事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠|対象の経営革新事業要件や申請類型を解説!
事業承継・引継ぎ補助金なら承継後の新規事業を支援してもらえると聞くが、経営革新事業とは?どんな事業なら補助の対象になる?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、事業承継・引継ぎ補助金の申請枠、経営革新枠の概要や申請類型、補助対象の経営革新事業に求められる要件などを解説していきます。
事業承継・引継ぎ補助金の概要
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継・M&Aを契機とする中小企業の新たな取り組みを支援する補助金制度のこと。正式名称を、中小企業生産性革命推進事業「事業承継・引継ぎ補助金」といいます。
名称からもお分かりのように、事業承継・引継ぎ補助金の目的は、事業承継・M&Aを起点とした中小企業の生産性向上で、地域の雇用創出や経済発展を促すこと。そのため、事業承継後の新規事業を支援するだけでなく、M&A成立に向けた専門家費用、事業統合等にともなう廃業費用など、さまざまな局面で利用できるのが特徴です。
事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者
中小企業の生産性向上を目的としていることからもお分かりのように、事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者は、小規模事業者を含む中小企業者です。ただし、申請枠 / 申請類型によって、事業者に求められる追加要件があることに注意。事業承継・引継ぎ補助金で定義する中小企業、小規模事業者は以下の通りです。
中小企業者の定義
業種 |
資本金(以下) |
常勤従業員数(以下) |
製造業、建設業、運輸業、旅行業 |
3億円 |
300人 |
卸売業 |
1億円 |
100人 |
サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) |
5,000万円 |
100人 |
小売業 |
5,000万円 |
50人 |
ゴム製造業 (タイヤ / チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く) |
3億円 |
900人 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 |
3億円 |
300人 |
旅館業 |
5,000万円 |
200人 |
その他の業種 |
3億円 |
300人 |
小規模企業者・小規模事業者の定義
業種 |
常勤従業員数 |
製造業その他 |
20人以下の会社および個人事業主 |
商業・サービス業 |
5人以下の会社および個人事業主 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 |
20人以下の会社および個人事業主 |
事業承継・引継ぎ補助金の補助事業期間
事業承継・引継ぎ補助金の申請期間、補助事業の最終日は、各申請枠 / 申請類型に共通の日程が公募ごとに定められています。たとえば、9次公募の場合は2024年4月1日〜30日が申請期間、同年11月22日が最終日となり、交付日から最終日までを補助事業期間と呼びます。
経営革新事業を除き、対象事業や経費の支払いは補助事業期間内に完了させることが原則となるため、公募要領をしっかり確認することが重要。未公表の10次公募以降の要領等は、事業承継・引継ぎ補助金事務局の公式サイトをチェックしましょう。
GビズIDプレミアムアカウントを取得してオンライン申請
申請時の書類提出が必須なイメージのある補助金制度ですが、事業承継・引継ぎ補助金を含め、現在では「jGrants」でのオンライン申請が原則。そのため、事業承継・引継ぎ補助金の申請事業者は「GビズIDプレミアムアカウント」の取得が必須です。取得申請から交付まで、約2〜3週間を要するため、補助金活用を検討している方は早めの取得が必要です。
申請枠1:専門家活用枠
本記事で詳細に解説する経営革新枠を含め、事業承継・引継ぎ補助金には3つの申請枠があります。そのうちの1つが専門家活用枠。
専門家活用枠とは、生産性を高める新しい事業のため、M&Aに取り組む中小企業の専門家費用を補助する申請枠のこと。主に、M&A仲介業者やファイナンシャルアドバイザー(FA)の専門家報酬が補助経費の対象です。専門家活用枠には、対象の事業者に応じた「買い手支援類型」「売り手支援類型」2つの申請類型が用意されています。
専門家活用枠の申請類型 |
概要 |
買い手支援類型(I型) |
事業再編・事業統合にともない、 株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援 |
売り手支援類型(II型) |
事業再編・事業統合にともない、 株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援 |
事業承継・引継ぎ補助金では、経営資源を譲り受ける者を「承継者」、譲り渡す者を「被承継者」と呼んでいます。
申請枠2:廃業・再チャレンジ枠
事業承継・引継ぎ補助金のもう1つの申請枠が「廃業・再チャレンジ枠」です。廃業・再チャレンジ枠とは、事業承継・M&Aを契機とした事業再編 / 統合にともない、一部事業もしくは会社の廃業にかかる費用を補助する申請枠のこと。補助対象になるのは、以下の4つの事業です。
- 事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業
- M&Aで事業を譲り受けた際の廃業
- M&Aで事業を譲り渡した際の廃業
- M&Aで事業譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ申請
事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠概要 / 申請類型
それでは、経営革新事業を補助対象とする、事業承継・引継ぎ補助金の「経営革新枠」とは、どのような補助金申請枠なのか?以下から解説を進めていきましょう。
経営革新枠とは、経営資源を譲り受けた中小企業(承継者)が、事業承継・M&A後に取り組む新たな事業を支援する補助金申請枠のこと。事業承継の形態に応じ、さらに3つの申請類型が用意されています。
経営革新枠の申請類型 |
概要 |
創業支援類型(I型) |
廃業を予定している事業者などから経営資源を引継ぎ、 譲り受けた者が中小企業等を設立、個人事業主として開業する場合 |
経営者交代類型(II型) |
個人事業主の被承継者が親族などの承継者に事業譲渡する、 あるいは同一法人内の代表者を変更する場合など |
M&A類型(Ⅲ型) |
M&Aによって経営資源(設備、人材など)を引き継ぐ場合 |
経営革新枠の対象事業者要件
経営革新枠に申請を希望する事業者は、小規模事業者を含む中小企業という原則のほか、以下の追加要件を満たさなければなりません。
要件 |
1 日本国内に拠点または居住地を置き、日本国内で事業を営むこと |
2 地域経済に貢献している、あるいは貢献する予定の中小企業者等であること |
3 対象者またはその法人の役員が、暴力団等の反社会的勢力ではないこと。 反社会的勢力との関係を持たないこと。資金提供を受けていないこと |
4 法令遵守上の問題を抱えていないこと |
5 事務局から質問、追加資料等の依頼があった場合に適切に対応すること |
6 事務局が必要と認めるとき、事務局が補助金の交付申請ほか各種事務局による承認 および結果通知に係る事項につき修正を加えて通知することに同意すること |
7 補助金の返還等の事由が発生した際、申請その他本補助金の交付にあたり負担した各種費用について、 いかなる事由においても事務局が負担しないことに同意すること |
8 経済産業および独立行政法人中小企業基盤整備機構から補助金停止指定措置 または指名停止措置が講じられていないこと |
9 申請・報告等で提供した個人情報を含む全ての情報は、データ利用について同意すること |
10 交付申請時点から過去18か月の間において、賃上げ加点の要件等が未達成の場合、 正当な理由がない限り大幅に減点されることを了承した上で申請すること |
11 事務局が求める調査やアンケートに協力できること |
経営革新枠の事業承継要件
経営革新枠には、対象事業者としての要件のほか、満たさなければならない複数の要件があります。そのうちの1つが事業承継要件です。具体的には、事業承継対象期間(補助事業終了日から遡った5年間)内に、被承継者と承継者の間でM&Aを含む事業の引継ぎが完了していること。または完了予定であることが要件。
たとえば、9次公募の補助事業終了日は2024年11月22日であるため、この場合の事業承継対象期間は、2019年11月23日〜2024年11月22日です。このほか、申請類型に応じた事業承継要件、特例などもあります。
補助対象の経営革新事業の要件
経営革新枠の補助対象となる「経営革新事業」は、以下の要件を満たした上で、事業者の要件、事業承継要件を満たす中小企業者等が策定する5年間の事業計画が必要。もちろん、公序良俗に反する事業、社会通念上、不適切と判断される事業は補助対象外です。
- 被承継者(中小企業者等)から引き継いだ経営資源を活用した、承継者(中小企業者等)による経営革新等にかかわる取り組みであること
- 補助事業期間を含む5年間の経営革新事業計画に、年3%以上の付加価値額伸び率を達成する計画を盛り込むこと
- 経営革新的な事業であること
経営革新的な事業とは
経営革新事業の要件である「経営革新的な事業」とは、「デジタル化に資する事業」「グリーン化に資する事業」「事業再構築に資する事業」のいずれか。具体例を含め、一覧表にまとめてみました。
対象事業 |
要件 |
デジタル化に 資する事業 |
①デジタル技術を活用したDXに資する革新的な製品・サービスの開発等、 または、デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善等に関する事業計画書の策定 ②DX推進指標による自己診断の実施と、IPAへの自己診断結果提出(補助金の応募締切日まで) ③IPAの実施する「SECURITY ACTION」の1つ星、または2つ星いずれかを宣言していること |
グリーン化に 資する事業 |
①温室ガス排出削減に資する革新的な製品・サービスの開発等、または、 炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善等に関する事業計画書の策定 ②提出した事業計画期間内に、事業場または会社全体での炭素生産性を年率平均1%以上増加すること ③これまで実施してきた温室ガス排出削減取り組みの有無を示すこと |
事業再構築に 資する事業 |
①主たる事業 / 業種を変更することなく、新商品・サービスで新たな市場に進出する「新分野展開」 ②主たる業種を変更することなく、新商品・サービスで異なる事業を開始する「事業転換」 ③新商品・サービスで異なる業種に参入する「業種転換」 ④商品・サービスの製造方法や提供方法を相当程度変更する「業態転換」 ※①〜④のいずれか |
認定経営革新等支援機関の確認書
また、策定された経営革新事業の計画書は、事業承継・引継ぎ補助金の要件に合致していることを証明する「確認書」とともに申請しなければなりません。この確認書には、認定経営革新等支援機関の署名が必要です。つまり、経営革新事業の計画書策定と同時に、依頼先の認定経営革新等支援機関も選定しておかなければなりません。
参考:認定経営革新等支援機関
創業支援類型(I型)の事業承継形態 / 要件
経営革新枠に事業計画を申請するには、事業承継の形態に応じた適切な申請類型 / 区分を選択しなければなりません。また、申請類型それぞれの要件を満たしているかも要チェック。たとえば、創業支援類型(I型)の要件は以下の2点
- 承継者が事業承継対象期間内に、法人の設立、または個人事業主として開業する
- 被承継者から有機的一体としての経営資源(設備、従業員、顧客等)を引き継ぐ
設備のみなど個別の経営資源のみ引き継ぐ場合は、要件を満たしたとはみなされません。創業支援類型(I型)に該当する事業承継形態に応じた区分は以下の通り。
承継者 |
事業承継の形態 |
被承継者 |
交付申請 類型番号 |
jGrants申請 フォーム番号 |
実績報告 類型番号 |
個人事業主 |
事業譲渡 |
法人 |
1 |
1 |
1 |
株式譲渡 |
5 |
||||
事業譲渡 |
個人事業主 |
2 |
2 |
3 |
|
法人 |
吸収合併 |
法人 |
3 |
3 |
6 |
吸収分割 |
|||||
事業譲渡 |
|||||
株式交換 |
7 |
||||
株式譲渡 |
|||||
株式移転 |
8 |
||||
新設合併 |
|||||
事業譲渡 |
個人事業主 |
4 |
4 |
9 |
経営者交代類型(II型)の事業承継形態 / 要件
経営者交代類型(II型)の要件は以下の2点
- 承継者が個人事業主の場合は事業譲渡、法人の場合は同一法人内での代表者交代
- 会社経営等に関して一定の実績や知識等を有する承継者であること
同一法人内での代表者交代の例外措置として、将来、経営者となることが充分見込まれる後継者が選定されている場合、事業承継対象期間以降の事業承継も対象です。経営者交代類型(II型)に該当する事業承継形態に応じた区分は以下の通り。
承継者 |
事業承継の形態 |
被承継者 |
交付申請 類型番号 |
jGrants申請 フォーム番号 |
実績報告 類型番号 |
特記事項 |
個人事業主 |
事業譲渡 |
法人 |
5 |
5 |
1 |
|
個人事業主 |
6 |
6 |
3 |
|
||
法人 |
同一法人内の 代表者交代 |
法人 |
7 |
7 |
2 |
未来の承継含む |
法人 |
事業譲渡 |
法人 |
5 |
5 |
4 |
法人から個人事業主へ事業譲渡後、 承継者が法人成り |
個人事業主 |
6 |
6 |
10 |
個人事業主間での事業譲渡後、 承継者が法人成り |
M&A類型(Ⅲ型)の事業承継形態 / 要件
M&A類型(Ⅲ型)の要件は以下の2点
- 事業再編・事業統合などのM&A
- 株式譲渡の場合、承継者が保有する被承継者の議決権が過半数
M&A類型(Ⅲ型)に該当する事業承継形態に応じた区分は以下の通り。また、承継者1者に対し、最大4者の被承継者との共同申請を認める「グループ申請」がM&A類型で導入されました。対象となるのは「実績報告類型番号」5、6、7、および8の株式移転です。
承継者 |
事業承継の形態 |
被承継者 |
交付申請 類型番号 |
jGrants申請 フォーム番号 |
実績報告 類型番号 |
特記事項 |
個人事業主 |
事業譲渡 |
法人 |
9 |
9 |
1 |
|
個人事業主 |
10 |
10 |
3 |
|
||
株式譲渡 |
法人 |
9 |
9 |
5 |
|
|
法人 |
吸収合併 |
法人 |
11 |
11 |
6 |
|
吸収分割 |
|
|||||
事業譲渡 |
|
|||||
株式交換 |
7 |
|
||||
株式譲渡 |
|
|||||
株式移転 |
8 |
|
||||
新設合併 |
|
|||||
事業譲渡 |
個人事業主 |
12 |
12 |
9 |
法人の総議決権の過半数を有する者と、 被承継者が同一でない |
グループ申請の概要図
画像出典:事業承継・引継ぎ補助金 公募要領
他の申請枠との併用申請 / 同時申請
対象の経営革新事業のうち、補助事業期間内に事業承継・M&Aを完了させる予定の「創業者支援類型」「経営者交代類型」については、専門家活用枠との同時申請が可能。「事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業」を予定する事業者は、廃業・再チャレンジ枠との同時申請が可能です。
それぞれ独立した申請枠へ申し込む同時申請の場合、経営革新 / 専門家活用枠それぞれの申請内容が審査されます。一方、廃業・再チャレンジ枠との併用申請の場合、前提である経営革新枠が採択されなければ、廃業・再チャレンジ枠も採択されることはありません。
経営革新枠の補助対象経費
補助対象経費の定義がやや厳しめなものづくり補助金と比較すると、幅広い経費を対象にできることも事業承継・引継ぎ補助金の特徴。経営革新事業の場合、以下すべての要件を満たし、事務局が必要かつ適切と判断できるものであれば対象経費として認められます。
- 使用目的が補助対象事業に必要だと明確に特定できるもの
- 補助事業期間内に契約・発注し、支払いの完了したもの
- 実績報告で提出する証憑などで金額・支払い等が確認できるもの
経営革新事業の対象となる、具体的な経費項目は以下の通りです。
経費区分 |
概要 |
店舗等借入費 |
国内の店舗・事務所・駐車場の賃借料・共益費・仲介手数料 |
設備費 |
国内の店舗・事務所の工事費、機械器具等の調達費 |
産業財産権等関連経費 |
補助対象事業実施に関する特許権などの取得に要する弁理士費用 |
謝金 |
補助対象事業実施に伴って依頼した専門家報酬 |
旅費 |
販路開拓等を目的とした国内外出張に関する交通費・宿泊費 |
マーケティング調査費 |
自社で実施するもの |
広報費 |
自社で実施するもの |
会場借料費 |
販路開拓や広報活動に関する一時的な会場借料費 |
外注費 |
業務の一部を外注(請負)するための経費 |
委託費 |
業務の一部を外注(委任)するための経費 |
経営革新枠の補助上限額・補助率
事業承継・引継ぎ補助金のうち、経営革新枠の補助上限額は600万円、補助率は1/2、または2/3です。補助事業期間終了時に事業場内最低賃金が地域最低賃金 + 50円以上。すでにそれを達成している場合は、事業場内最低賃金 + 50円以上の賃上げで、補助上限額800万円の優遇措置を得られます。
また、廃業・再チャレンジ枠と併用申請する場合、補助上限額に廃業・再チャレンジの上限額、150万円を上乗せ。上乗せ分の補助率は、経営革新枠の補助率が適用されます。
申請枠 / 申請類型 |
補助上限額 |
補助率 |
経営革新枠 |
600万円〜800万円 ※1 |
1/2、2/3 ※2 |
※1 一定の賃上げを実施する場合、上限を800万円に引き上げ
※2 小規模事業者、営業利益率低下、赤字、再生事業者は2/3
経営革新枠の実施スキーム
経営革新事業の事前準備から申請、交付、補助事業期間終了後の状況報告まで、経営革新枠の実施スキームは以下の通り。上述したように、申請前の事前準備として、認定経営革新等支援機関の確認書が必要なため、事業計画は余裕を持って策定することが重要です。
画像出典:事業承継・引継ぎ補助金 公募要領
【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠・経営革新事業を解説しました
事業承継・引継ぎ補助金なら承継後の新規事業を支援してもらえると聞くが、経営革新事業とは?どんな事業なら補助の対象になる?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、事業承継・引継ぎ補助金の申請枠、経営革新枠の概要や申請類型、補助対象の経営革新事業に求められる要件などを解説しました。