業務改善助成金|中小企業の賃上げを支援する制度の拡充や制度概要を解説!
業務改善助成金は、中小企業の賃上げや生産性向上に有効な制度だと聞くが、本当なのか?知りたい方に向け、中小企業の支援を目的とした業務改善助成金の制度概要や、賃上げ・生産性向上支援を強化する制度拡充の内容を解説していきます。
業務改善助成金とは
業務改善助成金とは、設備投資による生産性向上を、賃金引き上げにつなげたい中小企業・小規模事業者を支援する助成金制度のこと。事業場内最低賃金を30円以上引き上げる計画、設備投資計画を立てて申請。承認 / 事業完了後に、賃上げ額、賃上げした労働者数に応じて設備投資費用の一部が支給されます。
業務改善助成金の詳細については以下の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:業務改善助成金とは|令和5年度の対象者・助成額・申請の流れを紹介
中小企業・小規模事業者とは
そもそも、中小企業・小規模事業者とは、どのような会社・事業者なのか?制度や法律によって異なりますが、中小企業基本法では、以下の条件に当てはまる会社・事業者(個人含む)を中小企業・小規模事業者と定義しています。
業種 |
A:資本金 または出資額 |
B:常時使用する 労働者数 |
|
小売業 |
小売業、飲食業など |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
物品賃貸業、宿泊業、 医療・福祉、複合サービス業など |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他業種 |
農業、林業、漁業、建設業、 製造業、運輸業、金融業など |
3億円以下 |
300人以下 |
参考:中小企業庁
業務改善助成金でも、要綱に記載される対象となる中小企業・小規模事業者を、中小企業基本法に準じたものとして定義しています。
中小企業の賃上げを支援する業務改善助成金の拡充
業務改善助成金は、冒頭でも触れたように中小企業の最低賃金引き上げを促すための助成金制度。しかし、資源価格高騰や円安で価格転嫁が進むなか、特に中小企業の賃上げに懸念が生じています。そのため、2023年8月には業務改善助成金の制度拡充を決定。中小企業の最低賃金引き上げをより強化する変更が加えられました。
業務改善助成金の対象を拡大
中小企業の賃上げを幅広く支援するため、業務改善助成金の要件「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額」が、30円以内から50円以内へと拡充されました。事業場内最低賃金とは、オフィスや工場など、事業場内でもっとも低い賃金のこと。地域別最低賃金とは、国が例年10月頃に改定する都道府県ごとの最低賃金のことです。
従来は、地域別最低賃金が900円であれば、事業場内最低賃金が931円以上の事業場は業務改善助成金を申請できませんでした。しかし、差額50円以内への拡充措置により、対象外だった最低賃金931円〜950円の事業場も申請可能に。多くの中小企業が業務改善助成金を利用できる環境へと整備されました。
令和5年度(2023年度)の地域別最低賃金については、厚生労働省のホームページで確認できます。
高助成率が適用される範囲を拡大
より多くの中小企業が、より多くの助成金を受給できるよう、助成率区分の金額が見直されました。助成率とは、設備投資費用に対する、助成金の支給割合のこと。たとえば、助成率が9/10であれば、100万円の設備投資費用に対して支給される助成金は90万円です。
従来は、高助成率である「9/10」が適用される事業場内最低賃金(賃金を引き上げる前の最低賃金)は870円未満に設定されていましたが、拡充措置によって900円未満へ変更。各助成率区分の金額も一律30円引き上げられたため、より多くの助成金を受給できる環境が整備されました。新たな助成率は以下の通りです。
事業場内最低賃金 |
助成率 |
生産性要件を満たした事業者の助成率 |
900円未満 |
9/10 |
|
900円以上950円未満 |
4/5 |
9/10 |
950円以上 |
3/4 |
4/5 |
参考:厚生労働省
業務改善助成金の申請期限を延長
令和6年(2024年)1月31日までであった業務改善助成金の申請期限が、3月31日まで延長されました。これにともなって、2月1日以降に申請した方の事業完了期限も4月1日〜2025年2月28日までに延長されます。申請期限の延長により、より多くの中小企業が業務改善助成金を利用できるチャンスが拡大したのです。
ただし、賃上げ後の事後申請を認めた特例措置対象の事業者(事業場規模50人未満の事業者)については、1月31日で申請が締め切られています。
画像出典:厚生労働省
業務改善助成金の対象事業者
より多くの中小企業が利用しやすくなった拡充措置を把握できたところで、そもそも業務改善助成金とはどのような制度なのか?全体の概要を簡単に解説していきましょう。まずは、対象となる事業者です。業務改善助成金を申請 / 受給できるのは、以下の要件を満たす事業者です。
- 要綱に定められた中小企業・小規模事業者
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない
一般的な助成金・補助金は、複数回申請 / 受給はできませんが、業務改善助成金は例外。過去に業務改善助成金を受給したことのある事業者でも、要件を満たせば再申請可能です。
優遇措置を受けられる特例事業者
業務改善助成金の対象事業者のうち、以下3つの要件のいずれかを満たすと、優遇措置の受けられる特例事業者に認定されます。
要件 |
概要 |
賃金要件 |
事業場内最低賃金が950円未満の事業者 |
生産量要件 |
新型コロナウイルスの影響で、直近3か月の売上高 / 生産量などの月平均が前年、 または前々年、または3年前同期から15%以上減少している事業者 |
物価高騰等要件 |
物価高の影響で、申請前3か月の任意の1か月の利益率が、 前年同期から3%ポイント以上低下している事業者 |
業務改善助成金の要件については以下の記事もあわせてご覧ください。
助成対象経費
助成対象経費とは、賃上げを目的とした生産性向上に寄与する設備投資等にかかる費用のこと。業務改善助成金で認められている助成対象経費は、原則として以下に準ずる設備投資等です。
- POSレジシステム / リフト付き特殊車両などの機械設備導入
- 業務フロー見直しなどの経営コンサルティング
- 人材育成・教育訓練
助成対象経費の拡大措置
ただし、「生産量要件」「物価高騰等要件」のいずれかを満たす特例事業者に関しては、助成対象経費の拡大措置を受けられます。具体的には、上述した設備投資等が拡大されるほか、関連する経費も助成対象経費として認められます。
助成対象経費の拡大 |
経費の例 |
生産性向上に寄与する設備投資等 |
・定員7名以上または 車両本体価格200万円以下の乗用自動車 / 貨物自動車 ・PC / モバイル機器などの端末と周辺機器の新規購入 |
関連する経費 |
広告宣伝費、汎用事務機器、 事務室の拡大、机・椅子の増設など |
業務改善助成金の上限額と支給額計算方法
業務改善助成金の上限額は、選択する賃上げコース、賃上げする労働者数、事業場の規模によって決められており、特例事業者(※)の場合は上限額の優遇措置も得られます。
コース区分 |
事業場内最低賃金の 引き上げ額 |
賃金を引き上げる 労働者数 |
助成金上限額 |
|
事業場規模 30人以上 |
事業場規模 30人未満 |
|||
30円コース |
30円以上 (※は特例事業者のみ) |
1人 |
30万円 |
60万円 |
2〜3人 |
50万円 |
90万円 |
||
4〜6人 |
70万円 |
100万円 |
||
7人以上 |
100万円 |
120万円 |
||
10人以上 ※ |
120万円 |
130万円 |
||
45円コース |
45円以上 (※は特例事業者のみ) |
1人 |
45万円 |
80万円 |
2〜3人 |
70万円 |
110万円 |
||
4〜6人 |
100万円 |
140万円 |
||
7人以上 |
150万円 |
160万円 |
||
10人以上 ※ |
180万円 |
180万円 |
||
60円コース |
60円以上 (※は特例事業者のみ) |
1人 |
60万円 |
110万円 |
2〜3人 |
90万円 |
160万円 |
||
4〜6人 |
150万円 |
190万円 |
||
7人以上 |
230万円 |
230万円 |
||
10人以上 ※ |
300万円 |
300万円 |
||
90円コース |
90円以上 (※は特例事業者のみ) |
1人 |
90万円 |
170万円 |
2〜3人 |
150万円 |
240万円 |
||
4〜6人 |
270万円 |
290万円 |
||
7人以上 |
450万円 |
450万円 |
||
10人以上 ※ |
600万円 |
600万円 |
参考:厚生労働省
業務改善助成金の支給額は、助成対象経費に助成率を乗じた金額、もしくは助成上限額のいずれか低い金額です。
参考:厚生労働省
業務改善助成金の支給金額については以下の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:業務改善助成金はいくらもらえる?助成金の上限額・助成率・計算方法を解説!
業務改善助成金の申請方法 / 手続きの流れ
業務改善助成金の手続きは、申請、その後の交付決定通知を受けて事業を開始、完了報告後に助成金支給を待つという流れです。
- 必要書類を所轄の労働局に提出
- 承認された場合は交付決定通知送付(否決の場合は不交付決定通知)
- 計画にしたがって事業開始
- 事業完了後に労働局へ書類を提出して報告
- 交付額確定後に指定口座へ助成金が振り込まれる
事業完了とは「労働者の賃上げ」「設備の導入」「経費の支払い」が完了している状態のこと。買掛金の支払いが完了していない、クレジットカードの引き落としが済んでいない場合は事業完了とみなされません。
参考:厚生労働省
【まとめ】中小企業の賃上げを支援する業務改善助成金を紹介しました
業務改善助成金は、中小企業の賃上げや生産性向上に有効な制度だと聞くが、本当なのか?知りたい方に向け、中小企業の支援を目的とした業務改善助成金の制度概要や、賃上げ・生産性向上支援を強化する制度拡充の内容を解説しました。
中小企業の支援強化を目的に、制度拡充、期限延長となった業務改善助成金ですが、締め切りまでに十分な余裕があるわけではありません。業務改善助成金の申請を検討している中小企業の方は、素早い行動が必須です。