人材開発支援助成金の助成対象者は?受給要件や対象講座・訓練を解説
人材開発支援助成金を活用したいと考える中で、自社や取り組もうとしている訓練が助成金の対象になるのかわからず悩んでいませんか。
本記事では、人材開発支援助成金の受給要件や対象講座・訓練などを解説します。自社が助成対象になるか判断するための参考になりますので、ぜひご覧ください。
※2024年2月時点の情報です。補助金の申請にあたっては最新の情報を調べてください。
人材開発支援助成金とは?
人材開発支援助成金は、職務に関連した専門知識や技能の習得をさせるための職業訓練等を行った場合にかかる経費や賃金の一部等を助成する制度です。人材開発支援助成金には、以下の7つのコースが用意されています。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
まずは主な受給要件から確認しておきましょう。
主な受給要件
人材開発支援助成金の主な受給要件は、以下のすべてを満たすことです。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 支給のための審査に協力すること(必要な書類を整備・保管しているなど)
- 申請期間内に申請を行うこと
上記以外にコースによって、「対象となる事業主」の要件が個別に定められています。たとえば「人への投資促進コース」では、対象となる事業主は以下のように定められています。
画像引用元:人材開発支援助成金 人への投資促進コースのご案内(詳細版)
なお人材開発支援助成金では、資本金または常勤従業員数が下の表の数字となる会社または個人を「中小企業事業主」と定義しています。中小企業か大企業かで助成率や助成額が異なる場合があるため、確認しておきましょう。
主たる業種 |
資本金の額または出資の総額 |
企業全体で常時雇用する労働者の数 |
小売業(飲食店を含む) |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他の業種(上記以外) |
3億円以下 |
300人以下 |
キャリアアップ助成金との対象者の違い
人材開発支援助成金と混同しやすい助成金に「キャリアアップ助成金」があるため、触れておきます。キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者に対して正社員化や処遇改善などを実施した事業主を助成する制度です。
人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金では、対象者・目的が異なります。人材開発支援助成金では、雇用保険の被保険者を対象に、専門知識や技能を習得させる取り組みを支援することが目的です。一方、キャリアアップ助成金は、パートやアルバイト、派遣労働者などの非正規雇用労働者を対象に、正社員化や処遇改善などの取り組みを支援します。
【コース別】人材開発支援助成金の対象訓練
人材開発支援助成金の対象訓練をコースごとにまとめると、以下の通りです。自社の訓練が助成対象か判断するために、確認しておきましょう。
なお、人材育成支援コースと人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースはOFF-JTに関しては対象訓練は共通です。人材育成支援コースと人への投資促進コースは、別途対象訓練が設定されています。
コース |
対象訓練 |
|
3コース共通 (人材育成支援コース・ 人への投資促進コース・ 事業展開等リスキリング 支援コース)
|
<OFF-JT> ■事業内訓練 ・自社で企画・主催・運営する訓練計画により、要件を満たす 社外より招へいする部外講師により行われる訓練等 ・自社で企画・主催・運営する訓練計画により、要件を満たす 部内講師により行われる訓練等 ・事業主が自ら運営する認定職業訓練
■事業外訓練 社外の教育訓練機関に受講料を支払い受講させる訓練等 |
|
人材育成支援コース |
<OJT> ・認定実習併用職業訓練 ・有期契約労働者等 |
|
人への投資促進コース |
・高度デジタル人材訓練: 高度デジタル訓練(ITスキル標準(ITSS)レベル3、4以上等) ・成長分野等人材訓練:海外も含む大学院での訓練 ・情報技術分野認定実習併用職業訓練: OFF-JT+OJTの組み合わせの訓練(IT分野関連の訓練) ・定額制訓練: 定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス) ・自発的職業能力開発訓練: 労働者の自発的な訓練費用を事業主が負担した訓練 ・長期教育訓練休暇制度: 30日以上の長期教育訓練休暇の取得が可能な制度を導入・適用 ・教育訓練短時間勤務等制度 : 30回以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除が 可能な制度を導入し、1回以上適用 |
上記以外のコースの対象訓練は、以下の通りです。
コース |
対象訓練 |
|
教育訓練休暇等 付与コース |
3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇を 導入・適用した場合に助成を受けられる |
|
建設労働者 認定訓練コース |
職業能力開発促進法第24条第1項に規定する認定職業訓練または 同法第27条第1項に規定する指導員訓練のうち、建設関連の訓練 ※経理事務・営業販売的な要素を持つ訓練は対象外 |
|
建設労働者 技能実習コース |
■要件に該当する技能実習 ・1日1時間以上であること。 ※特定の実習については、合計10時間以上 ・技能実習の期間は最長でも6か月以内とすること ・特定の実習の指導員は、その実習の内容に直接関連する職種に関する 職業訓練指導員免許を有する者、1級技能検定に合格した者、 その他管轄労働局長がこれらと同等以上の能力があると認める者であること
■技術検定に関する講習 ・建設業法で定める技術検定に関する講習で、 受講を開始する日において雇用保険法で定める 教育訓練給付金の支給対象であるもの ・雇用保険法に定める指定教育訓練実施者が実施するもの |
|
障害者 職業能力開発コース |
障害者の職業に必要な能力を開発し、向上させるための教育訓練 であって、厚生労働大臣が定める基準に適合する教育訓練 |
詳細な要件は厚生労働省のWebサイトから確認してください。
【コース別】人材開発支援助成金の対象経費
人材開発支援助成金の対象経費をコースごとにまとめると、以下の通りです。自社の訓練に関連する経費が助成対象か確認しておきましょう。
なお、人材育成支援コースと人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースは事業内訓練と事業外訓練、訓練期間中の所定労働時間内の賃金は共通の内容です。人への投資促進コースと事業展開等リスキリング支援コースは、共通の内容に加えて別途対象経費が定められています。
コース |
対象経費 |
|
3コース共通 (人材育成支援コース・ 人への投資促進コース・ 事業展開等 リスキリング 支援コース)
|
■事業内訓練 ・上記の共通の内容 ・部外の講師への謝金・手当 ・部外の講師の旅費 ・施設・設備の借上費 ・学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書・教材の購入費
※人材育成支援コース・事業展開等リスキリング支援コースは 上記に加えて「訓練コースの開発費」も対象
■事業外訓練 受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代等、 あらかじめ受講案内等で定めているもの
■訓練期間中の所定労働時間内の賃金 ※「人への投資促進コース」では高度デジタル人材訓練/ 成長分野等人材訓練、情報技術分野認定実習併用職業訓練のみ対象 |
|
人への 投資促進コース |
・高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練: 次の資格・試験に関する受験料 ① ITスキル標準(ITSS) レベル3、4の資格試験※ ② 公的職業資格 (資格または試験等であって国若しくは地方公共団体 または 国から委託を受けた機関が法令の規定に基づいて実施するもの) ③ 教育訓練給付指定講座分野・資格コード表(令和5年10月版)に 記載され る資格・試験の資格試験 ※訓練カリキュラムの内容と試験科目との 関連性がないと判断されるものは、支給対象外
・情報技術分野認定実習併用職業訓練: ITスキル標準(ITSS) レベル2、3、4の資格試験の受験料金 ※訓練カリキュラムの内容と試験科目との 関連性がないと判断されるものは、支給対象外
・定額制訓練: 次のオプション経費も支給対象経費として認められる。 訓練に直接要する経費。 たとえば「初期設定費用」「アカウント料」「管理者ID付与料金」 「修了証の発行」「IPアドレス制限機能」「データ容量追加料金」 「LMSの管理者研修」など |
|
事業展開等 リスキリング 支援コース |
■資格・試験に関する受験料 |
上記以外のコースの対象経費は、以下の通りです。
コース |
対象経費 |
|
教育訓練休暇等 付与コース |
3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇を導入・ 適用した場合に助成を受けられる |
|
建設労働者 認定訓練コース |
職業能力開発促進法第24条第1項に規定する認定職業訓練または 同法第27条第1項に規定する指導員訓練のうち、建設関連の訓練 ※経理事務・営業販売的な要素を持つ訓練は対象外 |
|
建設労働者 技能実習コース |
■要件に該当する技能実習 ・1日1時間以上であること。 ※特定の実習については、合計10時間以上 ・技能実習の期間は最長でも6か月以内とすること ・特定の実習の指導員は、その実習の内容に直接関連する職種に関する 職業訓練指導員免許を有する者、1級技能検定に合格した者、 その他管轄労働局長がこれらと同等以上の能力があると認める者であること
■技術検定に関する講習 ・建設業法で定める技術検定に関する講習で、 受講を開始する日において雇用保険法で定める教育訓練給付金の 支給対象であるもの ・雇用保険法に定める指定教育訓練実施者が実施するもの |
|
障害者職業能力 開発コース |
・障害者の職業に必要な能力を開発し、 向上させるための教育訓練であって、 厚生労働大臣が定める基準に適合する教育訓練 ・上記を行うために「訓練の施設または設備の設置・整備または更新」をする場合 |
詳細な要件は厚生労働省のWebサイトから確認してください。
【コース別】人材開発支援助成金の助成額・助成率
人材開発支援助成金の助成額・助成率をコースごとにまとめると、以下の通りです。自社の受給額を判断する際の参考にしてください。
コース |
支給対象となる訓練 |
経費助成 |
賃金助成 |
|
人材育成 支援 コース |
人材 育成 訓練 |
雇用保険被保険者 (有期契約 労働者等を除く) の場合 |
中小企業: 45%(+15%) 中小企業以外: 30%(+15%) |
中小企業: 760円/h (+200円/h) 中小企業以外: 380円/h (+100円/h) |
有期契約 労働者等の場合 |
60%(+15%) |
|||
有期契約労働者等を 正規雇用労働者等へ 転換した場合 |
70%(+30%) |
|||
認定実習併用職業訓練 |
中小企業: 45%(+15%) 中小企業以外: 30%(+15%) |
中小企業: 760円/h (+200円/h) 中小企業以外: 380円/h (+100円/h)
<OJT実施助成> 中小企業: 20万円/h (+5万円/h) 中小企業以外: 11万円/h (+3万円/h) |
||
有期実習型 訓練 |
有期契約 労働者等の場合 |
60%(+15%) |
中小企業: 760円/h (+200円/h) 中小企業以外: 380円/h (+100円/h)
<OJT実施助成> 中小企業: 10万円/h (+3万円/h) 中小企業以外: 9万円/h (+3万円/h) |
|
有期契約労働者等を 正規雇用労働者等へ 転換した場合 |
70%(+30%) |
|||
教育訓練 休暇等 付与 コース |
教育訓練休暇制度 |
30万円(36万円) |
- |
|
人への 投資促進 コース |
高度デジタル人材訓練 |
中小企業:75% 大企業:60% |
中小企業:960円 大企業:480円 |
|
成長分野等人材訓練 |
75% |
国内大学院の場合: 960円 |
||
情報技術分野認定実習 併用職業訓練 |
中小企業: 60%(+15%) 大企業: 45%(+15%) |
中小企業: 760円(+200円) 大企業: 380円(+100円)
※OJT実施助成額は 中小企業: 20万円(+5万円) 大企業: 11万円(+3万円) |
||
定額制訓練 |
中小企業: 60%(+15%) 大企業: 45%(+15%) |
- |
||
自発的職業能力開発訓練 |
45%(+15%) |
- |
||
長期教育訓練休暇等制度 |
長期教育訓練 休暇制度 (30日以上の 連続休暇取得): 制度導入経費: 20万円(+4万円)
教育訓練 短時間勤務等制度: 制度導入経費: 20万円(+4万円) |
長期教育訓練 休暇制度 (30日以上の 連続休暇取得): 6,000円/日 (+1,200円/日)
教育訓練 短時間勤務等制度: - |
||
事業展開等リスキリング支援コース |
中小企業:75% 中小企業以外:60% |
中小企業:960円/h 中小企業以外: 480円/h |
||
建設労働者認定訓練コース |
対象経費の1/6 |
3,800円/人日 (+1,000円/人日) |
||
建設労働者技能実習コース |
中小建設事業主 (20人以下) :3/4(+3/20) 中小建設事業主 (21人以上) :7/10(+3/20) |
中小建設事業主 (20人以下) :8,550円/人日 (+2,000円/人日)
中小建設事業主 (21人以上) :7,600円/人日 (+1,750円/人日) など |
||
障害者 職業能力 開発 コース
|
施設または設備の設置・ 整備または更新 |
要した費用の3/4を乗じた額 |
- |
|
重度身体障害者、 重度知的障害者、 精神障害等 を対象とする 障害者職業能力開発訓練 |
1人あたりの運営費に 4/5を乗じた額に、 訓練対象障害者のうち、 支給対象期における 訓練時間の8割以上を 受講した者の人数を 乗じた額。
8割以上を 受講しなかった者は、 1人当たりの運営費に 4/5を乗じた額に、 支給対象期における 訓練時間数を分母に、 当該者の訓練受講時間数を 分子にして得た率を 乗じた額。 |
- |
||
上記以外の障害者を 対象とする 障害者職業能力開発訓練 |
1人あたりの運営費に 3/4を乗じた額に、 訓練対象障害者のうち、 支給対象期における 訓練時間の 8割以上を受講した者の 人数を乗じた額。
8割以上を 受講しなかった者は、 1人当たりの運営費に 3/4を乗じた額に、 支給対象期における 訓練時間数を分母に、 当該者の 訓練受講時間数を 分子にして得た率を 乗じた額。 |
- |
||
重度障害者等が就職した場合 |
就職者1人当たりに 10万円を乗じた額 |
- |
※カッコ内は賃金要件または資格等手当要件を満たした場合
詳細な要件は厚生労働省のWebサイトから確認してください。
人材開発支援助成金の助成額の活用例
最後に、人材開発支援助成金の助成額の活用例を紹介します。どのような内容が対象になるか掴むために参考にしてください。
参考元:人材開発支援助成金活用例
高度な資格取得を行なった例
助成金対象の経費、賃金、実施助成 |
支給額 |
・資格試験の受験料を含む:280,000円 ・訓練時間に対する賃金助成 (中小企業:960円/h) |
<OFF-JT> 経費助成:210,000円(受講料等×75%) 賃金助成:28,800円(30h×960円)
総額238,800円 |
まずは、20名規模の中小企業(情報通信業)において、人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練)を活用した事例を紹介します。
従来は自己学習でのスキル習得が基本でしたが、組織力を高めるには高度なデジタル分野の資格を持った人材を育てることが課題でした。
そこで、人材開発支援助成金を活用し、プロジェクトマネージャの資格取得を目指して対策講座を受講。資格の取得によってプロジェクト管理の実施が可能になり、高度な資格保持者がいることは会社の強みにもなりました。
未経験者に訓練を行なった例
助成金対象の経費 |
支給額 |
・プログラミング講座(資格試験の受験料を含む) :750,000円 ・訓練時間に対する賃金助成(中小企業:760円/h) ・OJT実施に係る助成(中小企業:200,000円) |
<OFF-JT> 経費助成:450,000円 (受講料等(受験料を含む)×60%) 賃金助成:608,000円(800h✕760円)
<OJT> 実施助成:200,000円
支給総額:1,258,000円 |
次に、30名規模の中小企業(情報通信業)において、人への投資促進コース(情報技術分野認定実習併用職業訓練)を活用した事例です。
従来はIT分野の経験者を優先的に採用していましたが、人員の確保が難しくなったことから、未経験者を採用することになりました。
そこで、人材開発支援助成金を活用してプログラミング講座の受講やOJTを実施。結果、未経験者から一人前のSEへと成長させることができました。
サブスクリプション型の訓練を行なった例
助成金対象の経費 |
支給額 |
営業職研修受け放題講座:420,000円 |
<OFF-JT> 経費助成:252,000円(受講料等×60%)
総額252,000円 |
続いて、130名規模の中小企業(製造業)において、人への投資促進コース(定額制訓練)を活用した事例を紹介します。
従来は個々の従業員にあった訓練をそれぞれで実施していましたが、訓練を探す手間が生じたり、訓練費用が高額になったりする課題がありました。そのため、訓練の機会を減らさざるを得ない状況でした。
そこで、定額制の研修サービスを取り入れることに。1つの契約で幅広い層へと訓練を行うことができ、手間を減らして安価な費用での訓練が可能になりました。
【まとめ】人材開発支援助成金の助成対象者を紹介しました
人材開発支援助成金の受給要件や対象講座・訓練などを紹介しました。主な受給要件は、以下の通り。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 支給のための審査に協力すること(必要な書類を整備・保管しているなど)
- 申請期間内に申請を行うこと
対象者や対象訓練、対象経費はコースごとに異なるため注意が必要です。本記事の内容を参考に、自社が助成対象になりそうか確認してみてください。なお、人材開発支援助成金の支給金額や申請方法などを理解したい方は、以下の記事もご覧ください。