事業承継・引継ぎ補助金の採択率は高い|審査基準や不採択理由も紹介

採択率

事業承継をきっかけに新しい取り組みを行うために、事業承継・引継ぎ補助金を活用したい方もいるのではないでしょうか。本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の採択率や審査基準などを紹介します。補助金を申請する際にお役立てください。

目次
  1. 1. 事業承継・引継ぎ補助金とは
  2. 2. 事業承継・引継ぎ補助金の採択率
  3. 3. 事業承継・引継ぎ補助金の審査基準
  4. 4. 事業承継・引継ぎ補助金が不採択になる理由
  5. 5. 事業承継・引継ぎ補助金の採択例
    1. 5-1. 経営革新事業(創業支援類型)
    2. 5-2. 経営革新事業(経営者交代類型)
    3. 5-3. 経営革新事業(M&A類型)
  6. 6. 事業承継・引継ぎ補助金の採択率を高めるポイント
    1. 6-1. 書類の不備をなくす
    2. 6-2. 採択事例を参考にする
    3. 6-3. 第三者が見てもわかりやすい事業計画を作る
    4. 6-4. 加点項目を意識する
    5. 6-5. 専門家に相談する
  7. 7. 事業承継・引継ぎ補助金を利用するメリット・デメリット
    1. 7-1. メリット
    2. 7-2. デメリット
  8. 8. 事業承継・引継ぎ補助金を申請する流れ
  9. 9. 事業承継・引継ぎ補助金のスケジュール
  10. 10. 【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の採択率を紹介しました

事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継をきっかけに新しい取り組みを行う中小企業や事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業などを支援する制度です。

以下の3つの事業から成り立っています。

事業

支援類型

概要

経営革新事業

創業支援類型

他の事業者の経営資源(設備・従業員・顧客等)を引き継いで、

創業した事業者を支援

経営者交代類型

親族や従業員が経営資源を引き継ぐ(経営者が交代する)事業者を支援

M&A類型

株式譲渡・事業譲渡等(M&A)により、経営資源を引き継ぐ事業者を支援

専門家活用事業

買い手支援類型

他社から株式・経営資源を譲り受ける予定の事業者を支援

売り手支援類型

他者に株式・経営資源を譲り渡す予定の事業者を支援

廃業・再チャレンジ事業

併用申請型

経営革新事業または専門家活用事業との併用が可能

再チャレンジ申請型

M&Aによって事業を譲り渡せなかった中小企業者などの株主・個人事業主が、

地域の新たな需要創造または雇用の創出にも資する

新たなチャレンジをするために既存事業を廃業する事業者を支援

また、事業承継・引継ぎ補助金の各事業別の補助金額や補助率などは以下のとおりです。

経営革新事業

補助金額

100万円〜600万円

(補助事業期間で一定の賃上げを実施した場合は800万円)

補助率

補助対象経費の2/3以内

※公募要領の「5.補助対象者」に定める【補助率に関する補助対象者の要件】(12)に

該当する場合は補助率2/3以内、該当しない場合は補助率1/2以内

対象経費

【事業費】

店舗等借入費、設備費、原材料費、産業財産権等関連経費、

謝金、旅費、マーケティング調査費、広報費、会場借料費、外注費、委託費

 

【廃業費】

廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用

専門家活用事業

補助金額

 50万円〜600万円

補助率

買い手支援類型:補助対象経費の2/3以内

売り手支援類型:補助対象経費の1/2以内または2/3以内

 

※売り手支援類型の補助率について以下のいずれかに該当する場合は、補助率が2/3以内

・物価高騰の影響により、営業利益率が低下している者

・直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の者 

対象経費

謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料、廃業費、

廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、移転・移設費用

廃業・再チャレンジ事業

補助金額

補助対象経費の2/3以内

補助率

50万円〜150万円以内

対象経費

  • 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費
  • リースの解約費、移転・移設費用(併用申請のみ計上可)

事業承継・引継ぎ補助金の採択率

事業承継・引継ぎ補助金の採択率は以下のとおりです。

公募回

経営革新事業

専門家活用事業

廃業・再チャレンジ事業

1次公募

申請者数:209件

採択者数:105件

採択率:50.2%

申請者数:790件

採択者数:407件

採択率:51.5%

申請者数:34件(併用申請)

採択者数:19件

採択率:55.8%

2次公募

申請者数:188件

採択者数:105件

採択率:55.8%

申請者数:422件

採択者数:234件

採択率:55.4%

申請者数:21件(併用申請)

採択者数:9件

採択率:42.8%

3次公募

申請者数:189件

採択者数:107件

採択率:56.6%

申請者数:408件

採択者数:234件

採択率:57.3%

申請者数:2件(単独申請)、27件(併用申請)

採択者数:13件

採択率:44.8%

4次公募

申請者数:264件

採択者数:146件

採択率:55.3%

申請者数:518件

採択者数:290件

採択率:55.9%

申請者数:1件(単独申請)、27件(併用申請)

採択者数:10件

採択率:35.7%

5次公募

申請者数:309件

採択者数:186件

採択率:60.2%

申請者数:453件

採択者数:275件

採択率:60.7%

申請者数:37件(併用申請)

採択者数:17件

採択率:45.9%

6次公募

申請者数:357件

採択者数:218件

採択率:61.1%

申請者数:468件

採択者数:282件

採択率:60.3%

申請者数:1件(単独申請)、36件(併用申請)

採択者数:23件

採択率:62.2%

7次公募

申請者数:313件

採択者数:190件

採択率:60.7

申請者数:498件

採択者数:299件

採択率:60%

申請者数:2件(単独申請)26件(併用申請)

採択者数:10件

採択率:35.7%

8次公募

申請者数:334件

採択者数:201件

採択率:60.2%

申請者数:374件

採択者数:229件

採択率:61.2%

申請者数:1件(単独申請)21件(併用申請)

採択者数:12件

採択率:54.5%

経営革新事業と専門家活用事業は、申請者が多く採択率も50%以上と高くなっています。
特に5次公募以降は採択率が60%以上と非常に高いのが特徴です。一方で廃業・再チャレンジ事業は申請者数が少なく、かつ採択率もそれほど高くありません。

事業承継・引継ぎ補助金の審査基準

事業承継・引継ぎ補助金は、補助対象者・対象事業・補助上限額・補助率などの資格を満たす必要があります。さらに経営革新、専門家活用、廃業・再チャレンジそれぞれの審査基準は以下のとおりです。

経営革新事業

審査項目 詳細

独創性

技術やノウハウ、アイディアに基づき、ターゲットとする顧客や市場にとって新たな価値を生み出す商品、

サービス、又はそれらの提供方法を有する事業を自ら編み出していること

実現可能性

商品・サービスのコンセプト及びその具体化までの手法やプロセスがより明確となっていること。

事業実施に必要な人員の確保に目途が立っていること。販売先等の事業パートナーが明確になっていること

収益性

ターゲットとする顧客や市場が明確で、商品、サービス、又はそれらの提供方法に対するニーズを的確に捉えており、

事業全体の収益性の見通しについて、より妥当性と信頼性があること

継続性

事業実施内容と実施スケジュールが明確になっていること。

また、売上・利益計画に妥当性・信頼性があること

専門家活用事業

類型 審査項目

買い手支援類型

・経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるものであること

・財務内容が健全であること

・買収の目的と必要性

・買収による効果た地域経済への影響

・買収実現による成長の見込み(自社の事業環境や外部環境を踏まえること)

売り手支援類型

・経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるものであること

・譲渡の目的と必要性

・譲渡による効果や地域経済への影響

廃業・再チャレンジ事業

審査項目

詳細

再チャレンジに係る取組を実現するために

事業を廃業する必要性

再チャレンジに係る取組を実現するために、

既存事業の廃業(設備撤去、解体等)に必要な理由が明確になっていること

廃業に向けた準備

廃業に伴う自社の従業員の再就職方針や既存取引先への支払い方針、

取引先の引継ぎについて、明確にしていること

再チャレンジに係る取組の実現性

これまでの技術やノウハウ、アイディア、経験等を踏まえて、

実現可能な事業であること

出典
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 【公募要領】
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用枠 【公募要領】
中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 廃業・再チャレンジ枠 【公募要領】

事業承継・引継ぎ補助金の申請をする際は、上記の審査基準を意識した上で行いましょう。

事業承継・引継ぎ補助金が不採択になる理由

事業承継・引継ぎ補助金は、申請したからといって必ずしも採択されるとは限りません。

例えば不採択になる場合は、以下のような理由が挙げられます。

  • 要件を満たしていない
  • 対象事業者ではない
  • 書類に不備がある

事業承継・引継ぎ補助金は、各回で公募要領が公開されており、その要件を満たす必要があります。要件に満たない場合は、不採択になってしまうので注意しましょう。さらに、申請書類に不備があった場合も、不採択になってしまいます。

事業承継・引継ぎ補助金の採択例

事業承継・引継ぎ補助金は採択事業者が公開されており、それらを参考にすることで自社の申請準備のイメージが掴みやすくなります。なお専門家活用、廃業・再チャレンジの採択者は非公表なので、今回は経営革新事業の採択例を見ていきましょう。

経営革新事業(創業支援類型)

経営革新事業の創業支援類型では、以下のような取り組みが採用されています。他の事業者の事業を承継して、創業した場合に利用されています。

株式会社 NO-ismの事例

愛知県豊川市に拠点を置く株式会社 NO-ismは、同地域で数少ない理容店として地域に密着したサービス「訪問理容室」を引き継ぎました。そして、既存事業である美容室で培ったヘッドスパを応用し、製薬会社と連携した処方箋に基づき個々の顧客に適した施術を提供しています。

株式会社Sheaの事例

神奈川県に拠点を置く株式会社Sheaは、地域で31年間愛される社交ダンス教室を承継しました。承継後はレッスンだけでなく学習支援やコワーキングスペースも行い、多様な世代が楽しめる教室運営と、特に子供層の文武両道を支援し、社交ダンス人口の増加を目指しています。

経営革新事業(経営者交代類型)

経営者交代類型の採択例は以下のとおりです。経営者が交代する際に利用できる制度で、事業の立ち上げや設備投資などをする際に利用されています。

有限会社アレックの事例

秋田県に拠点を置く有限会社アレックは、事業承継・引継ぎ補助金を活用し、従来の卸売業から小売業に業種転換を図っています。業種転換後の小売業では、メガネレンズの販売に特化させること、さらに仕入在庫を持たないビジネスモデルで高収益を目指しています。

森永米穀有限会社の事例

山口県に拠点を置く森永米穀有限会社は、事業承継・引継ぎ補助金を活用して先端設備を導入し、製造工程の改善を図ろうとしています。

さらに、小分けパック商品化の実現、一般的に低品質とされるブレンド米の高品質化を図り、「森永米穀特選ブレンド米」として展開し、販路拡大と売上伸長を目指しています

経営革新事業(M&A類型)

M&A類型の採択例には、以下のようなものがあります。M&Aをきっかけに新たな事業に取り組む事業者が支援されています。

株式会社アラキ総産の事例

千葉県に拠点を置く株式会社アラキ総産はM&AをきっかけにECサイトを作成し、水処理機器の全国販売を展開しています。

また、新たに小型の水処理機器の新商品を開発する事で市場拡大を実現。機械器具設置・点検事業との相乗効果を図りながら、販路開拓及び顧客満足度向上と業務効率化に取り組んでいます。

株式会社陶葊の事例

京都府に拠点を置く株式会社陶葊は、京都発のモダンで上質なテーブルウェアブランドを買収。これまで伝統工芸品の販売が主流だったところから、現代的な製品の販売も進めています。

さらにM&Aによって引き継いだブランドで取り扱っている漆・ガラスなど新素材や新たな伝統技法を活用して新商品を開発し、新たな事業の柱にしています。

事業承継・引継ぎ補助金の採択率を高めるポイント

事業承継・引継ぎ補助金の採択率は高い|審査基準や不採択理由も紹介_1

続いて、事業承継・引継ぎ補助金の採択率を高めるポイントを紹介します。

書類の不備をなくす

事業承継・引継ぎ補助金は、書類に不備があると採択されません。公募要領に申請に必要な書類が記載されているので、確認した上で書類を漏れなく用意しましょう。申請間近になると、焦ってしまう可能性があるので、できる限り期間に余裕を持って準備してみてください。

採択事例を参考にする

事業承継・引継ぎ補助金は、事務局のホームページで採択者が公開されています。採択事例を参考にして、自社の申請に取り入れることで採択されやすくなるでしょう。自社の事業に近い事業を見つけてみてください。

第三者が見てもわかりやすい事業計画を作る

補助金の審査は、事務局および審査委員会で行われます。自社について詳しくない人が申請内容を評価するため、第三者目線でわかりやすい事業計画を書かないと伝えたいことが伝わりません。そのため、専門用語には説明を記載したり、文章ではわかりづらい部分に箇条書き・写真・表などを使用したりしましょう。

加点項目を意識する

事業承継・引継ぎ補助金は、加点項目も設けられています。加点項目を意識して申請することで、事務局から評価されやすくなるため採択されやすくなるでしょう。公募要領を確認して、自社で申請できそうな加点項目を見つけてみてください。

専門家に相談する

事業承継・引継ぎ補助金を申請する際に、補助金の専門家に相談することも方法の1つです。自社のみで申請するよりも、専門家の意見を聞きながら申請すると正確な申請ができるため、採択率が上がる可能性があります。自社のみでの申請が難しいなら、補助金の専門家を活用してみてください。

事業承継・引継ぎ補助金を利用するメリット・デメリット

続いて、事業承継・引継ぎ補助金を利用するメリット・デメリットを紹介していきます。

メリット

事業承継・引継ぎ補助金のメリットは、本補助金に限りませんが、​​原則返済が不要であることです。事業承継や引き継ぎには、多額の資金が必要になります。それらの一部の経費を返済不要で支援してもらえれば、自社で用意する資金の負担の軽減が可能です。

デメリット

事業承継・引継ぎ補助金のデメリットは、「審査が必要で採択されない可能性もある」「申請に手間や時間がかかる」の2点です。補助金なので、審査に通った事業者しか支援を受けられません。公募要領を確認した上で、不足がないように申請しましょう。

また、補助金の申請には手間や時間がかかります。1日や2日で申請の準備ができるわけではないので、時間に余裕を持って準備を進めてみてください。

事業承継・引継ぎ補助金を申請する流れ

事業承継・引継ぎ補助金を申請する際の流れは以下のとおりです。

  1. 必要な書類を用意する
  2. 申請手続きをする
  3. 補助事業を実施する
  4. 実績報告をする
  5. 補助金を請求する

特に注意すべき点は、電子申請システム「jGrants」を利用することです。jGrantsとは、応募から採択後の手続きまで完結するデジタル庁が運営する補助金の電子申請システムになります。

jGrantsを利用するには「gBizID プライム」のアカウント(IDやパスワードなど)が必要です。アカウント登録には時間がかかるので、早めに手続きを進めてみてください。

また、補助金が確定するまでに実績報告をする必要もあります。報告を忘れてしまうと、補助金を受け取れないので注意しましょう。

事業承継・引継ぎ補助金のスケジュール

2024年4月時点で公募されている事業承継・引継ぎ補助金は9次公募です。9次公募のスケジュールは以下になります。

申請受付期間

2024年4月1日(月)~2024年4月30日(火)17:00まで

交付決定日

6月上旬(予定)

事業実施期間

交付決定日~2024年11月22日(金)

実績報告期間

~2024年12月2日(月)

補助金交付手続き

2024年12月中旬以降(予定)

出典:事業承継・引継ぎ補助金 公式サイト

スケジュールは随時更新されているので、定期的に確認してみましょう。

【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の採択率を紹介しました

ここまで事業承継・引継ぎ補助金の採択率を紹介しました。経営革新事業と専門家活用事業の採択率は50%以上、廃業・再チャレンジ事業は35%以上となっています。採択率は高い傾向にあるので、十分な準備をした上で申請しましょう。事業承継・引継ぎ補助金の申請を検討する際は、本記事を参考にしてみてください。