事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型|経営革新枠の要件や経営者交代型の区分を解説!

親族や従業員への事業承継を契機に、新たな事業に取り組もうと考えているが、事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型は利用できるのか?そんな方に向け、対象となる事業者や補助事業の要件、経費などを含め、事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型の概要を解説していきます。

目次
  1. 1. 事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型とは
  2. 2. 事業承継・引継ぎ補助金の概要
    1. 2-1. 事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者
    2. 2-2. 事業承継・引継ぎ補助金の補助事業期間
    3. 2-3. 申請枠1:専門家活用枠
    4. 2-4. 申請枠2:廃業・再チャレンジ枠
  3. 3. 経営者交代類型を含む「経営革新枠」
    1. 3-1. 経営者交代類型の対象事業者要件
    2. 3-2. 事業承継の要件 / 事業承継対象期間
    3. 3-3. 未来の承継とは
  4. 4. 経営者交代類型の対象となる補助事業
    1. 4-1. 経営革新的な事業の定義
    2. 4-2. 申請には認定経営革新等支援機関の確認書が必須
  5. 5. 経営者交代類型の要件と申請区分
  6. 6. 他の申請枠との併用申請
  7. 7. 経営革新枠の補助対象経費
  8. 8. 経営革新枠の補助上限額・補助率
  9. 9. 経営革新枠の実施スキーム
  10. 10. 【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型を解説しました

事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型とは

経営者交代類型とは、事業承継・引継ぎ補助金の申請枠「経営革新枠」に用意された3つの申請類型の1つ。数ある事業承継の形態のなかでも、親族への事業譲渡、組織内の経営者交代を契機に、新たな取り組みを計画する中小企業を対象にした申請類型です。

経営革新枠の他の申請類型とは事業承継の形態が異なる経営者交代類型は、当然、補助対象の事業者や要件も異なります。どのような事業が経営者交代類型の補助対象なのか?経営革新枠以外の申請枠と関連はあるのか?まずは事業承継・引継ぎ補助金の全体像を把握しておくことが重要です。

事業承継・引継ぎ補助金の概要

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継・M&Aに関連する、中小企業のさまざまな取り組みを支援する補助金制度のこと。

たとえば、引き継いだ経営資源を活用する革新的な事業の補助、M&Aに欠かせない専門家報酬の補助、事業再編にともなう廃業費用補助などが該当。中小企業の生産性を高めるこうした事業を支援し、地域の雇用創出や経済発展につなげることが、事業承継・引継ぎ補助金の目的です。

事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者

目的からお分かりのように、事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者は、中小企業者および小規模事業者です。これは事業承継・引継ぎ補助金、すべての申請枠 / 申請類型に共通する原則ですが、各申請枠 / 類型ごとの追加要件があることに注意が必要対象となる中小企業 / 小規模事業者の定義は以下の通りです。

中小企業者の定義

業種

資本金(以下)

常勤従業員数(以下)

製造業、建設業、運輸業、旅行業

3億円

300人

卸売業

1億円

100人

サービス業

(ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く)

5,000万円

100人

小売業

5,000万円

50人

ゴム製造業

(タイヤ / チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く)

3億円

900人

ソフトウェア業、情報処理サービス業

3億円

300人

旅館業

5,000万円

200人

その他の業種

3億円

300人

小規模企業者・小規模事業者の定義

業種

常勤従業員数

製造業その他

20人以下の会社および個人事業主

商業・サービス業

5人以下の会社および個人事業主

サービス業のうち宿泊業・娯楽業

20人以下の会社および個人事業主

事業承継・引継ぎ補助金の補助事業期間

補助金制度である事業承継・引継ぎ補助金は、常に公募されているわけではなく、公募ごとに補助事業期間も異なります。事業承継・引継ぎ補助金でいう補助事業期間とは、交付日から補助金事業の期限最終日までのこと。

たとえば、2024年4月に公開された9次公募の場合、事業承継・引継ぎ補助金の補助事業最終日は2024年11月22日。申請期間は2024年4月1日〜30日であるため、5月23日が交付日の場合11月22日までの半年間が補助事業期間です。事業承継・引継ぎ補助金の活用を検討している方は、事務局公式サイトで公募要領をこまめにチェックしましょう。

参考:事業承継・引継ぎ補助金 公募要領等ダウンロード

申請枠1:専門家活用枠

経営者交代類型を含む経営革新枠のほかに、事業承継・引継ぎ補助金には2つの申請枠があります。そのうちの1つが「専門家活用枠」です。専門家活用枠とは、新たな取り組みに向けてM&Aを推進したい中小企業を支援するため、M&A仲介業者などの専門家報酬を補助する申請枠のこと。補助対象者(承継者、被承継者)に応じた2つの申請類型があります。

専門家活用枠の申請類型

概要

買い手支援類型(I型)

事業再編・事業統合にともない、

株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援

売り手支援類型(II型)

事業再編・事業統合にともない、

株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援

※承継者とは、経営資源を譲り受ける者、被承継者とは、経営資源を譲り渡す者のことです

申請枠2:廃業・再チャレンジ枠

事業承継・引継ぎ補助金、もう1つの申請枠は「廃業・再チャレンジ枠」です。廃業・再チャレンジ枠とは、事業再編 / 事業統合などにともない、会社または事業の一部を廃業するための費用を補助する申請枠のこと。M&Aにともなう廃業のほか、M&Aに取り組んだものの成立しなかった場合の廃業も含む、以下の4つが補助対象です。

  • 事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業
  • M&Aで事業を譲り受けた際の廃業
  • M&Aで事業を譲り渡した際の廃業
  • M&Aで事業譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ申請

経営者交代類型を含む「経営革新枠」

そして、経営者交代類型を含む、事業承継・引継ぎ補助金の申請枠が「経営革新枠」です。経営革新枠とは、事業承継・M&A後に中小企業が取り組む「経営革新的な事業」を支援する申請枠のこと。経営者交代類型のほか、事業承継の形態別に合計3つの申請類型が用意されています。

経営革新枠の申請類型

概要

創業支援類型(I型)

廃業を予定している事業者などから経営資源を引継ぎ、

譲り受けた者が中小企業等を設立、個人事業主として開業する場合

経営者交代類型(II型)

個人事業主の被承継者が親族などの承継者に事業譲渡する、

あるいは同一法人内の代表者を変更する場合など

M&A類型(Ⅲ型)

M&Aによって経営資源(設備、人材など)を引き継ぐ場合

経営者交代類型の対象事業者要件

事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者は、小規模事業者を含む中小企業者ですが、上述したように、申請枠 / 申請類型に応じた追加要件を満たす必要があります。経営者交代類型を含む経営革新枠に申請する事業者は、以下の追加要件を満たすことが求められます。

要件

 1  日本国内に拠点または居住地を置き、日本国内で事業を営むこと

 2  地域経済に貢献している、あるいは貢献する予定の中小企業者等であること

 3  対象者またはその法人の役員が、暴力団等の反社会的勢力ではないこと。

   反社会的勢力との関係を持たないこと。資金提供を受けていないこと

 4  法令遵守上の問題を抱えていないこと 

 5  事務局から質問、追加資料等の依頼があった場合に適切に対応すること

 6  事務局が必要と認めるとき、事務局が補助金の交付申請ほか各種事務局による承認

   および結果通知に係る事項につき修正を加えて通知することに同意すること

 7  補助金の返還等の事由が発生した際、申請その他本補助金の交付にあたり負担した各種費用について、

   いかなる事由においても事務局が負担しないことに同意すること

 8  経済産業および独立行政法人中小企業基盤整備機構から補助金停止指定措置

   または指名停止措置が講じられていないこと

 9  申請・報告等で提供した個人情報を含む全ての情報は、データ利用について同意すること

10 交付申請時点から過去18か月の間において、賃上げ加点の要件等が未達成の場合、

   正当な理由がない限り大幅に減点されることを了承した上で申請すること

11 事務局が求める調査やアンケートに協力できること

事業承継の要件 / 事業承継対象期間

また、経営革新枠へ申請する上での大前提として、対象事業者は「事業承継の要件」も満たす必要があります。具体的な要件は、補助事業期間を含む事業承継対象期間内に、被承継者と承継者の間でM&Aを含む事業の引継ぎが完了していること、または完了予定であることです。

事業承継対象期間とは、補助事業最終日から遡った5年間のこと。9次公募であれば、2019年11月23日から補助事業最終日までの2024年11月22日が事業承継対象期間です。

未来の承継とは

一方、経営者交代類型に関しては「未来の承継」という例外措置が設けられています。具体的には、将来、経営者となることが見込まれる後継者候補が選定されている場合、事業承継対象期間以降の承継も、経営者交代類型の補助対象として認めるというもの。ただし、後継者候補として認定されるには、以下の要件を満たさなければなりません。

  • 同一法人内の代表者交代による事業承継
  • 後継者候補が同一法人内に在籍していること
  • 後継者が主導して取り組む事業であること
  • 承継予定である法人の経営資源を活用した事業であること

経営者交代類型の対象となる補助事業

経営者交代類型の対象となる補助事業は、事業者の要件および事業承継の要件を満たす事業者が計画 / 策定する、以下の要件を満たした事業でなければなりません。もちろん、公序良俗に反する事業、社会通念上、不適切と判断される事業は補助対象外です。

  • 被承継者(中小企業者等)から引き継いだ経営資源を活用した、承継者(中小企業者等)による経営革新等にかかわる取り組みであること
  • 年3%以上の付加価値額伸び率を達成する計画を盛り込んだ、補助事業期間を含む5年間の事業計画を策定すること
  • 経営革新的な事業であること

経営革新的な事業の定義

事業承継・引継ぎ補助金で定義される経営革新的な事業とは、デジタル化 / グリーン化 / 事業再構築のいずれかに資する事業であること。詳細は以下の通りです。

対象事業

要件

デジタル化に

資する事業

①デジタル技術を活用したDXに資する革新的な製品・サービスの開発等、

または、デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善等に関する事業計画書の策定

②DX推進指標による自己診断の実施と、IPAへの自己診断結果提出(補助金の応募締切日まで)

③IPAの実施する「SECURITY ACTION」の1つ星、または2つ星いずれかを宣言していること

グリーン化に

資する事業

①温室ガス排出削減に資する革新的な製品・サービスの開発等、または、

炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善等に関する事業計画書の策定

②提出した事業計画期間内に、事業場または会社全体での炭素生産性を年率平均1%以上増加すること

③これまで実施してきた温室ガス排出削減取り組みの有無を示すこと

事業再構築に

資する事業

①主たる事業 / 業種を変更することなく、新商品・サービスで新たな市場に進出する「新分野展開」

②主たる業種を変更することなく、新商品・サービスで異なる事業を開始する「事業転換」

③新商品・サービスで異なる業種に参入する「業種転換」

④商品・サービスの製造方法や提供方法を相当程度変更する「業態転換」

※①〜④のいずれか

申請には認定経営革新等支援機関の確認書が必須

経営者交代類型を含む経営革新枠へ申請するには、事業計画書のほかに、認定経営革新等支援機関の確認書が必要。具体的には、事前に認定経営革新等支援機関のチェックを受け、要件を満たした事業承継、事業計画であるという署名済み確認書を添え、申請しなければなりません。

つまり、申請期間中に手続きを済ませるには、事業計画の策定だけではなく、認定支援機関によるチェック / 確認書作成の時間も念頭に置いておく必要があります。依頼先の認定経営革新等支援機関の選定は早めに済ませておきましょう。

参考:認定経営革新等支援機関

経営者交代類型の要件と申請区分

経営者交代類型では、申請の要件に応じた以下の区分が用意されています。自社の事業承継形態が要件 / 区分に合致しているのか、確認しておく必要があります。

  • 承継者が個人事業主の場合は事業譲渡、法人の場合は同一法人内での代表者交代
  • 会社経営等に関して一定の実績や知識等を有する承継者であること

承継者

事業承継の形態

被承継者

交付申請

類型番号

jGrants申請

フォーム番号

実績報告

類型番号

個人事業主

事業譲渡

法人

1

1

1

株式譲渡

5

事業譲渡

個人事業主

2

2

3

法人

吸収合併

法人

3

3

6

吸収分割

事業譲渡

株式交換

7

株式譲渡

株式移転

8

新設合併

事業譲渡

個人事業主

4

4

9

他の申請枠との併用申請

経営者交代後の新たな取り組みにともない、事業の一部廃業を検討している事業者なら、経営者交代類型と廃業・再チャレンジ枠の併用申請が可能です。ただし、一部事業の廃業は、経営者交代後の事業計画が採択されることが要件。申請した経営革新事業が採択されなければ、廃業・再チャレンジ枠も採択されません。

経営革新枠の補助対象経費

経営者交代型を含む経営革新枠の補助対象経費は、以下すべての要件を満たし、事務局が必要かつ適切と判断できるものに限られます。

  • 使用目的が補助対象事業に必要だと明確に特定できるもの
  • 補助事業期間内に契約・発注し、支払いの完了したもの
  • 実績報告で提出する証憑などで金額・支払い等が確認できるもの

また、経営革新枠の補助対象経費の具体的な項目は以下の通りです。

経費区分

概要

店舗等借入費

国内の店舗・事務所・駐車場の賃借料・共益費・仲介手数料

設備費

国内の店舗・事務所の工事費、機械器具等の調達費

産業財産権等関連経費

補助対象事業実施に関する特許権などの取得に要する弁理士費用

謝金

補助対象事業実施に伴って依頼した専門家報酬

旅費

販路開拓等を目的とした国内外出張に関する交通費・宿泊費

マーケティング調査費

自社で実施するもの

広報費

自社で実施するもの

会場借料費

販路開拓や広報活動に関する一時的な会場借料費

外注費

業務の一部を外注(請負)するための経費

委託費

業務の一部を外注(委任)するための経費

経営革新枠の補助上限額・補助率

経営者交代型を含む経営革新枠の補助上限額は600万円、廃業・再チャレンジ枠を併用申請する場合は、上限額に150万円が上乗せされます。賃上げを実施する事業者に対する優遇措置も用意されており、以下の要件をクリアする事業者は経営革新枠の上限額が800万円に拡大されます。

  1. 補助事業期間終了時に事業場内最低賃金が地域最低賃金 + 50円以上の賃上げ
  2. 1を達成済みの場合は、事業場内最低賃金 + 50円以上の賃上げ

また、補助率に関しては1/2を原則としますが、小規模事業者、営業利益率低下 / 赤字の事業者、再生事業者の場合は補助率が2/3に引き上げられます。

申請枠 / 申請類型

補助上限額

補助率

経営革新枠

600万円〜800万円 ※1

1/2、2/3 ※2

※1 一定の賃上げを実施する場合、上限を800万円に引き上げ
※2 小規模事業者、営業利益率低下、赤字、再生事業者は2/3

経営革新枠の実施スキーム

申請から補助事業期間終了後の状況報告まで、経営者交代型を含む経営革新枠の実施スキームは以下の通り。上述したように、事業承継・引継ぎ補助金の申請前に、認定経営革新等支援機関への相談、確認書の取得が必要です。

事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型|経営革新枠の要件や経営者交代型の区分を解説!_1

画像出典:事業承継・引継ぎ補助金 公募要領

【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型を解説しました

親族や従業員への事業承継を契機に、新たな事業に取り組もうと考えているが、事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型は利用できるのか?そんな方に向け、対象となる事業者や補助事業の要件、経費などを含め、事業承継・引継ぎ補助金の経営者交代類型の概要を解説しました。