事業再構築補助金グリーン成長枠とは?要件や申請手順を詳しく解説

環境に配慮した取り組みを行う事業の方で、事業採択補助金のグリーン成長枠を利用したいと考える方もいるのではないでしょうか。
本記事では、グリーン成長枠について詳しく解説。グリーン成長枠の要件や特徴、注意点を理解し、申請の準備を進めやすくなります。
そもそも事業再構築補助金とは?
事業採択補助金とは、新型コロナウイルスによる打撃を受けた企業に対し、国や政府が事業の継続・再構築をする際の手助けとして補助金が付与される制度です。申請枠には、以下の8つがあります。
- 成長枠
- グリーン成長枠
- 卒業促進枠
- 大規模賃金引上促進枠
- 産業構造転換枠
- 物価高騰対策・回復再生応援枠
- 最低賃金枠
- サプライチェーン強靱化枠
直近行われた第10回の採択結果は10,821者の応募に対し、5,205の事業者が採択されました。
必須要件
全ての申請枠にて共通する必須要件として、以下のことが定められています。
- 目標に沿う事業計画を作成し、認定経営革新等支援機関の確認をうけること(補助金額が3000万円を超える場合、金融機関の確認も必須)
- 対象の補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0~5.0%以上増加させること
- 従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0~5.0%以上増加させること
付加価値額の年率は申請枠により異なるため、自身が応募する申請枠を必ず確認しましょう。
事業再構築補助金グリーン成長枠とは
事業再構築補助金における「グリーン成長枠」とは、環境に寄与する事業を行う企業を対象とした申請枠です。補助上限金額は1億5000万円と、高い金額が設定されています。以下では、グリーン成長枠の概要について詳しく解説します。
グリーン成長枠が出来た背景
事業再構築補助金の「グリーン成長枠」が出来た背景には、「2050年カーボンニュートラル宣言」が大きく関係しています。2050年までに脱炭素社会の実現・温室効果ガスの排出の実質ゼロを実現するという当宣言に基づき、策定されました。
事業再構築補助金グリーン成長枠は、当宣言の「グリーン成長戦略」で掲げられている重要な14分野に該当する取り組みを行う事業者に対して補助を行います。
グリーン成長戦略の重要な14分野
グリーン成長戦略の14分野には、以下の項目があります。
- 洋上風力・太陽光・地熱
- 水素・燃料アンモニア
- 次世代熱エネルギー
- 原子力
- 輸送・製造関連産業
- 自動車・蓄電池
- 半導体・情報通信
- 船舶
- 物流・人流・土木インフラ
- 食料・農林水産業
- 航空機
- カーボンリサイクル・マテリアル
- 家庭・オフィス関連産業
- 住宅・建築物・次世代電力マネジメント
- 資源循環関連
- ライフスタイル関連
グリーン成長戦略を実行するにあたり、これらの分野に該当する事業を後押しするため申請枠として設けられています。
グリーン成長枠には2つのタイプがある
グリーン成長枠には、「エントリー」と「スタンダード」の2つのタイプがあり、それぞれ要件が異なります。以下では、それぞれのタイプについて解説します。
エントリー
グリーン成長枠の「エントリー」には、以下の要件が定められています。
- 付加価値額の年率平均4.0%以上増加させること
- 14分野に掲げられた課題の解決に資する取組として記載があるものに該当し、その取組に関連する1年以上の研究開発・技術開発又は従業員の5%以上に対する年間20時間以上の人材育成をあわせて行うこと
- 事業終了後3~5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること
スタンダード
グリーン成長枠の「スタンダード」には、以下の要件が定められています。
- 付加価値額の年率平均5.0%以上増加させること
- 14分野に掲げられた課題の解決に資する取組として記載があるものに該当し、その取組に関連する2年以上の研究開発・技術開発又は従業員の10%以上に対する年間20時間以上の人材育成をあわせて行うこと
- 事業終了後3~5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること
事業再構築補助金グリーン成長枠の概要
以下では、事業再構築補助金グリーン成長枠に申請する場合の概要について解説します。
対象事業者
グリーン成長枠の対象事業者は、スタンダードとエントリーでそれぞれ異なります。スタンダードは以下の2点が要件です。
- 14分野に掲げられた課題の解決に資する取組として記載があるものに該当し、その取組に関連する2年以上の研究開発・技術開発又は従業員の10%以上に対する年間20時間以上の人材育成をあわせて行うこと
- 事業終了後3~5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること
エントリーは、以下の2点を満たす必要があります。
- 14分野に掲げられた課題の解決に資する取組として記載があるものに該当しその取組に関連する1年以上の研究開発・技術開発又は従業員の5%以上に対する年間20時間以上の人材育成をあわせて行うこと
- 事業終了後3~5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること
補助額・補助率
補助額・補助率は、スタンダード・エントリーで異なります。
スタンダードの場合
スタンダードの場合、補助上限額・補助率は以下のように定められています。
|
従業員数 |
補助上限額 |
補助率 |
中小企業 |
規定なし |
1億円 |
1/2 |
中堅企業 |
規定なし |
1.5億円 |
1/3 |
エントリーの場合
エントリーの補助上限額・補助率は、以下のように定められています。
|
従業員数 |
補助上限額 |
補助率 |
中小企業 |
20人以下 |
4,000万円 |
1/2 |
21~50人 |
6,000万円 |
||
51人~ |
8,000万円 |
||
中堅企業 |
規定なし |
1億円 |
1/3 |
対象となる経費
支援の対象となる経費は以下の通りです。
- 建物費
- 機械装置・システム構築費
- 技術導入費
- 専門家経費
- 運搬費
- クラウドサービス利用費
- 外注費
- 知的財産権等関連経費
- 広告宣伝・販売促進費
- 研修費
必要書類
グリーン成長枠の申請には、以下の書類が必要となります。
- 事業計画書
- 認定経営革新等支援機関・金融機関による確認書
- 決算書
- 従業員数を記載した書類
- 収益事業をであるということを説明する書類
- 賃金引上げ計画の誓約書
- 研究開発・技術開発計画または人材育成計画書
上乗せ枠が付与されることも
グリーン成長枠では「大規模賃金引上促進枠」と「卒業促進枠」の2つの促進枠が設けられています。促進枠の対象となった場合、成長・賃上げのインセンティブの上乗せ枠としてどちらかの促進枠に申請が可能です。なお、2つの上乗せ枠の併用はできません。
グリーン成長枠の特徴
以下では、グリーン成長枠の特徴やメリットを解説します。応募する事業に合致しているか参考にしてみましょう。
補助上限額が比較的高い
事業再構築補助金の中で他の枠の補助上限額は1500〜7500万円ほどのところ、グリーン成長枠は最大1.5億円の支援を受けることが可能です。他の枠の補助上限額と比べるとかなり高い補助上限額が設定されています。グリーン成長枠に該当する企業であれば高額の補助金を受け取れるため、事業を立て直す際の大きな助けになるでしょう。
売上高10%減少要件がない
事業再構築補助金は、コロナ禍で売り上げが下がった企業を支援するための制度のため、売上高の減少が要件として定められています。しかしグリーン成長枠に限り、売り上げが減少していなくても支援を受けることが可能です。それに代わり、「付加価値額の向上要件」が定められています。
エントリーの場合は「年率平均4.0%以上増加」、スタンダードの場合は「年率平均5.0%以上増加」が、付加価値額の向上要件です。付加価値額の向上が期待できるよう、事業計画を練り上げる必要があります。
他の枠に比べ、条件が厳しい
他の枠に比べて条件が厳しいという特徴もあります。例えば「2年以上の研究開発・技術開発又は従業員の10%以上に対する年間20時間以上の人材育成をあわせて行うこと」という、長期的な取り組みが必要です。
また、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた14分野に該当する取り組みに該当する必要があります。これらには「洋上風力市場の拡大」「アジア拠点誘致競争の激化」など、業種ごとに高度な課題が設定されており、それらを解決する施策を提示しなければいけません。
1度採択されていても申請が可能
グリーン成長枠は、1度採択されていても申請ができます。本来、事業再構築補助金は一事業者につき一度しか支援を受けることができません。グリーン成長枠では、一定の条件を満たす場合に限り、1度支援を受けた企業や交付決定を受けている企業でも2回まで申請できます。
2回目の申請が認められる要件は、以下のように定められています。
- 既に事業再構築補助金で取り組んでいる又は取り組む予定の補助事業とは異なる事業内容であること(別事業要件)
- 既存の事業再構築を行いながら新たに取り組む事業再構築を行うだけの体制や資金力があること(能力評価要件)
大規模賃金引上促進枠とは
大規模賃金引上促進枠は、成長枠・グリーン成長枠での事業を通して、大規模な賃上げを行う事業者に向けて補助額を上乗せする制度です。補助金額・補助率は以下のように定められています。
- 補助上限額:3000万円
- 補助率:中小企業1/2、中堅企業1/3
卒業促進枠とは
卒業促進枠は成長枠・グリーン成長枠での事業を通し、中小企業から中堅企業に成長する事業者に向けて補助額を上乗せする制度です。補助金額・補助率は以下のように定められています。
- 補助上限額:グリーン成長枠に準ずる
- 補助率:中小企業1/2、中堅企業1/3
事業計画書の必要記載事項
事業計画書は採択の基準となるため、記載内容には不備がないよう注意しなければいけません。A4サイズで計15ページ以内(補助金額1,500万円以下の場合は計10ページ以内)での作成が必要です。以下の項目について明示的に記載がないと、不採択になります。
- 補助事業の具体的な取り組み内容
- 事業において想定している市場と期待される効果
- 事業によって取得する予定の資産の分類
- 収益の計画書
「補助事業の具体的な取り組み内容」は、ページごとに記載する内容が異なります。1ページ目に既存製品と新製品、既存市場と新市場、既存事業と新事業などについて、従来と今後でそれぞれ何が異なるか具体的に記載が必要です。
2ページ目以降には、以下の内容を具体的に記載します。
- 現在の事業の状況、強み・弱み、機会、脅威、事業環境、事業再構築の必要性
- 事業再構築の具体的内容(既存事業との違い(特に顧客の違い)提供する製品・サービス、導入する設備、工事等)
- 今回の補助事業で実施する新市場進出(新分野展開、業態転換)
- 事業・業種転換、事業再編、国内回帰の取組について具体的に記載
他にも細かい記載事項が定められているため、公募要領をくまなく確認する必要があります。
手続きの流れ
事業再構築補助金の申請や採択後の手続きは、以下の流れで進めます。
- 公募開始
- 必要書類の準備・GビズIDの取得
- 申請
- 採択通知
- 交付申請
- 事業実施
- 確定検査
- 補助金の請求、支払い
- 事業化状況報告・知的財産権等の報告
申請時のみに限らず、採択後にも書類の作成や手続きが発生します。流れに沿った手続きをしなければ、補助金は受け取れません。採択されたことで安心せず、期限内での手続きや書類の作成、補助事業の実現に向けた取り組みを実施する必要があります。
通常枠の方が補助金額が大きくなることもあるため注意が必要
補助金額が小さい事業・取り組みの場合、グリーン成長枠よりも通常枠の方が補助金額が高くなる場合があります。場合によっては通常枠の方が補助率が高くなるため、該当する事業の見極めが必要です。補助金額のシミュレーションを行い、事業に合った枠で申請しましょう。
採択結果と採択率
第10回事業再構築補助金の採択率は約48%、10,821件の応募に対し、5,205件が採択されています。グリーン成長枠の採択率は、631件の応募に対して262件が採択され、約41%という採択率になりました。全体的な採択率に比べて、やや低い傾向にあることがわかります。
申請枠 |
応募件数 |
採択件数 |
採択率 |
成長枠 |
2,734 |
1,242 |
45.4% |
グリーン成長枠 |
631 |
262 |
41.5% |
産業構造転換枠 |
275 |
102 |
37.0% |
最低賃金枠 |
249 |
133 |
53.4% |
物価高騰対策・回復再生応援枠 |
6,775 |
3,387 |
49.9% |
サプライチェーン強靭化枠 |
157 |
79 |
50.3% |
卒業促進枠 |
2 |
0 |
0% |
大規模賃金引上促進枠 |
202 |
55 |
27.2% |
合計 |
10,821 |
5,205 |
48.1% |
想定事業例
以下は、経済産業省がグリーン成長枠の対象として掲載している、想定事業です。全部で14分野紹介されていますが、そのなかから3つを紹介します。(経済産業省 事業再構築補助金「グリーン成長枠」想定事例集から引用)
情報通信
次世代パワー半導体やグリーンデータセンターなどの研究開発を支援し、2040年のカーボンニュートラル実現を目指す情報通信分野。対象となる事業として、以下のような事例が想定されています。
- 電気工事業で培ったノウハウを活かし、既存顧客(~300人規模の製造業)向けに、設計から、ソフトウェア提供、保守までを一気通貫で行うデジタル化支援事業に進出し、事業再構築を図る
- 事業実施にあたっては、本事業の担当スタッフがソフトウェアメーカへ出向し、持ち帰ったノウハウを通じて社内人材の育成を行う
物流
スマート交通等の導入、グリーン物流、交通ネットワーク等の効率化など環境負荷の低減等を進める物流分野は、想定される事例として以下の事業が挙げられています。
- 製造事業者、卸販売事業者及び小売販売事業者と連携し、在庫データの共有化等を通して、配送業務を集約・効率化した配送受託業務に取り組む
- 実施にあたっては、在庫データの共有化等のシステム理解を深めるため、外部の専門家を招聘して研修を行い、人材育成を行う
蓄電池
自動車の電動化や、再生可能エネルギーの普及などのための「新たなエネルギー基盤」として期待されている、蓄電池産業。想定される事例として、以下の内容が挙げられています。
- 既存事業で培ってきた板金加工技術を活かし、今後拡大が期待される蓄電池市場向けリチウムイオンバッテリー部材の製造を行う
- 電池用部材に求められる高精度な加工を可能とする加工機の導入に当たっては、加工技術の
- 習得のために研修の受講を計画しており、これら研修を通じて人材の育成を行う
採択率を上げるためのポイント

以下では、採択率を上げるためのポイントを解説します。
パートナーシップ構築宣言の加点制度を利用する
事業再構築補助金は「パートナーシップ構築宣言」を宣言・公表することで加点措置を受けられます。パートナーシップ構築宣言とは、あらゆる規模・業種の事業者が「発注者」の立場で自社の取引方針を宣言する取組みです。加点措置を利用する場合、応募締め切り時点でパートナーシップ構築宣言ポータルサイトで宣言を公表する必要があります。
事業計画書を念入りに作成する
事業計画は、採択の可否を判断する基準となるため、入念な作成が必要不可欠です。採択されるためには、記載内容を網羅することはもちろん、説得力のある事業計画を策定する必要があります。
信頼できる認定経営革新等支援機関を選ぶ
事業再構築補助金において、事業計画は認定経営革新等支援機関と共に策定しなければいけません。採択・不採択に関わるだけでなく、企業の情報を開示することにもなるため、優良で信頼できる認定経営革新等支援機関を選びましょう。中には、不当な費用の請求や強引な働きかけを行うなど、不適切な行為に及んだ認定支援機関の事例があります。採択率を上げるために尽力してくれる、誠実な支援機関を見極めましょう。
補助金コンサルタントを利用する
補助金コンサルタントに相談するのも1つの手段です。その際はコンサルタントに丸投げせず、あくまでサポートを受ける形で利用しましょう。事業計画の作成における注意事項として、「申請者自身で作成する」ということが定められています。丸投げすることは、必要要件を満たすことにならないため、自身で作成したものを添削してもらうという方法がおすすめです。
【まとめ】事業再構築補助金のグリーン成長枠について紹介しました
事業再構築補助金のグリーン枠は、要件の難易度が高いですがそのぶん他の申請枠に比べて高額の補助金を受け取ることができます。該当する事業であれば、非常によい条件といえるでしょう。
採択率は決して高いとはいえないため、入念な事業計画の作成が必要不可欠です。採択率を上げるためには、信頼できる認定支援機関を選んだり、補助金コンサルトの依頼を検討したりすることがおすすめです。