事業承継・引継ぎ補助金の買い手支援類型とは?補助対象の事業や要件を解説!
ビジネスの成長を目的にM&Aを計画しているが、自社でも事業承継・引継ぎ補助金の買い手支援類型を申請できる?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、補助対象の事業 / 事業者や各種要件を含め、事業承継・引継ぎ補助金の買い手支援類型を解説していきます。
事業承継・引継ぎ補助金の買い手支援類型とは
買い手支援類型とは、3つ用意されている事業承継・引継ぎ補助金の申請枠の1つ、専門家活用枠の申請類型のこと。文字通り、事業承継・引継ぎ事業を計画する中小企業の専門家活用を支援する補助金制度のことです。
では、買い手支援類型では、どのような補助 / 支援を得られるのか。それを理解するためには、まず事業承継・引継ぎ補助金の全体像を把握しておくことが重要です。
事業承継・引継ぎ補助金の概要
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継やM&Aを契機に、新たな事業に取り組む中小企業を支援することで、地域の雇用創出や経済発展を推進する補助金制度のこと。事業承継・M&Aのプロセスやそれにともなう廃業、経営統合後の新規事業など、事業承継を起点としたさまざまな局面で利用できる補助金制度です。
事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者
補助対象事業に応じた3つの申請枠を用意する事業承継・引継ぎ補助金ですが、大前提となる共通の対象事業者は、小規模事業者を含む中小企業です。事業承継・引継ぎ補助金で定義される中小企業、小規模事業者は以下の通り。ただし、申請枠 / 申請類型によって追加の要件を満たさねばならないため注意が必要です。
中小企業者の定義
業種 |
資本金(以下) |
常勤従業員数(以下) |
製造業、建設業、運輸業、旅行業 |
3億円 |
300人 |
卸売業 |
1億円 |
100人 |
サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) |
5,000万円 |
100人 |
小売業 |
5,000万円 |
50人 |
ゴム製造業 (タイヤ / チューブ製造業、工業用ベルト製造業を除く) |
3億円 |
900人 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 |
3億円 |
300人 |
旅館業 |
5,000万円 |
200人 |
その他の業種 |
3億円 |
300人 |
小規模企業者・小規模事業者の定義
業種 |
常勤従業員数 |
製造業その他 |
20人以下の会社および個人事業主 |
商業・サービス業 |
5人以下の会社および個人事業主 |
サービス業のうち宿泊業・娯楽業 |
20人以下の会社および個人事業主 |
事業承継・引継ぎ補助金の補助事業期間
ご存知のように、補助金は常に申請を受け付けているわけではなく、公募ごとに申請期間 / 補助事業終了日が異なります。たとえば、事業承継・引継ぎ補助金9次公募の場合、申請期間は2024年4月1日から30日まで、補助事業終了日は11月22日です。
補助事業の開始日は一般的に「交付日」となるため、事業承継・引継ぎ補助金9次公募であれば交付日から補助事業終了日までが補助事業期間。交付日が2024年5月23日であれば、11月22日までの6か月間が補助事業期間です。これは、以下から解説する3つの申請枠、すべてに共通しています。
事業承継・M&A後の事業を補助する「経営革新枠」
経営革新枠とは、事業承継やM&Aを契機にした、中小企業の新たな取り組みを支援する事業承継・引継ぎ補助金の申請枠です。補助対象事業は、革新的な製品・サービスの開発事業、新分野展開を含む事業再構築事業など、基本要件は補助事業期間内に事業承継・M&Aを完了させること。事業承継の形態に応じた3つの申請類型が用意されています。
経営革新枠の申請類型 |
概要 |
創業支援類型(I型) |
廃業を予定している事業者などから経営資源を引継ぎ、 譲り受けた者が中小企業等を設立、個人事業主として開業する場合 |
経営者交代類型(II型) |
個人事業主の被承継者が親族などの承継者に事業譲渡する、 あるいは同一法人内の代表者を変更する場合など |
M&A類型(Ⅲ型) |
M&Aによって経営資源(設備、人材など)を引き継ぐ場合 |
事業承継・M&Aに伴う廃業を支援する「廃業・再チャレンジ枠」
廃業・再チャレンジ枠とは、事業承継・M&Aにともなう廃業や、その後の事業再構築など、中小企業の新しい取り組みにともなう事業の廃業を支援する申請枠です。補助対象事業は以下の4つ。在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費、移転・移設費用などが対象経費です。
- 事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業
- M&Aで事業を譲り受けた際の廃業
- M&Aで事業を譲り渡した際の廃業
- M&Aで事業譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ申請
買い手支援類型を含む「専門家活用枠」
3つの申請枠が用意された事業承継・引継ぎ補助金、残りの1つが「買い手支援類型」を含む専門家活用枠です。専門家活用枠とは、中小企業のM&A成立に向け、M&A仲介業者やファイナンシャルアドバイザー(FA)の専門家報酬などを補助する申請枠のこと。補助対象の事業者に応じ、買い手支援類型と売り手支援類型が用意されています。
専門家活用枠の申請類型 |
概要 |
買い手支援類型(I型) |
事業再編・事業統合にともない、 株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援 |
売り手支援類型(II型) |
事業再編・事業統合にともない、 株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援 |
事業承継・引継ぎ補助金では、経営資源を譲り受ける者を「承継者」、譲り渡す者を「被承継者」と定義しています。
買い手支援類型と売り手支援類型の違い
つまり、買い手支援類型と売り手支援類型の違いは、補助対象の事業者です。買い手支援類型の対象事業者が「承継者」であるのに対し、売り手支援類型は被承継者。対象となる事業者の要件、支援の対象となる補助事業の要件も若干異なります。
買い手支援類型で活用できる専門家
買い手支援類型の対象経費は専門家報酬ばかりではありませんが、経費のメインであることも事実。それでは、買い手支援類型でいう「専門家」の定義はなんでしょうか?
買い手支援類型の対象となる「専門家」とは、中小企業庁の創設した「M&A支援機関登録制度」に登録する専門家のこと。M&A仲介業者、FA、公認会計士、社労士、金融機関など、さまざまな専門家が登録していますが、未登録の専門家へ支払った報酬は補助対象外であることに注意が必要です。
参考:M&A支援機関登録制度
買い手支援類型の事業者要件
買い手支援類型の概要を把握できたところで、申請する事業者や補助事業に求められる要件や、補助対象経費、補助上限額・補助率なども解説していきましょう。まずは対象事業者の要件です。
買い手支援類型への申請を検討している事業者は、小規模事業者を含む中小企業だというほかに、以下の追加要件を満たす必要があります。
要件 |
1 日本国内に拠点または居住地を置き、日本国内で事業を営むこと |
2 対象者またはその法人の役員が、暴力団等の反社会的勢力ではないこと。 反社会的勢力との関係を持たないこと。資金提供を受けていないこと |
3 法令遵守上の問題を抱えていないこと |
4 事務局から質問、追加資料等の依頼があった場合に適切に対応すること |
5 事務局が必要と認めるとき、事務局が補助金の交付申請ほか各種事務局による承認 および結果通知に係る事項につき修正を加えて通知することに同意すること |
6 補助金の返還等の事由が発生した際、申請その他本補助金の交付にあたり負担した各種費用について、 いかなる事由においても事務局が負担しないことに同意すること |
7 経済産業および独立行政法人中小企業基盤整備機構から補助金停止指定措置 または指名停止措置が講じられていないこと |
8 申請・報告等で提供した個人情報を含む全ての情報は、データ利用について同意すること |
9 交付申請時点から過去18か月の間において、賃上げ加点の要件等が未達成の場合、 正当な理由がない限り大幅に減点されることを了承した上で申請すること |
10 事務局が求める調査やアンケートに協力できること |
11 FA・M&A仲介業者を補助対象経費とする場合は、事業対象者の内容について M&A支援機関登録制度事務局に実績報告されることに同意すること |
12 M&A支援機関登録制度に登録された専門家・専門家の代表が、 補助対象者・対象者の代表と同一でないこと |
買い手支援類型の対象になる補助事業
買い手支援類型の対象になる補助事業は、要件を満たした事業者が実施する「経営資源引継ぎの要件」「補助事業の要件」を満たした事業でなければなりません。
経営資源引継ぎの要件
経営資源とは、設備・従業員・物品など、会社経営に必要な資源のこと。買い手支援類型で求められる経営資源引継ぎ要件は、以下のいずれかであり、不動産や物品のみの売買、親族間の事業承継などに相当する事業は補助対象外です。
- 補助事業期間に被承継者と承継者の間で事業再編・事業統合が着手もしくは実施予定
- 補助事業期間に被承継者と承継者の間で廃業をともなう事業再編・事業統合が着手もしくは実施予定
また、被承継者と承継者の間で着手、もしくは実施予定の事業再編等は、以下の形態のいずれかであることも求められます。
補助対象者 |
経営資源 引継ぎの形態 |
交付申請 類型番号 |
jGrants申請 フォーム番号 |
実績報告 類型番号 |
承継者(法人) |
株式譲渡 |
1 |
1 |
1 |
第三者割当増資 |
||||
株式交換 |
||||
吸収合併 |
2 |
|||
吸収分割 |
3 |
|||
事業譲渡 |
4 |
|||
承継者(個人事業主) |
株式譲渡 |
2 |
2 |
1 |
第三者割当増資 |
||||
事業譲渡 |
4 |
補助事業の要件
事業者が実施する補助事業に求められる要件は、公序良俗に反する事業でないこと、社会通念上、不適切であると判断される事業でないこと。その上で、以下の要件を満たした補助事業であることが求められます。
- 事業再編・事業統合にともない、譲り受けた経営資源のシナジーを活かした経営革新等の実施が見込まれること
- 譲り受けた経営資源により、地域の雇用をはじめとした地域経済全体を牽引する事業の実施が見込まれること
買い手支援類型の補助対象経費
買い手支援型の補助対象経費として認められるものは、以下すべての要件を満たし、事務局が必要かつ適切と判断できるものです。
- 使用目的が補助対象事業に必要だと明確に特定できるもの
- 補助事業期間内に契約・発注し、支払いの完了したもの
- 実績報告で提出する証憑などで金額・支払い等が確認できるもの
買い手支援類型の具体的な補助対象経費項目は以下の通り。
経費区分 |
概要 |
謝金 |
補助対象事業実施に伴って依頼した専門家報酬 |
旅費 |
販路開拓等を目的とした国内外出張に関する交通費・宿泊費 |
外注費 |
業務の一部を外注(請負)するための経費 |
委託費 |
業務の一部を外注(委任)するための経費 |
システム使用料 |
M&Aマッチングサイト等の登録料、利用料、成約手数料 |
保険料 |
表明保証保険等の保険料 |
廃業関連費(廃業する場合) |
廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、移転・移設費用など |
買い手支援類型の併用申請 / 同時申請
M&Aに着手すると同時に、譲り受ける事業の一部廃業を検討している方であれば、買い手支援型と廃業・再チャレンジ枠の併用申請が可能。また、M&Aに着手すると同時に、譲り受けた経営資源で革新的な事業に取り組みたい方であれば、買い手支援型と経営革新枠の同時申請が可能です。
買い手支援型と廃業・再チャレンジの併用であれば、買い手支援型の補助上限額に廃業・再チャレンジの上限額が上乗せ。買い手支援型と経営革新枠の同時申請であれば、採択されたそれぞれの申請枠の補助上限額を受給できます。
廃業・再チャレンジ枠への別途申請は不要
ただし、M&Aに着手すると同時に、譲り受ける事業の一部廃業を検討する場合、申請が必要なのは買い手支援類型のみ。追加で廃業・再チャレンジ枠を申請する必要はありません。
これは、補助対象経費で紹介したように、買い手支援型の補助対象経費に「廃業関連費用」が含まれているからです。
買い手支援類型の補助上限額・補助率
買い手支援類型の補助上限額は600万円、補助率は2/3に設定されており、廃業する場合は150万円を上限に上乗せされます。
|
補助上限額 |
上乗せ額(廃業費) |
補助率 |
買い手支援類型 |
600万円 |
150万円まで |
2/3 |
買い手支援類型の実施スキーム
申請から交付、補助事業期間終了後の報告まで、買い手支援型の実施スキームは以下の通り。申請・交付案内・報告等は、jGrantsを利用したオンラインで実施するため、GビズIDプレミアムアカウントの取得が必須。申請からアカウント取得までには2〜3週間を要するため、早めに行動することがおすすめです。
画像出典:事業承継・引継ぎ補助金 公募要領
【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の買い手支援類型を解説しました
ビジネスの成長を目的にM&Aを計画しているが、自社でも事業承継・引継ぎ補助金の買い手支援類型を申請できる?そんな疑問を持つ経営者の方に向け、補助対象の事業 / 事業者や各種要件を含め、事業承継・引継ぎ補助金の買い手支援類型を解説しました。