省力化省人化補助金とは?要件と対象ツール・他の補助金との違いも解説
2023年度の補正予算で新しく開設された「省力化省人化補助金」が、人手不足対策のロボットやAIツールの導入に使えると聞き、申請を検討している方も多いでしょう。
本記事では、省力化省人化補助金の要件や補助対象、補助金額、申請フローを紹介。業種ごとのツール導入イメージや、他の補助金との違いも解説します。
省力化省人化補助金とは「中小企業省力化投資補助金」のこと
省力化省人化補助金とは、経済産業省の2023年度補正予算に組み込まれた「中小企業省力化投資補助金」のことです。
人手不足の中小企業や小規模事業者を対象とし、人手不足解消につながるAIやIoT・ロボットなどの導入を支援し、売上拡大や生産性向上を後押しします。同時に賃上げにつなげることも目的とした、中小企業庁による新しい補助金制度です。
2024年4月の時点で、以下の内容が公開されています。
- 公式ホームページ:中小企業省力化投資補助金
- 公募要領:公募要領(中小企業省力化投資補助金)
- 交付申請フロー簡易版(2024.3.29公開):中小企業省力化投資補助金の申請フロー
上記資料をもとに、制度の概要と詳細を解説していきます。
目的と背景
国はこれまで、ものづくり補助金やIT導入補助金を通じて「IT導入等による生産性向上・効率化」を推進する取り組みを行ってきました。しかし人口減少や少子化、改正労働基準法による2024年4月からの時間外労働の上限規制厳格化を前に、生産性向上には抜本的な人手不足対策が不可欠と判断したのです。
2023年度からの3年間で中小企業者の省力化を推進し、付加価値額と生産性の向上を図りながら、賃上げにもつなげる方針へと転換しました。
中小企業省力化投資補助事業(省力化省人化補助金)は基金再編により、2023年度補正予算で1,000億円の予算が盛り込まれるほど注力されている施策です。
特徴とメリット
省力化省人化補助金の特徴は、補助対象経費を省力化製品とし、自社の課題やニーズにあわせて汎用的な製品から選択できる点にあります。人手不足の解消に焦点を当てた施策のため、省力化に効果のあるツールを「簡易・迅速に導入」することが目的で、申請企業に特化した開発は行いません。
同補助金では導入を支援する「販売事業者」が申請・手続きをサポートしてくれるメリットがあり、公募要領には以下のように記載されています。
- 「販売事業者は、当該事業者が製品を提供する中小企業等と共同で本補助金の交付申請を行い、申請及び事業実施等に係る各種サポートを行う責務が生じる」(公募要領3ページ)
省力化省人補助金は、登録された販売事業者と共同で申請し、連携して事業を遂行する点が他の補助金と異なるポイントです。
基本要件
基本要件は、以下の「労働生産性の向上目標」「賃上げ目標」を事業計画で満たすことです。
- 補助事業終了後3年間で労働生産性を年平均成長率(CAGR)3.0%以上向上
- 「事業場内最低賃金を45円以上増加」「給与支給総額を6%以上増加」の両方を満たす事業計画を策定
補助事業期間終了までに2の最低賃金・給与支給総額目標を達成した場合は、事項で示す補助上限額の引き上げがあります。ただし、達成できなければ補助額の減額を受けるためご注意ください。
補助額と補助率
補助額と補助率は以下のとおりです。
従業員数 |
補助率 ※補助対象経費総額に対しての割合 |
補助上限額 ※()は賃上げ目標を達成した場合 |
5人以下 |
1/2以下 |
200万円(300万円) |
6~20人以下 |
500万円以下(750万円) |
|
21人以下 |
1,000万円以下(1,500万円) |
補助上限額の設定は、交付申請時点での従業員数を基準とします。
省力化省人化補助金の補助対象
ここでは省力化省人化補助金の補助対象となる事業者と事業、経費を解説します。
補助対象事業者
省力化省人化補助金の補助対象となるためには、事業者が以下の要件を満たす必要があります。
- 人手不足であると確認できること
- 全従業員が最低賃金を超えていること ※交付申請日・実績報告時を基準とする
ここでいう人手不足とは、以下の1~4のいずれかに該当する場合です(4のみの場合はより詳細な説明と事業計画が必要)。
- 限られた人手で業務を行うため、直近の従業員の平均残業時間が30時間を超えている
- 整理解雇以外の離職・退職により、従業員が前年度比5%以上減少している
※非正規雇用が主体の事業者は総労働時間を従業員数で代替 - 採用活動を行っているが、充足に至っていない
- その他、省力化を推し進める必要に迫られている
上記の要件を満たしたうえで補助対象となる事業者とは、日本国内で法人登記され、国内で事業を営む以下の「中小企業者等」(個人事業主を含む)です。
- A.中小企業者(組合関連以外)
- B.中小企業者(組合・法人関連)
- C.「中小企業者等」に含まれる「中小企業者」以外の法人
Aの中小企業者(組合関連以外)は、以下に分類されます。
業種 |
資本金 |
従業員数(常勤) |
製造業、建設業、運輸業 |
3億円 |
300人 |
卸売業 |
1億円 |
100人 |
サービス業 (ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) |
5,000万円 |
100人 |
小売業 |
5,000万円 |
50人 |
ゴム製品製造業 (自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業 ならびに工業用ベルト製造業を除く) |
3億円 |
900人 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 |
3億円 |
300人 |
旅館業 |
5,000万円 |
200人 |
その他の業種(上記以外) |
3億円 |
300人 |
Bの中小企業者(組合・法人関連)は以下のとおりです。
・企業組合 ・協業組合 ・事業協同組合、事業協同小組合、協同組合連合会 ・商工組合、商工組合連合会 ・商店街振興組合、商店街振興組合連合会 ・水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会 ・生活衛生同業組合、生活衛生同業小組合、生活衛生同業組合連合会 ・酒造組合、酒造組合連合会、酒造組合中央会、酒販組合、酒販組合連合会、酒販組合中央会 ・内航海運組合、内航海運組合連合会 ・技術研究組合 |
Cの中小企業者等に含まれる中小企業者以外の法人とは、以下a・bの法人を指します。
a.以下すべての要件を満たす特定非営利活動法人(NPO 法人) ・中小企業の振興・発展に結びつく活動を行う特定非営利活動法人 ・従業員数が300人以下 ・法人税法上の収益事業を行う特定非営利活動法人 ・認定特定非営利活動法人ではない ・交付決定時までに補助金事業の「経営力向上計画」の認定を受けている
・「社会福祉法」に規定する所管庁の認可を受け設立された法人 ・従業員数が300人以下 ・収益事業の範囲内で補助事業を行う |
補助対象事業
省力化省人化補助金の補助対象となるのは、以下のすべてを満たす事業です。
- 導入する省力化製品に紐付けられた業種の1つ以上が、補助事業者の営む事業の業種と合致する
- カタログに登録された価格以内の導入経費を事業計画に組み込む(自費による経費の追加は可)
- 労働生産性の向上目標を設定し実現に向けて取り組む
- 登録されている業種・業務プロセス以外の用途にツールを使用しない
- 合理的に達成できる労働生産性向上目標が事業計画に盛り込まれ、計画に沿って事業が実施される
- 省力化製品の導入を契機とした従業員の解雇を行わない
- 補助金額が500万円(購入額1,000万円)を超える場合は、自然災害による損害を補償する保険へ加入している
- すでに所有する製品の単なる置き換えではない
- 「GビズIDプライム」を取得している
一方で、補助金の趣旨にそぐわない事業や以下の事業は補助対象となりません。
- 省力化製品を登録されている業種・業務プロセス以外の用途に使用する
(例:飲食業で業務プロセスを「調理」で登録されている省力化製品を、家事のために使用する) - 不動産賃貸や駐車場経営、暗号資産のマイニングなど、実質的な労働をともなわない事業、または資産運用的性格の強い事業
- 建築または購入した施設・設備を事業の用に活用せず、特定の第三者に長期間賃貸させる
- 取り組む事業が1次産業(農業・林業・漁業)である
- 主に従業員の解雇により労働生産性を向上させる事業
省力化省人化補助金では、1次産業は補助対象とならない点に注意しましょう。
補助対象経費
補助対象となる経費は、省力化製品の設備投資のうち「製品本体価格」「導入経費」です。
導入ツールを補助事業のために使用する場合、製品本体価格はカタログの価格を上限として申請できます。
ただし製品の販売金額に占める補助事業者の自己負担額を、減額または無償化する販売方法(実質的な還元)は認められません。また、一部の利害関係者に不当な利益を与える行為も同様です。補助金の目的に反する不適切な行為とは、例えば以下のような内容です。
- ポイント・クーポンによる割引や、購入者への払い戻しがあり、購入額の証憑と実質的支払の金額が異なるケース
- 一般に販売されている価格相場よりも、特別に高い価格で省力化製品の登録を行い、補助金の交付を受けるケース
不適切な減額や無償化、不当な利益供与が疑われると、事前予告なしの立入調査を受ける場合があります。調査の結果、交付取り消しや事業者名・代表者名・不正内容が公表され、以後の交付申請ができなくなる可能性もあるため、注意しましょう。
上記のほかに、補助対象外となる経費は以下のとおりです。
- 補助事業者の顧客が実質負担する費用が省力化製品代金に含まれる経費(補助事業者の売上原価に当たると判断されるケース)
- 対外的に無償で提供されているもの
- リース・レンタル契約で導入する省力化製品
- 中古品
- 交付決定前に購入した省力化製品(理由を問わず事前着手は不可)
- 公租公課(消費税)
- 上記のほか、本事業の目的・趣旨から不適切と中小企業庁・中小機構・事務局から判断された経費
審査時に事務局が着目するポイント
補助金の審査で、事務局はまず採択における要件(事業・事業者)を満たしているかをチェックします。
要件を満たしている場合に、事務局は以下の点に着目し審査を行うと公表しています。
- 事業計画で省力化の効果が合理的に説明されているか
- 省力化への投資により高い労働生産性の向上が期待できるか
- 省力化により(高付加価値業務へのシフトなど)単なる工数削減以上の付加価値の増加が期待できるか
- 賃上げに積極的に取り組んでいるか・取り組む予定であるか
新しい補助金で過去の採択事例がないため、要件と補助金の目的に沿った事業計画かどうかが重要になると考えられます。付加価値額向上と賃上げについて、根拠と達成見込みのある事業計画を策定しましょう。
省力化省人化補助金の交付申請スケジュール・フロー
2024年4月の時点で公表されている申請スケジュールとフローを解説します。
スケジュール
2024年4月初旬の段階で、「製造者登録」については受付中ですが、販売者と中小企業者(購入者)の申請受け付けはまだ開始されておらず、順次開始の予定です。中小企業者の公募開始について、最新情報は公式サイトでご確認ください。
今後の省力化省人化補助金事業は、2026年9月末頃までの間に複数回の公募を行うとされています。カタログへの登録は公募の半年前まで随時行われるとのことで、省力化製品、製造事業者、販売事業者の登録有効期間は2026年度末までとなっています。
申請手続きフロー
省力化省人化補助金は「カタログ型」の申請方式で、用意されたカタログの中から、自社の省力化に有効なツールを選んで補助金を申請します。手続きの流れは以下のとおりです。
- 制度の理解とgBizIDの取得
- カタログからの選択
- 人手不足の状態にあることの確認
- 省力化を進めるための計画作成
- 保険への加入
- 販売事業者との共同申請
- 採択通知および交付決定
- 省力化製品の導入
申請には「gBizIDプライム」アカウント(ID・パスワード)が必要です。IDの交付までには時間がかかるため(書類申請で約1週間)、未取得の場合はgBizIDホームページから早めに手続きしましょう。
また、補助額が500万円以上(購入額1,000万円以上)の場合は、火災や自然災害に備えて付保割合が補助率1/2以上の保険・共済への加入が必須です。
交付決定以降の補助金事業フローは以下のとおりです。
- 交付決定
- 補助事業の実施
- 事業実績報告
- 補助金額の確定・補助金交付
- 交付手続き
- 事業実施効果報告
画像引用:公募要領(中小企業省力化投資補助事業)12ページ
【業種別】ツール導入イメージ
2024年3月29日に公開された、中小企業省力化投資補助事業の「製品カテゴリ」一覧は以下のとおりです。
|
機器カテゴリ |
対象業種 |
対象業務プロセス |
A |
清掃ロボット |
宿泊業、飲食サービス業 |
施設管理 |
B |
配膳ロボット |
飲食サービス業、宿泊業 |
配膳・下膳 |
C |
自動倉庫 |
製造業、倉庫業、 卸売業、小売業 |
保管・在庫管理、入出庫 |
D |
検品・仕分システム |
倉庫業、製造業、 卸売業、小売業 |
資材調達、加工・生産、検査、 保管・在庫管理、入出庫 |
E |
無人搬送車 (AGV・AMR) |
倉庫業、製造業、 卸売業、小売業 |
資材調達、加工・生産、検査、 保管・在庫管理、入出庫 |
F |
スチームコンベクション オーブン |
飲食サービス業、 宿泊業、小売業 |
調理 |
G |
券売機 |
飲食サービス業 |
注文受付 |
H |
自動チェックイン機 |
宿泊業 |
受付案内、予約管理、 請求・支払、顧客対応 |
I |
自動精算機 |
飲食サービス業、小売業 |
請求・支払 |
ここでは「製品カテゴリ」のレポートをもとに、業種ごとに補助対象となる見込みのツールと活用イメージを紹介します。
宿泊業
宿泊業で想定される導入ツールとしては、自動チェックイン機や清掃ロボット、配膳ロボットなどが考えられます。
機器カテゴリ |
対象業務プロセス |
製品の概要 |
A.清掃ロボット |
・施設管理 |
|
B.配膳ロボット |
|
|
H.自動チェックイン機 |
|
|
自動チェックイン機の導入により省力化のほか、チェックイン時間の混雑解消にも効果を発揮すると見込まれます。会計ミスや接客時の金銭トラブルも削減でき、窓口対応に割いていた人員を他の業務に回すことで、顧客体験と満足度の向上も図れるでしょう。顧客情報のペーパーレス化で、環境への配慮も可能です。
清掃ロボットを導入すれば、廊下やロビーの清掃業務が人手から機器に置き換えられ、大きな省力化効果が見込めます。対象ツールの検証時に、数百万円程度の価格で導入した製品で既存の掃除機よりも、大幅なコスト削減効果を得られた事例もあったとのことです。
飲食サービス業
飲食サービス業で想定される導入ツールとしては、配膳ロボットやスチームコンベクションオーブン、発券機、自動精算機、清掃ロボットなどが考えられます。
機器カテゴリ |
対象業務プロセス |
製品の概要 |
B.配膳ロボット |
|
|
F.スチームコンベクションオーブン (プログラム機能付き調理器具) |
|
|
G.券売機 |
|
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I.自動精算機 |
請求・支払 |
・支払・精算対応およびつり銭の受け渡しを 自動的に行える |
配膳ロボットの導入により、店員が行っていた配膳・下膳を自動で行えるようになります。
さらにスチームコンベクションオーブンを使えば、新人アルバイトでもボタン1つでプロの味を再現できるでしょう。
キャッシュカウント機能付き券売機を導入すれば、注文を自動で受けられるほか、売上計上作業や売上金と釣銭準備金を分ける経理業務なども不要。自動精算機により、ヒューマンエラーによる過不足金の発生も回避できるでしょう。
対面での会計処理時間の削減だけでなく、オープン前の現金管理やレジ点検、閉店後の売上金回収業務も削減が可能です。
製造業・倉庫業
製造業・倉庫業で想定される導入ツールとしては、自動倉庫や検品・仕分けシステム、無人搬送車(AGV・AMR)などが考えられます。
機器カテゴリ |
対象業務プロセス |
製品の概要 |
C.自動倉庫 |
・保管・在庫管理 ・入出庫 |
・パレットやケース、コンテナを 自動的に入出庫・保管が可能 ・保管する棚、出し入れする機械、 前後の荷受け・荷渡し装置で構成され、 システムでコントロール・管理を行う |
D.検品・仕分システム |
・資材調達 ・加工・生産 ・検査 ・保管・在庫管理 ・入出庫 |
・検品と仕分けをシステムで一体化し自動化 |
E.無人搬送車 (AGV・AMR) |
・資材調達 ・加工・生産 ・検査 ・保管・在庫管理 ・入出庫 |
・自動で走行する車両・台車でパレット・ケースを 移載・けん引でき、自動で搬送が行える ・機器に組み込まれたマップやロケーション情報、 ルートに基づき、自動で移動 |
自動倉庫は、部品や商品のピッキングや搬送を自動で行う設備で、高積みが可能で通路幅も狭くて済むため、空間効率が向上。ロケーション管理や在庫管理、日付ごとの先入れ先出しも自動で処理されるため、作業工数が大幅に削減されるでしょう。フォークリフト免許がなくてもパレットを降ろせるため、経験の浅い人材でも出荷作業が容易になります。
また検品・仕分けシステムがあれば、目視によるミスを削減できるほか、長時間稼働も実現でき、生産性と顧客信頼度の向上が見込めます。
無人搬送車を導入すれば、搬送ミスや作業ムラが無くなり、処理スピードや処理精度も向上するでしょう。
卸売業・小売業
卸売業・小売業で想定される導入ツールとしては、自動倉庫や検品・仕分けシステム、無人搬送車などが考えられます。
機器カテゴリ |
対象業務プロセス |
製品の概要 |
C.自動倉庫 |
・保管・在庫管理 ・入出庫 |
・パレットやケース、コンテナを 自動的に入出庫・保管が可能 ・保管する棚、出し入れする機械、 前後の荷受け・荷渡し装置で構成され、 システムでコントロール・管理を行う |
D.検品・仕分システム |
・資材調達 ・加工・生産 ・検査 ・保管・在庫管理 ・入出庫 |
・検品と仕分けをシステムで一体化し自動化 |
E.無人搬送車 (AGV・AMR) |
・資材調達 ・加工・生産 ・検査 ・保管・在庫管理 ・入出庫 |
・自動で走行する車両・台車で、パレット・ケースを 移載・けん引でき、自動で搬送が行える ・機器に組み込まれたマップやロケーション情報、 ルートに基づき、自動で移動 |
F.スチームコンベクションオーブン (プログラム機能付き調理器具) |
・調理 |
・料理や食材ごとの加熱時間、温度などを登録でき、 簡単な操作で総菜の製造が可能 |
I.自動精算機 |
・請求・支払 |
・支払・精算対応およびつり銭の受け渡しを 自動的に行える |
店舗のバックヤード業務では倉庫業と同様に、自動倉庫や検品・仕分けシステム、無人搬送車(AGV・AMR)による大幅な省人化が期待できます。食品を扱う場合には、冷凍・冷蔵スペースの自動化・省人化により、労働環境の改善にもつながるでしょう。人の出入りを制限すれば、冷気漏れによるロスも削減が可能です。
スーパーの総菜製造にスチームコンベクションオーブンを導入すれば、人手で行うのは加工の下ごしらえのみで済みます。自動精算機を導入すれば店頭を省人化でき、レジに割いていた人員を値付けや陳列、品出しなどに廻すことも可能です。ベテラン従業員は在庫管理や事務処理に注力できるでしょう。
省力化省人化補助金と他の補助金との違い
|
省力化省人化 |
ものづくり補助金 ※省力化(オーダーメイド)枠 |
IT導入補助金 |
事業再構築補助金 |
支援目的 |
人手不足を解消し 生産性向上につながる AI・IoT・ロボットの導入を支援 |
革新的なサービス開発 ・生産プロセス改善に 必要な設備投資を支援 |
経営課題解決につながる ITツール導入を支援 |
新規事業による 事業再構築を支援 |
対象となる取り組み |
・既存事業の省人化 ・生産性向上 |
・業務改善 ・新サービスの開発 |
ITツールの導入 (インボイス対応・業務効率化 ・セキュリティ強化) |
新規事業 (新分野展開・事業転換 ・業種転換・業態転換 ・事業再編のいずれか) |
補助対象ツール |
カタログに登録された 汎用的省力化製品 |
SIerとの連携による デジタル技術を活用した 専用設備 |
自社課題解決に特化し 開発したツール |
上記事業に必要な 機械装置・システムなど |
補助上限額 |
1,000万円 (1,500万円) |
8,000万円 (1億円) |
450万円 ※通常枠の場合 |
1,000万円~1.5億円 ※申請枠による |
補助率 |
一律1/2 |
1/2~2/3 |
1/2 |
1/2~3/4 |
その他備考 |
簡易的で即効性のある 省力化投資を促進 |
大規模設備投資や 研究開発プロジェクトにも 活用できる |
申請時にIPA 「SECURITY ACTION」 「みらデジ経営チェック」 が必要 |
基金再編のため同形態での 今後の実施は未定 |
※補助上限額の()は賃上げ要件を達成した場合
出典:中小企業省力化投資補助金・ものづくり補助金・IT導入補助金・事業再構築補助金
補助金は原則として重複申請できないため、ツールの導入にどの制度を使うか、あらかじめ選択する必要があります。選択の判断材料にできるよう、ITツールを導入できる他の補助金との違いを解説します。
ものづくり補助金との違い
「ものづくり補助金」は、中小企業や小規模事業者の革新的サービス開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する制度です。
ものづくり補助金の「省力化(オーダーメイド)枠」は、補助上限額が8,000万円と高額であるのに対し、省力化省人化補助金は補助上限額が1,000万円と、規模が大きく異なります。
補助対象ツールについても、ものづくり補助金が自社向けに開発したツールであるのに対し、省力化省人化補助金では、汎用的なアイテムである点が異なります。
両者の違いは「事業拡大・イノベーション創出」「設備投資による人手不足の解消」という目的の違いによるものです。
参照:ものづくり補助金
IT導入補助金との違い
「IT導入補助金」は、中小企業や小規模事業者の労働生産性向上のために、業務効率化やDX推進、サイバーセキュリティ対策などのITツール導入を支援する制度です。
省力化省人化補助金との違いは、補助対象ツールにあります。IT導入補助金では、自社の課題解決やニーズに特化したITツールが補助対象です。一方の省力化省人化補助金では、産業用ロボットや自動清掃ロボットなど、開発をともなわない汎用的な省力化ツールが対象となる点が異なります。
また、IT導入補助金の申請時には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「SECURITY ACTION」および「みらデジ」の経営チェックが必要です。一方の省力化省人化補助金は、より簡易な手続きで申請できます。
両者の違いは、「即効性のある人手不足解消」「企業課題を解決するDX」という目的の違いによるものといえます。
参照:IT導入補助金
事業再構築補助金との違い
「事業再構築補助金」は、企業がポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために取り組む「思い切った事業再構築」を支援する制度です。補助対象となる事業は、新市場進出、事業・業種転換、事業再編、国内回帰などに限られます。
設備投資に活用できる点は省力化省人化補助金と共通していますが、補助対象が異なります。事業再構築補助金では、補助事業に使う機械装置・システム構築費のほか、建物費や知的財産権の関連費用、広告宣伝費なども補助対象です。一方の省力化省人化補助金では、カタログに登録されたツールのみが補助対象である点が異なります。
省力化省人化補助金は、事業転換や規模拡大よりも人手不足の解消に焦点を当て、省力化に効果のあるツールの「簡易・迅速な導入」が目的です。既存事業で「従前と同等またはそれ以上の付加価値を産出」できるようサポートする点が、新規事業によるグロースを図る事業再構築補助金と異なります。
なお、事業再構築補助金を実施してきた「中小企業等事業再構築促進基金」は「中小企業省力化投資補助事業」に再編されています。事業再構築補助金が今後も同じ形態で実施されるかどうかは、2024年4月現在未定です。
参照:事業再構築補助金
【まとめ】省力化省人化補助金について解説しました
今回初めて導入される省力化省人化補助金では、既存の省力化ツールから選択して迅速に導入が可能です。自社のみで手続きするのではなく、販売事業者と共同で申請を行う点も、同補助金の特徴です。
省力化省人化補助金は簡略的な申請手続きで、素早くツールを導入できる一方で、他の補助金のように自社に特化した開発は行わない点に注意しましょう。各補助金の特性を理解し、自社の現状に適した制度をご活用ください。