⅱ型)】
  • ・経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるものである
  • ・譲渡の目的や必要性
  • ・譲渡による効果や地域経済への影響

廃業・再チャレンジ枠

  • ・再チャレンジの取り組みを実現するための事業を廃業する必要性
  • ・廃業に向けた準備
  • ・再チャレンジの取り組みにおける実現性

加点項目を把握する

事業承継・引継ぎ補助金の採択確率を高めるには、加点項目を把握し対応すると効果的です。加点項目も発表されており、具体的には以下の通りです。

 

概要

経営革新枠

  • ・「中小企業の会計に関する基本要領」
  •  または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている
  • ・交付申請時に有効な期間における「経営力向上計画」の認定、「経営革新計画」の承認
  •  もしくは「先端設備等導入計画」の認定書を受けている
  • ・交付申請時に「地域おこし協力隊」として地方公共団体から委嘱を受けていて、
  •  承継者が行う経営革新の取り組み実施地が当該地域である
  • ・Ⅰ型の申請で、認定市区町村による「特定創業支援等事業」の支援を受けている
  • ・Ⅰ・Ⅲ型の申請で、第三者により補助対象事業となる事業承継の形態に係る
  •  PMI計画書(100日プラン)が作成されている

  • 交付申請時点で以下のいずれかに該当する
  • ・「地域未来牽引企業」である
  • ・「健康経営優良法人」である
  • ・「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を利用する中小企業等である
  • ・「(連携)事業継続力強化計画」の認定を受けている
  • ・申請者の代表者(予定を含む)が「アトツギ甲子園」の出場者である
  • ・ワーク・ライフ・バランス推進の取り組みを実施している
  • ・一定の条件を満たす賃上げを実施予定で、従業員にも表明している

専門家活用枠

  • ・「中小企業の会計に関する基本要領」
  •  または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている
  • ・交付申請時に有効な期間における「経営力向上計画」の認定「経営革新計画」の承認
  •  もしくは「先端設備等導入計画」の認定書を受けている
  •  
  • 交付申請時点で以下のいずれかに該当する
  • ・「地域未来牽引企業」である
  • ・中小企業基本法の小規模企業者である
  • ・「(連携)事業継続力強化計画」の認定を受けている
  • ・ワーク・ライフ・バランス推進の取り組みを実施している
  • ・「健康経営優良法人」である
  • ・「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を利用する中小企業等である
  • ・一定の条件を満たす賃上げを実施予定で、従業員にも表明している

廃業・再チャレンジ枠

  • ・再チャレンジする主体の年齢が若い
  • ・再チャレンジの内容が「起業(個人事業主含む)」や「引継ぎ型創業」である
  • ・一定の条件を満たす賃上げを実施予定で、従業員にも表明している

参照
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 【公募要領】(9次公募)
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用枠 【公募要領】(9次公募)
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 廃業・再チャレンジ枠 【公募要領】(9次公募)

なお、加点を受けるためには証拠資料の提出が求められます。

事業承継・引継ぎ補助金を個人事業主で申請する際のよくある質問

事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請できる?概要や注意点を解説_2

以下では、事業承継・引継ぎ補助金を個人事業主で申請する際のよくある質問について解説します。

親族の事業承継も対象になる?

経営革新枠の創業支援類型(Ⅰ型)と経営者交代類型(Ⅱ型)のみ、不動産事業を含め事業承継・引継ぎ補助金の対象になります。ただし、物品・不動産などのみを保有する事業の承継と事務局が判断した場合には、要件を満たさず補助対象外となる可能性があるため、ご注意ください。

また、M&A類型(Ⅲ型)や他の枠は、親族内承継が対象となりません。

外国籍も対象になる?

外国籍であっても、日本国内に拠点また居住地を構え、日本国内で事業を営んでいれば、事業承継・引継ぎ補助金の対象になります。ただし、申請する際に以下が記載された住民票の添付が必要です。

  • 国籍、地域
  • 在留期間等
  • 在留資格
  • 在留期間等の満了の日
  • 30条45規定区分

不採択になった場合、再申請はできる?

不採択になった場合、公募が続く限り申請できます。事業承継・引継ぎ補助金の採択率は60%程度であるため、不採択になる可能性も存在します。万が一、不採択になった場合は、必要に応じて専門家のサポートを受けながら、再申請すると良いでしょう。

不採択であれば再申請可能ですが、過去の事業承継補助金や事業承継・引継ぎ補助金の交付決定を受けていた場合は、申請できません。ただし、事故報告書または申請の取り下げ通知を提出し、最終的に補助金の交付を受けていなければ交付申請できます。

不採択の理由は確認できる?

事務局へ不採択の理由を問いあわせても一切応じてもらえないため、不採択の原因は確認できません。不採択になった場合は、まず申請した内容と要件があっているか確認しましょう。

また、申請した書類の内容と審査項目を比較し、評価される内容になっているかの確認も効果的です。自社のみでの採択が難しい場合は、専門家にサポートを依頼するのも良いでしょう。

個人事業主が申請可能な他の補助金

事業承継・引継ぎ補助金は個人事業主でも申請できる?概要や注意点を解説_1

以下では、個人事業主が申請可能な他の補助金について解説します。

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が自社の経営を見直し、持続的な経営に向けた計画を作成した上で実施する販路開拓や生産性向上をサポートする補助金です。通常枠、賃金引上げ枠、卒業枠、後継者支援枠、創業枠の5枠が設けられており、各補助上限額と補助率は以下の通りです。

 

補助上限額

補助率

インボイス特例

通常枠

50万円

2/3

50万円

賃金引上げ枠

200万円

2/3

※赤字事業者は3/4

卒業枠

2/3

後継者支援枠

創業枠

出典:小規模事業者持続化補助金<一般型>ガイドブック

なお、インボイス特例とは、免税事業者から適格請求書発行事業者に転換する小規模事業者に対して補助上限額を一律50万円上乗せする特例のことです。

ものづくり補助金

ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者などが制度変更の対応を目的に、サービス・試作品開発や生産プロセスの改善を行う設備投資をサポートする補助金です。働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス制度の導入などの制度変更への対応が求められています。正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」です。

省力化(オーダーメイド)枠、製品・サービス高付加価値化枠、グローバル枠の3枠が設けられており、各補助上限額と補助率は以下の通りです。

 

補助上限額

補助率

省力化(オーダーメイド)枠

750万円

~8,000万円

  • 中小企業:1/2
  • 小規模・再生:2/3

 

※補助金額1,500万円までは1/2もしくは2/3

 1,500万円を超える部分は1/3

製品・サービス

高付加価値化枠

通常類型

750万円

~1,250万円

  • 中小企業:1/2
  • 小規模・再生:2/3
  • 新型コロナ回復加速化特例:2/3

成長分野

進出類型

1,000万円

~2,500万円

2/3

グローバル枠

3,000万円

  • 中小企業:1/2
  • 小規模:2/3

出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 18次公募要領 概要版

事業再構築補助金

事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、需要や売上回復が期待しづらい中で、中小企業の事業再構築を支援することを目的にした補助金です。ポスト・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するための新分野展開や事業・業種・業態転換、事業再編など、思い切った事業再構築に関するサポートを受けられます。

8枠が設けられており、各補助上限額と補助率は以下の通りです。

 

補助上限額

補助率

成長枠

2,000万円~7,000万円

  • 中小企業:1/2
  • 中堅企業:1/3

 

※大規模な賃上げを行う場合、

中小企業:2/3、中堅企業:1/2

グリーン成長枠

エントリー

4,000万円~1億円

スタンダード

1億円~1.5億円

卒業促進枠

成長枠・グリーン成長枠の

補助額に準じる

  • 中小企業:1/2
  • 中堅企業:1/3

大規模賃金引上促進

3,000万円

産業構造転換枠

2,000万円~7,000万円

  • 中小企業:2/3
  • 中堅企業1/2

サプライチェーン強靱化枠

5億円

  • 中小企業:1/2
  • 中堅企業1/3

最低賃金枠

500万円~1,500万円

  • 中小企業:3/4
  • 中堅企業:2/3

物価高騰対策・回復再生応援枠

1,000万円~3,000万円

  • 中小企業:2/3 ※1
  • 中堅企業:1/2 ※2

出典:事業再構築補助金リーフレット

※1 従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、
  従業員数21~50人の場合は800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円まで3/4
※2
従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、
  従業員数21~50人の場合は800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円まで2/3

【まとめ】個人事業主の事業承継・引継ぎ補助金について紹介しました

個人事業主の事業承継・引継ぎ補助金は、個人事業主でも申請可能です。ただし、白色申告の方や単なる不動産・物品の売買にあたるものなどは、補助金の対象になりません。また、事業承継・引継ぎ補助金は申請すれば確実に採択されるわけではありません。

提出資料や入力項目に不備がないことはもちろん、審査や加点項目を把握し適切な準備が必要です。必要に応じて専門家のサポートを受け、事業承継・引継ぎ補助金の採択率を高めましょう。