事業承継・引継ぎ補助金の活用事例を類型別に解説!
事業承継・引継ぎ補助金の利用を考えているものの、どのようなケースで使えるのかいまいちイメージができないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の活用事例から事業承継に至った背景や対象となった取り組み、対象経費、承継した結果などを紹介しますので、参考にしてください。
事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金は、事業譲渡や株式譲渡などによる事業の承継をきっかけとして新しい取り組みを行う中小企業者・個人事業主を支援する補助金です。以下で、同補助金の補助事業の目的や対象となる事業者の詳細を解説します。
事業承継・引継ぎ補助金の目的
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業者や個人事業主が事業承継や再編・統合をきっかけにして新たな取り組みを行う際に利用できる補助金です。新たな取り組みにかかる経費を補助することで事業承継や再編・統合を促進して、国内の経済を活性化させる目的で実施されています。
対象となる事業者
事業承継・引継ぎ補助金の対象になるには、「事業承継の要件」を満たす中小企業者・個人事業主・特定非営利活動法人である必要があります。
「事業承継の要件」では、事業の承継は補助事業の完了期限日から過去5年の間に事業の引継ぎを行うことが定められています。第9次公募では、 2019年11月23日~2024年11月22日の間が対象です。ただし将来的に承継する場合でも一定の要件を満たせば経営者交代類型に限り「未来の承継」として補助金を利用できます。
上記の「事業承継の要件」を満たした上で、以下の要件をすべて満たせば、事業承継・引継ぎ補助金の対象事業者になります。
・日本に拠点・居住地を置き、日本で事業を行う
・地域経済に貢献している(創業支援類型の場合は貢献する予定の)中小企業者・個人事業主(地域の雇用の維持や創出、地域の強みを活用して地域を支えるなどの貢献をすること)
・補助対象者や法人の役員が反社会的勢力でなく、関係も持っていない
・法令遵守上の問題を抱えていない
・補助金の事務局からの質問や追加資料の依頼へ適切に対応する
・補助金の事務局が必要と判断した際に、事務局が補助金の交付申請ほか各種事務局による
承認・結果通知にかかわる事項につき修正を加えて通知することに同意する・補助金が返還になった際に、かかった費用を事務局が負担しないことに同意する
・経済産業省や独立行政法人中小企業基盤整備機構から
補助金指定停止措置・指名停止措置になっていない・補助金申請時・利用時・事業報告提出時などに提出したデータを
効果的な政策立案や経営支援のために行政機関や独立行政法人などに
提供することに同意する・交付申請から過去18ヵ月の間に、中小企業庁が所管する補助金に申請した内容について、
賃上げ加点の要件が未達成の場合、大幅に減点されることを理解する・事務局が求める補助対象事業に関する調査やアンケートなどに協力する
事業承継・引継ぎ補助金の枠や類型
事業承継・引継ぎ補助金は、「経営革新枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」の3枠があります。さらに経営革新枠は3類型、専門家活用枠は2類型に分けられています。以下で、枠や類型について解説しますので参考にしてください。
経営革新枠
経営革新枠は、事業再編や事業統合によって事業を承継する中小企業・個人事業主が新たな取り組みや廃業をする際にかかる費用を補助する枠です。事業の引継ぎ方によって、創業支援類型・経営者交代類型・M&A類型に分類されています。各類型の主な要件は以下の通りです。
類型 |
要件 |
創業支援類型 |
・事業承継の対象期間内に法人の設立・個人事業の開業をして、 廃業を予定している者から経営資源を引き継ぐこと |
経営者交代類型 |
・個人事業主の場合は事業の譲渡、 法人の場合は原則として同一法人内で代表者を交代すること(株式の移転は不要) |
M&A 類型 (Ⅲ型) |
・吸収合併や事業譲渡などにより承継した場合 (親族内承継と事務局に判断された場合は対象外) ・株式譲渡による承継の場合は、承継者の議決権が過半数になること |
事業実施の流れ
経営革新枠の補助事業の流れは以下の通りです。
- 認定支援機関(認定経営革新等支援機関)と経営相談する
- 認定支援機関から確認書を発行してもらう
- 事業承継・引継ぎ補助金の事務局へ交付申請をする
- 事務局から交付決定通知を受け取る
- 事業を実施し、事務局へ状況報告する
- 事務局へ実績を報告する
- 事務局から確定通知を受け取る
- 事務局へ補助金申請をする
- 事務局から補助金が交付される
- 事務局へ事業化状況報告をする
補助事業の遂行にあたって、最初の経営相談や確認書の発行の後も、認定支援機関のサポートを受けながら事業を行うことが推奨されています。
専門家活用枠
専門家活用枠は、地域の需要や雇用の維持・創出を図るために事業を再編・統合をする場合に利用できる枠です。買い手支援類型と売り手支援類型の2つの類型に分けられています。主な要件は以下の通りです。
類型 |
要件 |
買い手支援類型(Ⅰ型) |
事業の再編や統合により株式や経営資源を譲り受ける予定の 中小企業・個人事業主を支援する類型 |
売り手支援類型(Ⅱ型) |
事業の再編や統合により株式や経営資源を譲り渡す予定の 中小企業・個人事業主を支援する類型 |
事業実施の流れ
専門家活用枠の補助事業の流れは以下の通りです。
- 事業承継・引継ぎ補助金の事務局へ交付申請する
- 事務局から交付決定通知を受け取る
- 事業を実施し、事務局へ状況を報告する
- 事務局へ実績を報告する
- 事務局から確定通知を受け取る
- 事務局へ補助金申請をする
- 事務局から補助金の交付を受ける
- 事務局へ事業化状況報告をする
廃業・再チャレンジ枠
廃業・再チャレンジ枠は、事業承継やM&Aによる事業譲渡によって事業の一部や既存事業を廃業する際に利用できる枠です。具体的には以下のような状況が該当します。
- 事業承継またはM&Aで事業を譲り受けた後の廃業(経営革新枠との併用)
- M&Aで事業を譲り受けた際の廃業(専門家活用枠との併用)
- M&Aで事業を譲り渡した際の廃業(専門家活用枠との併用)
- M&Aで事業を譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ
(M&Aによって事業を譲り渡せなかった中小企業者・個人事業主が地域の新たな需要や雇用を創出するためのチャレンジにともなって既存事業を廃業する場合)
事業実施の流れ
廃業・再チャレンジ枠の補助事業の流れは以下の通りです。
- 認定支援機関(認定経営革新等支援機関)と経営相談をする
- 認定支援機関から確認書を発行してもらう
- 事業承継・引継ぎ補助金の事務局に交付申請をする
- 事務局から交付決定通知を受け取る
- 事業を実施し、事務局へ状況報告をする
- 事務局へ実績報告をする
- 事務局から確定通知を受け取る
- 事務局へ補助金申請をする
- 事務局から補助金の交付を受ける
補助事業の遂行にあたって、最初の経営相談や確認書の発行の後も、認定支援機関のサポートを受けながら事業を行うことが推奨されています。
事業承継・引継ぎ補助金の事例【経営革新枠】
事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠での活用事例を、創業支援類型・経営者交代類型・M&A類型からそれぞれ2例ずつ紹介します。
創業支援類型の事例
鯛寿司【岩手県・飲食業】
鯛寿司の事例は、岩手県の飲食業(従業員数0名)の事業者が親子で事業を承継したケースです。
承継者は首都圏の創作和食店で7年修行をした後、寿司店を継ぐために帰郷しました。その後、田野畑村商工会青年部部員と連携してさまざまな取り組みを行うにつれ、地域活性化をしたいという思いが芽生え事業承継を決意します。
鯛寿司の顧客層は、高齢者と仕出し弁当の注文が中心だったため、ファミリー層にマッチしていませんでした。そこで、東京で学んだ創作和食を提供しつつ、村民の記念日を祝う店舗とする新たな取り組みでファミリー層の獲得を目指しました。詳細は以下の通りです。
取り組みの概要 |
・冠婚葬祭需要や日常的な祝いごとを印象的にするために独自サービスを提供。 ・ファミリー層向けの小規模宴会需要の開拓と独自顧客管理手法の導入を目指す |
経費の種類 |
・設備費(店舗の改装費用) |
実施した取り組み |
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取り組みの効果 |
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株式会社雅紙管【京都府・製造業】
株式会社雅紙管の事例は、京都部の製造業(従業員数18名)で責任者として働いていた従業員が事業承継をしたケースです。
被承継者の株式会社ONO plusはフィルムスリット業、紙管製造業、パッケージ業の3つの事業を手掛けていました。2017年にフィルム業の受注が大幅に増加したため、事業をフィルム業に1本化。
紙管製造技術や既存の顧客の放棄をもったいないと考え、紙管業の責任者として働いていた従業員が事業を承継しました。詳細は以下の通りです。
取り組みの概要 |
・既存の取引先がコロナ禍で落ち込んだことから、 新たな顧客を得るために需要が高まっていた 温度センサー用の紙管や食品関連の紙管製造販売を行う |
経費の種類 |
・設備費(新規顧客の製品規格や要求品質に対応するため) |
実施した取り組み |
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取り組みの効果 |
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経営者交代類型の事例
竹内製菓株式会社【新潟県・食品製造業】
竹内製菓株式会社の事例は、新潟県の食品製造業(従業員数90名)の事業者が親子で事業を承継したケースです。同社は親族経営のため、以前より事業を引き継ぐ準備をしていました。10年前からの組織づくりで体制が整ったので、経営者を交代して事業承継を実施。詳細は以下の通りです。
取り組みの概要 |
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経費の種類 |
・設備費(冷蔵庫増築費用、冷蔵機増設費用) |
実施した取り組み |
・生産が間に合っていなかったため、 工場の冷蔵庫増築・冷蔵設備の入れ替えを実施。 ・キャパシティの問題を解消したため、 新商品の開発やOEM先の開拓などの新規販路開拓を進めた。 |
取り組みの効果 |
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株式会社中野ボールト工場【福岡県・製造業】
株式会社中野ボールト工場の事例は、福岡県の製造業(従業員数19名)の事業者が親子(長男)で事業を承継したケースです。
74歳になる4代目が10年以上代表取締役を務めていましたが、後継者が不在でした。20年以上九州を離れて異業種に従事していた長男が「ボルト事業を通じて納品先・製造業を支えたい」と思い、会社の100周年にあわせて福岡へ戻り事業を承継しました。
承継の準備のため2019年9月に入社し、2021年4月に5代目代表取締役に就任して事業を承継しています。詳細は以下の通りです。
取り組みの概要 |
・洋上風力発電用特殊ボルトにおける新市場開拓へ取り組む |
経費の種類 |
・設備費(株式会社静岡鉄工所製 NCフライス盤の導入費用) |
実施した取り組み |
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取り組みの効果 |
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M&A類型の事例
株式会社ソトハ【愛知県・理容業】
株式会社ソトハの事例は、愛知県の理容業(従業員数20名)で、親類や従業員でない者が事業譲渡により承継したケースです。
承継者は「トータルビューティーサロン」を目標にしていました。しかし、既存事業は髪の毛やまつ毛、ムダ毛に対するサービスのみで「スキンケア」と「ボディケア」に対するサービスを提供していませんでした。
そこで、事業を承継することで「スキンケア」と「ボディケア」のサービスの提供が可能になると考え、承継を決意しました。詳細は以下の通りです。
取り組みの概要 |
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経費の種類 |
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実施した取り組み |
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取り組みの効果 |
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吉野電化工業株式会社【埼玉県・製造業】
吉野電化工業株式会社の事例は、埼玉県の製造業(従業員数200名)で同業者が事業を承継したケースです。
マリン事業を起点に事業拡大が見込まれる高耐食表面処理の「メタスYC」塗布技術と設備を保有する被承継者と業務資本提携をしました。詳細は以下の通りです。
取り組みの概要 |
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経費の種類 |
・設備費(工場内の土間・内装工事、電気工事) |
実施した取り組み |
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取り組みの効果 |
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事業承継・引継ぎ補助金の事例【専門家活用枠】
事業承継引継ぎ補助金の専門家活用枠の活用事例を、買い手支援類型・売り手支援類型からそれぞれ2例ずつ紹介していきます。
買い手支援類型の事例
新潟県・食品製造業
新潟県の食品製造業(従業員数22名)の事例は、株式譲渡で和菓子・洋菓子の製造販売事業を承継したケースです。
被承継者は、長岡市に根付いた店舗展開で地域住民向けに和菓子や洋菓子を販売していた事業者です。従業員は周辺地域の住民で構成されていました。町の和菓子・洋菓子店として築いた地域への貢献度と親しみやすさを継続したい、譲渡後も地域に根付いた店として地域に貢献したいとの思いがありました。
事業承継・引継ぎ補助金は、仲介とのアドバイザリー契約に支払う成功報酬の委託費として利用。経営資源の引継ぎによって雇用を継続しつつ営業を継続し、老舗としての伝統と地域住民との信頼関係の継続も実現しました。
高知県・調剤薬局運営業
高知県の調剤薬局運営業(従業員数45名)の事例は、事業譲渡で調剤薬局の運営を承継したケースです。
被承継者は、従業員の大半を近隣住民から採用し、地域に根ざした薬局として地域に貢献していた事業者です。2016年に開始された『かかりつけ薬剤師』の制度によってこれまで以上に顧客の相談に応じることが求められる中で、薬剤師としてできる範囲でサポートを提供していました。
事業承継・引継ぎ補助金は、事業譲渡の委託費(仲介とのアドバイザリー契約に支払う成功報酬)として利用。日本全国に調剤薬局とノウハウを持ち、地域医療活動にも積極的に活動している事業者に事業を譲渡しました。地域密着型薬局として『かかりつけ薬剤師』の重要性を掲げている事業者に譲渡したため、地域に根付いた薬剤師として地域住民の健康管理への貢献が期待されています。
買い手支援類型の事例
大阪府・卸売業
大阪府の卸売業(従業員数87名)の事例は、株式譲渡で土木・建築用シーリング材、防水材及び関連副資材、工具類の卸売り事業を承継したケースです。
承継者は、自社とそのグループ会社と協業をすることで、対象会社の雇用の維持・拡大を実現し地域貢献ができると考えました。対象会社の従業員の高い商品知識と提案力、前向きな好奇心がビジネスチャンスを広げると感じて事業承継を決意します。
事業承継・引継ぎ補助金は、株式譲渡の委託費(第三者への委託費用 事業承継仲介業務)として利用されました。
新潟県・製造業/建設業
新潟県の製造業・建設業(従業員数386名)の事例では、株式譲渡で配管用機材・鋼構造物製造販売事業を承継したケースです。
承継者は、水道資機材の製造施工メーカーとして50年以上水道事業に携わってきましたが、人口の減少や節水の影響により水道新設工事が減少していました。対策として、農業土木やエネルギー産業への事業展開をし、業績の維持・拡大を図ったところ、自社の経営資源だけでは足りないと考えM&Aによるグループ化を企画。
建設業は人材(取得資格含む)によって業績が大きく左右されるため、優秀な人材と実績を持つ企業に対して株式譲渡による事業承継を実施しました。
事業承継・引継ぎ補助金は、株式譲渡にかかる委託費(着手金、成功報酬)として利用されました。
【まとめ】事業承継・引継ぎ補助金の事例を紹介しました
事業承継・引継ぎ補助金の活用事例を、経営改革枠(創業支援類型、経営者交代類型、M&A類型)と専門家活用枠(買い手支援支援類型、売り手支援類型)に分けて紹介しました。事業承継・引継ぎ補助金の利用背景や目的、取組内容から、地域貢献や雇用創出が重要になることを理解してもらえたと思います。
事業承継・引継ぎ補助金を利用する際は、活用事例を参考にして地域への貢献や雇用の継続・創出ができるような取り組みを計画することが大切です。