事業承継・引継ぎ補助金の「併用申請型」とは?同時申請との違いも解説!
事業承継・引継ぎ補助金には、併用申請型という廃業・再チャレンジ申請枠があるらしいが、併用申請とは?複数の補助金事業を併用して申請する?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、事業承継・引継ぎ補助金の併用申請型とはなにか、同時申請との違いを含めて解説していきます。
事業承継・引継ぎ補助金の概要
事業承継・引継ぎ補助金とは、雇用の多くを支える中小企業の事業承継やM&Aを支援し、その後の製品開発や生産性向上によって経済活性化を推進する補助金制度のこと。中小企業生産性革命推進事業「事業承継・引継ぎ補助金」が正式名称です。
事業承継を契機とした経済活性化を目的とする事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継・M&A時からその後の事業展開、廃業まで、幅広く経費補助する制度であることが特徴。事業承継・M&Aのさまざまな局面に対応する「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」という3つの申請枠が用意されています。
経営革新枠
経営革新枠とは、事業承継・M&A後に、引き継いだ経営資源を活用して実施する「新事業活動」経費の一部を補助する事業承継・引継ぎ補助金の申請枠です。生産性要件を満たした、以下の革新的な製品・サービスの開発、生産プロセス・提供方法の改善に関する事業計画を策定して申請。店舗等借入費、設備費、原材料費などを補助経費として申請できます。
- デジタル化に資する事業
- グリーン化に資する事業
- 事業再構築に資する事業(新分野展開、事業転換、業種転換など)
経営革新枠には、事業承継・M&Aの形態に応じた3つの申請類型が用意されています。要件は補助事業期間内に事業承継・M&Aを完了させること。申請時点で事業承継・M&A予定であっても問題ありません。
経営革新枠の申請類型 |
概要 |
創業支援類型(I型) |
廃業を予定している事業者などから経営資源を引継ぎ、 譲り受けた者が中小企業等を設立、個人事業主として開業する場合 |
経営者交代類型(II型) |
個人事業主の被承継者が親族などの承継者に事業譲渡する、 あるいは同一法人内の代表者を変更する場合など |
M&A類型(Ⅲ型) |
M&Aによって経営資源(設備、人材など)を引き継ぐ場合 |
専門家活用枠
専門家活用枠とは、仲介業者 / ファイナンシャルアドバイザーの費用など、中小企業のM&A時にかかる経費の一部を補助する事業承継・引継ぎ補助金の申請枠です。経営資源を譲り渡す者(被承継者)と譲り受ける者(承継者)の間で、事業再編・事業統合に着手している、もしくは実施予定であることが要件。対象者に応じた2つの申請類型が用意されています。
専門家活用枠の申請類型 |
概要 |
買い手支援類型(I型) |
事業再編・事業統合にともない 株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援 |
売り手支援類型(II型) |
事業再編・事業統合にともない 株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援 |
どちらの申請類型も、謝金、外注費、委託費のほか、在庫廃棄費、解体費、原状回復費などの廃業関連費用を補助経費として申請できます。
廃業・再チャレンジ枠
廃業・再チャレンジ枠とは、事業承継・M&Aにともない、会社全体または事業の一部を廃業する際の費用を補助する事業承継・引継ぎ補助金の申請枠です。事業承継・M&Aにともなう、以下の4パターンの廃業で利用できます。
- 事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業
- M&Aで事業を譲り受けた際の廃業
- M&Aで事業を譲り渡した際の廃業
- M&Aで事業譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ申請
どのパターンも、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費、移転・移設費用などの廃業関連費用を補助経費として申請できます。
事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者
申請枠それぞれで要件は若干異なりますが、事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者は、小規模事業者を含む中小企業等です。本記事では、中小企業・小規模事業者の定義のみ紹介しますが、要件の詳細は申請枠ごとの公募要領を確認してください。
中小企業者の定義
業種 |
資本金(以下) |
常勤従業員数(以下) |
製造業、建設業、運輸業、旅行業 |
3億円 |
300人 |
卸売業 |
1億円 |
100人 |
サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) |
5,000万円 |
100人 |
小売業 |
5,000万円 |
50人 |
ゴム製造業 (タイヤ / チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く) |
3億円 |
900人 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 |
3億円 |
300人 |
旅館業 |
5,000万円 |
200人 |
その他の業種 |
3億円 |
300人 |
小規模企業者・小規模事業者の定義
業種 |
常勤従業員数 |
製造業その他 |
20人以下の会社および個人事業主 |
商業・サービス業 |
5人以下の会社および個人事業主 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 |
20人以下の会社および個人事業主 |
事業承継・引継ぎ補助金の補助事業期間
事業承継・引継ぎ補助金は、公募ごとに申請受付期間と補助事業期間を定めています。2024年4月1日に公開された9次公募の場合、申請受付期間は4月1日から4月30日まで、補助事業期間は同年11月22日まで。常時、公募されているわけではありません
10次公募以降については、追って公表されると思われますが、9次公募に間に合わない方は、事務局公式サイトを定期的にチェックしましょう。
jGrantsでオンライン申請
事業承継・引継ぎ補助金では、申請、交付案内、補助金請求、事業報告などに「jGrants」を利用したオンライン申請が採用されています。jGrantsでオンライン申請するには「GビズIDプレミアムアカウント」が必須。アカウント取得には2〜3週間を要するため、補助金の活用を検討している方は早めに行動しなければなりません。
事業承継・引継ぎ補助金の併用申請型とは
事業承継・引継ぎ補助金の概要を把握できたところで、本題である併用申請型について解説していきましょう。事業承継・引継ぎ補助金の併用申請型とは、経営革新 / 専門家活用枠と併用して申請する「廃業・再チャレンジ枠」のこと。具体的には、以下の表の1〜3までが併用申請型、4が単独申請(再チャレンジ申請)です。
分類 |
申請 |
事業名称 |
①事業承継またはM&Aで 事業を譲り受けた後の廃業 |
経営革新枠と併用申請 |
廃業・再チャレンジ |
②M&Aで事業を譲り受けた際の廃業 |
専門家活用枠と併用 |
|
③M&Aで事業を譲り渡した際の廃業 |
||
④M&Aで事業を譲り渡せなかった 廃業・再チャレンジ申請 |
単独申請 |
再チャレンジ |
廃業・再チャレンジ枠と経営革新枠の併用申請
経営革新枠との併用申請型となるのは、1の「事業を譲り受けた事業者が、新たな取り組みを実施するにあたって既存事業あるいは譲り受けた事業の一部を廃業する」場合です。新たな取り組みに向けて事業の一部を整理(廃業)するには、前提となる事業承継・M&Aを完了させていなければならないと考えればわかりやすいでしょう。
当然、前提となる経営革新枠が採択されなければ、併用申請した廃業・再チャレンジ枠も採択されません。
廃業・再チャレンジ枠と専門家活用枠の併用
専門家活用枠との併用申請型となるのは、2の「M&Aで事業を譲り受けた際の廃業」および、3の「M&Aで事業を譲り渡した際の廃業」の場合です。M&Aで事業再編・事業統合を進める際に、交渉のなかで事業の一部を廃業せざるを得ない場面があると考えればわかりやすいでしょう。
専門家活用枠での併用申請は不要
ただし上述したように、専門家活用枠の対象経費には「廃業にともなう各種費用」も含まれます。このため、専門家活用枠を利用して廃業をともなう事業承継・M&A交渉を進める場合、改めて廃業・再チャレンジ枠を申請する必要はありません。
単独申請(再チャレンジ)と併用申請では要件が異なる
ここまでの解説でお分かりのように、廃業・再チャレンジの単独申請(再チャレンジ)と併用申請では要件が異なります。具体的には以下の通り。
分類 |
申請 |
要件 |
①事業承継またはM&Aで 事業を譲り受けた後の廃業 |
併用申請型 |
事業承継・M&A後の新たな取り組み |
②M&Aで事業を譲り受けた際の廃業 |
M&Aによって他者から事業を譲り受ける (全部譲渡、一部譲渡含む) |
|
③M&Aで事業を譲り渡した際の廃業 |
M&Aによって他者へ事業を譲り渡す (全部譲渡、一部譲渡含む) |
|
④M&Aで事業を譲り渡せなかった 廃業・再チャレンジ申請 |
単独申請型 |
・2020年以降、6か月以上M&Aに着手したものの、 成約にいたらなかった者 ・地域の新たな需要の創造 または雇用の創出に資する活動に取り組む |
併用申請型の補助上限額・補助率
併用申請型の補助上限額は、経営革新 / 専門家活用枠それぞれの上限額に、廃業・再チャレンジ単独申請の上限額が上乗せされた形です。一方、単独申請の補助率は2/3に統一されていますが、併用申請型の補助率は併用申請する申請枠に従う形になります。
廃業・再チャレンジ単独申請の補助上限額・補助率
申請枠 / 申請類型 |
補助上限額 |
補助率 |
廃業・再チャレンジ枠(単独申請) |
150万円 |
2/3 |
経営革新 / 専門家活用枠の補助上限額・補助率
申請枠 / 申請類型 |
補助上限額 |
補助率 |
経営革新枠 |
600万円〜800万円 ※1 |
1/2、2/3 ※2 |
専門家活用枠 |
600万円 |
買い手支援類型:2/3 売り手支援類型:1/2、2/3 ※3 |
※1 一定の賃上げを実施する場合、上限を800万円に引き上げ
※2 小規模事業者、営業利益率低下、赤字、再生事業者は2/3
※3 赤字、営業利益率低下は2/3
事業承継・引継ぎ補助金の同時申請(重複申請)とは
事業承継・引継ぎ補助金では、併用申請のほかに、複数の申請枠を同時に申請できる「同時申請(重複申請)」も可能です。具体的には、経営革新枠と専門家活用枠は要件に応じて同時申請できます。
経営革新枠と専門家活用枠の同時申請(重複申請)
上述したように、中小企業の新たな取り組みを支援する経営革新枠は、申請時点で「事業承継・M&Aを実施予定」の事業者も補助の対象。つまり、補助事業期間内にM&Aを完了させる予定、かつ経営革新枠へ申請する事業者なら、M&Aを支援する専門家活用枠との同時申請が可能です。
併用申請との違いは、審査の独立性。廃業・再チャレンジ枠の併用申請は、前提である経営革新 / 専門家活用枠が採択されなければなりません。しかし同時申請の場合、経営革新 / 専門家活用枠それぞれの事業内容が審査されるため、どちらか片方が採択されるパターンもあり得ます。
併用申請型・同時申請の支援機関
経営革新枠 / 廃業・再チャレンジ枠へ申請するには、認定経営革新等支援機関の署名入り確認書が必要です。確認書とは、事業者資格 / 事業内容が申請枠の要件を満たすことを確認する書類。認定経営革新等支援機関とは、税理士、公認会計士、中小企業診断士、商工会議所、金融機関などが登録する、中小企業の支援に関する国の認定を受けた機関のことです。
参考:認定経営革新等支援機関
一方、専門家活用枠の経費である専門家報酬は、中小企業庁の創設した「M&A支援機関登録制度」に登録する専門家のみが対象です。登録する専門家は、M&A仲介業者、FAをはじめ、公認会計士、税理士、社労士、商工団体、金融機関など。
参考:M&A支援機関登録制度
専門家活用枠では廃業・再チャレンジ枠の別途申請が不要など、併用申請には例外措置も設けられていますが、同時申請の場合、申請枠それぞれに適した支援機関の選定が必須。公募要領をよく確認し、申請形態に応じた支援機関を把握しておくことが重要です。
【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の併用申請型を解説しました
事業承継・引継ぎ補助金には、併用申請型という廃業・再チャレンジ申請枠があるらしいが、併用申請とは?複数の補助金事業を併用して申請する?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、事業承継・引継ぎ補助金の併用申請型とはなにか、同時申請との違いを含めて解説しました。