【2024年最新版】中小企業におすすめの人材開発支援助成金とは?
人材の確保や定着を目的に、労働環境を整備したいと考えている中小企業の担当者も多いのではないでしょうか。
そこで活用できるのが人材開発支援補助金です。助成金を活用すれば、コストを抑えて従業員の待遇改善やキャリア支援を行えます。本記事では、人材開発支援助成金の概要や申請の流れ、注意点などを解説します。
中小企業におすすめの人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金とは、労働者が受けた訓練の経費や訓練期間中の賃金を助成する制度です。職務に関連した専門的な知識やスキルを習得させるための訓練が対象です。人材開発支援助成金を活用すれば、事業主はコストを抑えて、人材育成を行えます。
キャリアアップ助成金との違い
人材開発支援助成金と混同されやすいのがキャリアアップ助成金です。人材開発支援助成金の対象者が雇用保険の被保険者である一方、キャリアアップ助成金はアルバイトやパート、契約社員などの非正規労働者が対象です。また、人材開発支援助成金は主に正社員の育成を目的にしている一方、キャリアアップ助成金は非正規労働者の正社員化や待遇改善を目的としています。
コース一覧
人材開発支援助成金のコースは以下の7つです。
コース名 |
概要 |
人材育成支援コース |
被保険者に職務に関連する知識やスキルを習得させることで 人材を育成した場合に助成される |
教育訓練休暇等 付与コース |
労働者が休暇を取得して、訓練を受けた場合に助成される |
人への投資促進コース |
人材育成のための訓練や労働者が自発的に受けた訓練などの 経費や賃金を一部が助成される |
事業展開等リスキリング 支援コース |
新たな分野に進出する際に必要な知識や スキルを習得させるための訓練に対して、経費や賃金の一部が助成される |
建設労働者 認定訓練コース |
認定職業訓練や指導員訓練のうち、建設関連の訓練を実施した場合、 経費や賃金の一部が助成される |
建設労働者 技能実習コース |
建設労働者に対して、スキルアップを目的に実習を有給で受講させた場合、 経費や賃金の一部が助成される |
障害者職業能力 開発コース |
障害者に対して、業務に必要な能力を開発・向上させることを目的に、 教育訓練施設を設置し、運営する場合、費用の一部が助成される |
人材開発支援助成金の助成内容
7つのコースそれぞれについて、助成内容を解説します。
人材育成支援コース
人材育成支援コースでは、自社で主催する訓練や従業員が外部の有料訓練を授業した際の経費などが助成されます。支給対象の訓練や助成率、助成額は以下の通りです。
支給対象の訓練 |
経費助成 |
賃金助成 (1人1時間当たり) |
OJT実施助成 (1人1コース当たり) |
|
人材育成 訓練 |
雇用保険被保険者 (有期契約労働者等を 除く。)の場合 |
45%(+15%) |
760円 (+200円) |
- |
有期契約労働者 等の場合 |
60%(+15%) |
- |
||
有期契約労働者等を 正規雇用労働者等へ 転換した場合 |
70%(+30%) |
- |
||
認定実習併用職業訓練 |
45%(+15%) |
|
||
有期実習型 訓練 |
有期契約労働者 等の場合 |
60%(+15%) |
20万円(+5万円) |
|
有期契約労働者等を 正規雇用労働者等へ 転換等した場合 |
70%(+30%) |
10万円(+3万円) |
参照:厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」
( )の数字は賃金要件または資格等手当要件を満たす場合に加算されます。詳細は以下の通りです。
- 賃金要件:毎月の賃金を、訓練終了日の翌日から1年以内に、5%以上増加させている
- 資格手当要件:就業規則や労働協約、労働契約などに規定し、訓練終了後の翌日から1年以内にすべての対象労働者に手当を支払い、賃金を3%以上増加させている
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースでは、労働者が、事業主以外が実施する教育訓練を受けるのに必要な休暇を確保する制度や短時間勤務の制度が助成対象です。支給対象の制度や助成率、助成額は以下の通りです。
支給対象の制度 |
賃金助成 (1人1日当たり) |
経費助成 |
教育訓練休暇制度 |
- |
30万円(36万円) |
長期教育訓練休暇制度 |
6,000円(7,200円) |
20万円(24万円) |
教育訓練短時間勤務等制度 |
- |
20万円(24万円) |
参照:厚生労働省「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース)のご案内」
( )の数字は賃金要件または資格等手当要件を満たす場合に加算されます。詳細は以下の通りです。
- 賃金要件(教育訓練休暇制度):毎月の賃金を、制度の導入・適用計画期間の最終日の翌日から1年以内に、5%増加させている
- 賃金要件(長期教育訓練休暇制度):毎月の賃金を、支給要件を満たす休暇の最終日(150日を超える場合は150日目)の翌日から1年以内に、5%増加させている
- 賃金要件(教育訓練短時間勤務制度):毎月の賃金を、支給要件を満たす制度の適用日の翌日から1年以内に、5%以上増加させている
- 資格手当要件(教育訓練休暇制度):就業規則や労働協約、労働契約などに規定し、制度の導入・適用計画期間の最終日の翌日から1年以内に手当を支払い、賃金を3%増加させている
- 資格手当要件(長期教育訓練休暇制度):要件を満たす休暇の最終日(150日を超える場合は150日目)の翌日から1年以内に手当を支払い、賃金を3%増加させている
- 資格手当要件(教育訓練短時間勤務制度):支給要件を満たす制度が適用された日の翌日から1年以内に手当を支払い、賃金を3%以上増加させている
人への投資促進コース
人への投資促進コースでは、職務に関連する専門的な知識やスキルを習得させるための訓練を実施した際に助成されます。支給対象の制度や助成率、助成額は以下の通りです。
訓練メニュー |
対象訓練 |
経費助成率 |
賃金助成額 |
OJT実施助成額 |
高度デジタル人材訓練 |
高度デジタル訓練 |
75% |
960円 |
- |
成長分野等人材訓練 |
海外も含む 大学院での訓練 |
75% |
国内大学院の 場合:960円 |
- |
情報技術分野 認定実習 併用職業訓練 |
OFF-JT+OJTの 組み合わせの訓練 (IT分野関連の訓練) |
60%(+15%) |
760円 (+200円) |
20万円 (+5万円) |
定額制訓練 |
「定額制訓練」 (サブスクリプション型の 研修サービス) |
60%(+15%) |
- |
|
自発的職業能力 開発訓練 |
労働者の 自発的な訓練費用を 事業主が負担した訓練 |
45%(+15%) |
- |
|
長期教育訓練休暇 等制度 |
長期教育訓練休暇制度 (30日以上の 連続休暇取得) |
制度導入費 20万円 (+4万円) |
6,000円/日 (+1200円) |
|
所定労働時間の短縮と 所定外労働時間の 免除制度 |
|
|
参照:厚生労働省「人材開発支援助成金(人への投資促進コース)のご案内」
( )の数字は賃金要件または資格等手当要件を満たす場合に加算されます。詳細は以下の通りです。
- 賃金要件:毎月の賃金を、訓練終了日の翌日から1年以内に、5%以上増加させている
- 資格手当要件:資格手当の支払いを就業規則や労働協約、労働契約などに規定し、訓練終了後の翌日から1年以内に、すべての対象労働者に手当を支払い、賃金を3%以上増加させている
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースでは、自社で主催する訓練や従業員が外部の有料訓練を授業した際の経費などが助成されます。助成率と助成額は以下の通りです。
経費助成 |
賃金助成 |
75% |
960円 |
参照:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内」
建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースでは、認定職業訓練に加えて、建設関連の指導員訓練に対して経費または賃金が助成されます。経費助成と賃金助成の額は以下の通りです。
経費助成 |
賃金助成 |
対象経費の1/6 |
3,800円(+1,000円) |
参照:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「建設事業主等に対する助成金のご案内」
( )の数字は賃金要件または資格等手当要件を満たす場合に加算されます。詳細は以下の通りです。
- 賃金要件:毎月の賃金を、訓練修了日の翌日から1年以内に5%以上増加させている
- 資格等手当要件:資格手当の支払いを、就業規則に規定し、訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての対象労働者に手当を支払い、賃金を3%以上増加させている
建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースでは、建設工事の作業に直接関連する実習や労働安全衛生法で定める特別教育などを実施した際に、経費または賃金が助成されます。
|
経費助成 |
賃金助成 |
|
雇用保険被保険者数20人以下 |
対象費用の3/4(+3/20) |
8,550円(+2,000円) |
|
雇用保険被保険者数 21人以上 |
35歳未満の労働者 |
対象費用の7/10(+3/20) |
7,600円(+1,750円) |
35歳以上の労働者 |
対象費用の9/20(+3/20) |
参照:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「建設事業主等に対する助成金のご案内」
( )の数字は賃金要件または資格等手当要件を満たす場合に加算されます。詳細は以下の通りです。
- 賃金要件:毎月の賃金を、訓練修了日の翌日から1年以内に5%以上増加させている
- 資格等手当要件:資格手当の支払いを、就業規則に規定し、訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての対象労働者に手当を支払い、賃金を3%以上増加させている
障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースでは、身体障害者や知的障害者、精神障害者、発達障害者などに対して、職業能力を開発する訓練を実施した際に助成金が支給されます。支給額は以下の通りです。
対象費用 |
助成額 |
障害者職業能力開発訓練事業を行うために、 訓練科目ごとの施設・設備を設置・整備・更新にかかった費用 |
費用の3/4 |
重度障害者 (重度身体障害者や重度知的障害者、精神障害者など)を対象に、 障害者職業能力開発訓練を行う際の運営費 |
1人あたりの運営費の4/5 ※重度障害者以外の場合は3/4 |
参照:厚生労働省「人材開発支援助成金 障害者職業能力開発コース」
人材開発支援助成金の支給条件
人材開発支援助成金の支給条件は以下の通りです。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 人材育成制度を新たに導入し、被保険者に適用すること
- 労働組合の意見をヒアリングした上で職業能力開発計画を作成し、労働者に周知していること
- 職業能力開発推進者を選任していること
- 規定期間内に、会社都合で労働者を離職させていないこと
- 規定期間内に、雇い止めややむを得ない理由で自己都合退職した者の割合が被保険者の6%以内であること
- 助成対象期間内に支払われるべき通常の賃金を支払っていること
- 助成金の審査に必要な書類を5年間保存していること
- 助成金の審査に協力すること
参照:厚生労働省「人材開発支援助成金制度導入活用マニュアル」
中小企業が人材開発支援助成金を申請する際の流れ
人材開発支援助成金の申請手順は、コースごとに異なります。基本的な申請の流れは以下の通りです。
- 都道府県労働局に訓練計画を提出する
- 訓練を実施する
- 労働局に支給申請書類を提出する
- 労働局にて審査が実施される
- 助成金が支給される
中小企業が人材開発支援助成金を申請する際の注意点
人材開発助成金の注意点を3つ解説します。
助成金は後から支払われる
助成金は後払いなので、訓練に必要な費用や賃金は自社で先に支払う必要があります。資金繰りに影響を及ぼす可能性があるので、事前に計画を立ててから申請しましょう。なお、資金が不足している場合は、金融機関から融資を受けて対応することをおすすめします。助成金の場合、補助金と違って、申請すれば受給できるケースが多いので、取引のある銀行や信用金庫などに事前に相談しておきましょう。
社内の人材が一時的に不足する可能性がある
従業員が研修や訓練を受けている間、通常業務が滞る可能性があります。一時的にいなくなる従業員の業務を補完できるような人材配置を計画し、対応しましょう。具体的には、他部署のサポートを受けたり、アルバイトやパートを雇用したりするのがおすすめです。会社の成長のために、人材育成を行っているのにもかかわらず、通常業務が回らなくなってしまうと、本末転倒です。売上や利益にも影響を及ぼす可能性があるので注意しましょう。
制度の内容が定期的に変わる
コースが追加・廃止されたり、助成額が変更したりするなど、内容が定期的に変わるので注意しましょう。政府が働き方改革を推進していることもあり、人材開発支援助成金もブラッシュアップされ続けています。自社に顧問社労士がいる場合は、定期的に情報を共有してもらう仕組みを作るのがおすすめです。顧問社労士がいない場合は、厚生労働省のホームページを定期的にチェックして、最新の情報を把握しておきましょう。
中小企業による人材開発支援助成金の活用事例
人材開発支援助成金の活用事例を3つ紹介します。
従業員が業務外の時間で訓練を実施した事例
中小企業の信用金庫が、「人への投資促進コース」の自発的職業能力開発訓練を実施した事例です。従業員から「スキルアップのために、業務終了後や休日に訓練を受けたい」という声に応えて人材開発支援助成金を活用しました。
業種 |
金融業 |
従業員数 |
40名 |
助成金額 |
・中小企業診断士養成講座の経費助成:67,500円 (事業主の負担額150,000円×45%) ・支給総額:67,500円 |
参照:人材開発支援助成金活用例
従業員が語学学校で英語を学んだ事例
中小企業のタクシー会社が「人への投資促進コース」の長期教育訓練休暇等制度を導入した事例です。労働者が、増加する外国人客に対応したいと自発的に考え、海外の語学学校に通うことをきっかけに人材開発支援助成金を活用しました。
業種 |
運輸業 |
従業員数 |
50名 |
助成金額 |
・長期教育訓練休暇制度の導入助成:200,000円 ・賃金助成:900,000円(6,000円×150日) ・支給総額:1,100,000円 |
参照:人材開発支援助成金活用例
IT分野の未経験者に訓練を実施した事例
情報通信業を行っている中小企業が「人への投資促進コース」の情報技術分野認定実習併用職業訓練を実施した事例です。IT分野の経験者が確保できないことに加えて、未経験者を教育する仕組みも整っていなかったため、助成金を使って未経験者に外部の訓練を受けさせました。
業種 |
情報通信業 |
従業員数 |
30名 |
助成金額 |
・プログラミング講座:450,000円(かかった費用は750,000円) ・訓練時間に対する賃金助成:608,000円(760円/時間×800時間) ・OJT実施に係る助成:200,000円 ・支給総額:1,258,000円 |
参照:人材開発支援助成金活用例
【まとめ】中小企業は積極的に人材開発支援助成金を活用しよう
人材開発支援助成金を活用すれば、コストを抑えて従業員に研修や訓練を受けさせることが可能です。結果的に企業の成長にもつなげられます。なお、人材開発支援助成金の制度は、定期的に内容が変更されるので、申請する際は最新の情報をチェックしましょう。