事業再構築補助金を宿泊業で活用しよう!受給条件や事例などを紹介
コロナ禍の影響を受け、業績が厳しい宿泊業者は多いのではないでしょうか。業績が悪化した企業を救済する制度として、国からの補助金である事業再構築補助金があります。
当記事では、事業再構築補助金を宿泊施設で活用する方法を詳しく紹介していますので、宿泊業の方はぜひ参考にして下さい。
宿泊業事業者は事業再構築補助金を活用可能
事業再構築補助金は、宿泊業事業者が活用できる制度です。まずは事業再構築補助金の概要について簡単に説明します。
事業再構築補助金の概要
事業再構築補助金とは、中小企業等が新しい分野に進出したり、事業を転換するための費用を補助する制度です。具体的には、新しい市場に進出するための費用、事業転換に伴う設備投資費用、事業再編に伴う費用などが対象となります。
また、コロナ禍により業績が悪化している企業にとっては業績の回復を目指すために有効な制度です。補助金の交付額は、補助対象経費の一部を補助する形で支給されます。補助金の交付には、事業計画書の提出や、補助事業の成果報告書の提出が必要です。
事業再構築補助金の枠の違い
事業再構築補助金には、成長枠、産業構造転換枠、最低賃金枠、物価高騰対策・回復再生応援枠などの枠があります。事業再構築補助金の枠は、新分野展開や事業転換などの思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援するために設けられています。枠があることによって、事業再構築補助金の交付先を公平かつ適正に決定できます。
事業再構築補助金には事業計画の策定が必要
事業再構築補助金の申請には、事業計画書が必要です。事業計画書は、事業再構築補助金の交付先を公平かつ適正に決定するために必要な書類の1つです。また、事業再構築補助金の交付先企業が事業再構築に必要な資金を適切に使い、事業再構築が達成されるかどうかを事務局が確認する目的もあります。
事業計画書には、事業再構築の目的・手法・実施計画・費用・効果・リスク・成果物などを記載しなければなりません。事業計画書は認定支援機関の支援を受けて作成でき、事業再構築補助金の申請時に提出します。
事業再構築補助金の基本情報
本項では、事業再構築補助金の基本情報を解説します。事業再構築補助金について詳しくない方や、基本情報を再確認したい方は参考にして下さい。
事業再構築補助金の対象となる経費
事業再構築補助金の対象となる経費は、以下の11種類があります。
- 建物費
- 機械装置、システム構築費
- 技術導入費
- 専門家経費
- 運搬費
- クラウドサービス利用費
- 外注費
- 知的財産権等関連経費
- 広告宣伝、販売促進費
- 研修費
- 海外経費(卒業枠、グローバルV字回復枠のみ)
補助対象となる経費の条件は、本事業の対象として他の業務の経費と明確に区分が出来る経費であり、必要な支払いであることです。また、証拠書類による妥当性の確認も求められます。補助金の交付期間は、交付決定日から12ヶ月以内(ただし、補助金交付候補者の採択発表日から14ヶ月後の日まで)です。
上記の経費のうち、宿泊業との関連が特に高いのは、建物費、機械装置・システム構築費、外注費、広告宣伝・販売促進費、研修費の5つがあります。宿泊業にとって事業再構築補助金の申請が大きな影響を与える理由の1つは、建物費が経費の1つとして認められていることです。
建物の増改築には高額な資金が必要ですが、事業の規模を拡大したり、新たな施設を増やして新事業を開始できるなどの可能性を秘めています。事業再構築補助金の活用をお考えの宿泊業の方は、補助対象となる経費にぜひ注目して下さい。
宿泊事業者の申請傾向分析
下表は、事業再構築補助金の宿泊業における採択率と申請率の傾向分析結果です。
引用:事業再構築補助金公式サイト「事業計画書作成ガイドブック」
分析結果から分かることは、ワーケーション・飲食関連・アウトドアの申請率が飛び抜けて高いことです。また、採択率は貸別荘サービスが他を圧倒して高くなっていますが、申請率は最も下位のレベルであることが分かります。宿泊業で事業再構築補助金を有効に活用するためには、申請率・採択率ともに高いテーマが狙い目でしょう。
建設費が補助対象となり、大部分が補助される
事業再構築補助金の申請において、建設費が補助対象となり、大部分が補助されることには以下のようなメリットがあります。
- 大幅な経費削減
- 事業の拡大
- 競争力の向上
- 新規事業の立ち上げ
建設費は事業再構築補助金の中で最も大きなポイントとなる補助対象経費です。建設費は金額が大きいため、自己資金での投資が困難な場合が多いですが、事業再構築補助金は金額が大きいため、大幅な経費削減が見込めます。事業再構築補助金を活用することで、建設費を補助金で賄うことができ、事業の拡大が期待できるでしょう。
また、事業再構築補助金を活用することによって事業の拡大や設備の更新が可能になり、競争力の向上にもつながります。新規事業の立ち上げには、建設費をはじめとした多大な資金が不可欠です。事業再構築補助金を活用すれば、通常時には困難な新規事業の立ち上げが可能になるでしょう。
政府主導の補助金やキャンペーンが見込める
事業再構築補助金の申請において、政府主導の補助金やキャンペーンの活用が期待できるケースがあります。近年導入された補助金やキャンペーンで、宿泊業でも活用できる可能性のある制度の一例として、以下の3つがあります。
- 持続化給付金
- 働き方改革推進支援助成金
- 生産性革命推進事業
持続化給付金は、売上が大幅に減少した中小・小規模事業者に、使途制限のない資金を最大200万円給付します。働き方改革推進支援助成金は、新たにテレワークを導入した中小企業事業主等に対して、テレワーク用通信機器の導入等に係る経費に支給される助成金です。生産性革命推進事業は、テレワーク環境の整備や非対面型ビジネスモデルへの投資を補助します。
急速な円安基調で相対的に割安に
現在、急速な円安が進んでいますが、実は宿泊業界にとって追い風になる可能性が高まっています。なぜなら、外国人観光客が日本へ観光に訪れることにより、インバウンド需要の急増が考えられるからです。円安により、外国人旅行者が日本を訪れる際の費用が相対的に割安になります。また、日本国内での消費活動も円安によって割安になるため、日本へ訪れる外国人観光客の増加が見込まれます。
ゆえに、円安基調の進行は宿泊業界にとって大きなビジネスチャンスとなる可能性が高いのです。近い将来のインバウンド需要の増加に備えて、今のうちに事業再構築補助金を活用して宿泊施設の充実を図るとよいでしょう。
事業再構築補助金の成長枠とは
事業再構築補助金の申請には、いくつかの申請枠が用意されており、いずれかの枠を活用することになります。2023年からは通常枠に代わって成長枠が新たに創設されました。成長枠は、宿泊業者が事業再構築を目指すだけではなく、さらに事業を成長させられる可能性があります。また、従業員数によって補助金の金額が異なっており、企業の規模にあった補助金の給付が期待できることもメリットです。本項では成長枠について詳しく解説します。
成長枠の概要
事業再構築補助金の成長枠は、成長が見込まれる分野を対象とし、かつ事業再構築に意欲的に取り組む事業者の支援を目的としている枠です。中小企業等が、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大に向けた投資を行う場合に、その費用の一部を補助します。補助金の上限額は従業員数によって決まり、金額と補助率は下表のとおりです。
従業員数 |
補助上限額 |
補助率 |
20人以下 |
2,000万円 |
中小企業:1/2 (大規模な賃上げを行う場合は2/3) 中堅企業:1/3 (大規模な賃上げを行う場合は1/2) |
21人~50人 |
4,000万円 |
|
51人~100人 |
5,000万円 |
|
101人以上 |
7,000万円 |
成長枠が創設された背景
成長枠は、通常枠に代わって2023年度から導入され、事業再構築補助金の中でも最も注目すべき制度といっても過言ではありません。従来の通常枠は、経営が厳しくなった企業の救済がおもな目的でしたが、新たに導入された成長枠では、企業の成長支援が目的の中心です。中小企業の事業再構築によって国全体の経済を活性化させるために導入されました。
成長枠の対象となる事業
事業再構築補助金の成長枠には、宿泊業も含まれます。2023年に追加されたインバウンド向けの宿泊業も成長枠の対象です。ただし補助金の交付にあたっては、対象となる中小企業等が、以下の2つの要件を満たす必要があります。
1つは、過去〜今後のいずれか10年間で、市場規模(製造品出荷額、売上高等)が10%以上拡大する業種・業態に属していることです。2つ目は、事業終了後3〜5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させることが要件となります。
宿泊業に事業再構築補助金を活用するメリット
宿泊業において、事業再構築補助金を活用するメリットは多岐にわたります。本項で紹介するメリットを念頭に置いて、事業再構築補助金を宿泊業に有効に活用しましょう。
建設費が補助対象となる
事業再構築補助金を宿泊業で活用するにあたって最も大きなメリットは、建設費が補助対象になることです。なぜなら、建設費は一般的に宿泊業の経費の中で最も資金が必要だからです。宿泊施設の大型化や、顧客のニーズに合わせたサービスを提供できる施設の新築も可能でしょう。ニーズに合ったサービスの導入は、顧客満足度の向上が期待できます。
円安でインバウンドの増加が期待できる
円相場はわずか2年程度のあいだに、1ドル約110円から140円を超えるまで円安が進行しています。急速な円安によって、インバウンド(外国人観光客による日本への観光訪問)が増え、外国人による日本での消費が以前よりも進むと予想されています。事業再構築補助金を活用してインバウンド需要のニーズに応えられる設備を用意しておけば、ビジネスチャンスを獲得できる可能性が高まるでしょう。
キャンペーンによる需要の拡大が期待できる
事業再構築補助金を活用しながら、政府によるキャンペーンも同時に活用できる可能性があります。例えば、働き方改革改革の推進によってコワーキングスペースを利用する企業が増えました。また、業務のIT化や新型コロナウイルス対策としてリモート会議を導入する企業が増えたことも活用できる可能性があります。
成長枠が創設され事業拡大がしやすくなった
事業再構築補助金で新たに成長枠が導入されたことによって、単に事業を再構築するだけではなく、事業をさらに成長させられる可能性が増しています。設備投資や新規事業の開始など、活用方法は多岐にわたります。成長枠が導入された2023年度からは今まで以上に事業再構築補助金の活用が有利です。
インバウンド向けの宿泊業に事業再構築補助金がおすすめな理由
事業再構築で新たに導入された成長枠は、新規事業の開始を後押ししてくれる制度であり、特にインバウンド向け宿泊業には追い風となります。本項ではインバウンド向け宿泊業に焦点を当てて、おすすめな理由を解説しています。
インバウンド向け宿泊業の市場拡大
近年の急速な円安の進行により、外国人観光客の増加が見込まれています。インバウンド向け宿泊業の市場拡大は大きなメリットです。事業再構築補助金を活用して、インバウンド向け宿泊施設を用意しておくことは、業績アップを目指すための有効な選択肢の1つとなるでしょう。
成長枠でインバウンド向けの宿泊業が追加
2023年度から新たに導入された成長枠も、インバウンド向け宿泊業にとってメリットになります。従来の通常枠と違って、成長枠では売上高の減少要件がなくなったため、売上が落ちている宿泊業者も導入できます。事業再構築補助金によってインバウンド需要を取り込むことができれば、売上アップも期待できるでしょう。
インバウンド向けの宿泊業が市場拡大する根拠資料
インバウンド向けの宿泊業が市場拡大するという予想には根拠があります。根拠の1つとして参考になるのは、日本政府観光局(JNTO)が2023年12月20日に発表した調査結果です。JNTOによると、訪日外国人観光客数は6ヶ月連続で200万人を超えました。コロナ禍によって減少していた航空便も増便・復便の傾向にあり、インバウンドのさらなる増加が期待できます。
事業再構築補助金を申請するための要件
事業再構築補助金を申請するためには、上記の5つの要件があります。
本項では事業再構築補助金の申請要件を1つずつ詳しく解説しています。
コロナ禍による売上の減少
事業再構築補助金の申請要件の1つは、コロナ禍による売上の減少です。売上の減少という要件が設けられた理由は、新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの企業が売上減少に直面しているためです。特に宿泊業はコロナ禍によって大きな打撃を受けました。
元々事業再構築補助金は、経営が厳しい状況にある企業が新たな事業展開や業態転換、事業再編等に取り組むことを支援するために設けられた制度です。ただし、2023年度から新たに追加された成長枠においては、売上高減少要件がなくなっています。売上が減少していない企業でも事業再構築補助金の申請が可能です。
目的の明確化
事業再構築補助金の申請にあたっては、事業再構築の目的の明確化が要件として求められます。事業の再構築だけにとどまらず、事業の拡大や新規事業への参入など、事業をさらに成長させる意思を明確に示すことが重要です。事業を成長させる目的を明確に示すことによって、事業再構築補助金の採択率も向上するでしょう。
事業計画の策定
事業再構築補助金を申請する際には、事業計画を示さなければなりません。事業計画では、事業を再構築するための具体的な方法を策定し、事業計画書という書面を作成します。作成にあたっては、認定支援機関のサポートを受けながら行うのが一般的です。作成した事業計画書は、申請時に事務局に提出します。
事業再構築の実施
事業再構築補助金の申請要件として、事業再構築を実際に実施することも求められます。申請時には事業計画書を提出する必要がありますが、当然ながら計画倒れになってしまっては意味がありません。申請が認められ採択されてからも、実際に事業再構築がなされているかどうか審査を受けます。
事業再構築補助金が申請できる宿泊施設
事業再構築補助金の申請要件の1つとして、宿泊施設の種類も決められています。ほとんどの宿泊施設は申請が可能ですが、民泊施設では成長枠での申請ができなくなったことに注意が必要です。
旅館・ホテル
旅館やホテルは宿泊施設の最も一般的な施設で、事業再構築補助金の申請対象となります。特にホテルは顧客の収容人数が比較的多い施設が多いため、中小企業か中堅企業かによって補助される金額が変わってくることにも注意しましょう。
キャンプ施設
キャンプ施設も事業再構築補助金の申請対象です。建物の大きさに対して立地面積が広い傾向があるので、新規の施設を建設しやすく、事業再構築補助金の活用によって成長できるポテンシャルを秘めています。
ゲストハウス
ゲストハウスも事業再構築補助金の申請対象となる宿泊施設です。ゲストハウスはインバウンド向け宿泊施設として近年注目度が高まっています。比較的初期費用が少なくて済むこともあり、新規でも始めやすい事業形態です。
簡易宿所
簡易宿所も事業再構築補助金の申請対象です。広い意味では民泊も簡易宿所に含まれる場合がありますが、厳密には異なるカテゴリーなので注意が必要です。事業再構築補助金の事務局が発行した「成長枠対象業種・業態リスト」には、簡易宿所が記載されていますが、民泊は記載されていません。ただし、民泊施設からゲストハウスなどの他の事業形態に変更する際には事業再構築補助金の申請対象となります。
事業再構築補助金の活用事例
宿泊業界ではコロナ禍の影響を受けて業績が厳しくなった企業が多く、事業再構築補助金の活用によって業績を回復させた事例が数多く存在しています。本項では、事業再構築補助金の公式サイトで公開されている補助金の活用事例を紹介します。
新分野展開事例
観光地でホテルを営業していた宿泊業者が、新型コロナウイルスの影響を受けて宿泊客が大きく減少し、業績が悪化してしまいました。事業再構築補助金の存在を知った経営者が、新分野の展開によって補助金の活用ができないか思案。周囲の環境を活かすと同時に、コロナ禍によるキャンプ需要の増加を利用してオートキャンプ場施設の経営を開始しました。
業種転換事例
ビジネスホテルを経営していた宿泊業者が、新型コロナウイルスの影響を受けてビジネスマンの出張が大きく減少したことにより業績が悪化しました。事業再構築補助金によって経営状況の回復ができないか思案した経営者が、業種の転換を決意。働き方改革の流れに乗り、宿泊施設の殆どの部屋をコワーキングスペースに改修しました。
宿泊業における事業再構築補助金の具体例
事業再構築補助金の活用方法は業種によって多少の違いがありますが、2023年度からは補助金が企業の成長に貢献できるかに重点が置かれています。本項では、宿泊業における事業再構築補助金活用の具体例を紹介します。
新市場進出
宿泊業における新市場とは、従来の一般的な宿泊客のみをターゲットにした経営とは異なる、新しい需要が見込める市場のことです。例えば、インバウンドと呼ばれる海外からの観光客をターゲットにした宿泊施設の開発や、ビジネスマン向けの長期滞在型ホテルの開発などがあります。また最近では、新しい宿泊スタイルとして、民泊やシェアハウスなども注目されています。
事業転換
宿泊業における事業転換とは、宿泊施設自体は大規模な改修をせずに、新しいビジネスモデルやサービスを導入することです。事業転換の1つの例として、宿泊業者がビジネスホテルから長期滞在型のアパートメントホテルへと転換する場合があります。
事業転換では、部屋の改装費用・新しい設備の導入費用・マーケティング費用などに補助金を活用できます。また、補助金の活用は新しいビジネスモデルにおける競合他社との差別化を図る活動にも有効です。マーケティング活動や、新しい商品やサービスの開発などにも取り組めます。
業種転換
宿泊業における業種転換とは、従来の宿泊客とは異なるターゲットを想定した施設に転換することです。例えば、一般的な観光客や出張ビジネスマンなどをターゲットにしていたホテルを、コワーキングスペースに転換する例があります。企業に部屋を貸し出して長期契約を結ぶスタイルで、働き方改革の追い風も受けて安定した収益が期待できます。
事業再構築補助金の枠を活用した例
事業再構築補助金を申請する際には、いくつかの申請枠があり、いずれかの枠を利用することになります。特に注目されているのが「成長枠」と「グリーン成長枠」です。下表は、事業再構築補助金の公式サイトで公開されている各申請枠の一覧表です。
成長枠とグリーン成長枠は、補助金の支給によって企業の業績が向上し、今後の成長が期待できる事業を対象にしています。具体的には、従業員の賃金アップが見込めるような成長が期待できる事業に対して、多額の補助金を支給する制度です。例えば、グリーン成長枠では地球温暖化対策として太陽光発電施設を導入したり、地産地消型のバイオマス発電ボイラーを導入するなどの方法があります。
事業計画の策定例
事業再構築補助金の申請には事業計画が必要で、事業計画書という書類を作成しなければなりません。事業計画書には、新規事業の概要・費用の内訳・収支予測・事業計画の実施に必要な人員、設備、技術、資金等を明記しなければなりません。
例えば、費用については新規事業の立ち上げに必要な設備投資費・広告宣伝費・人件費などについて記載します。また、収支予測については新規事業の開始時期・売上高・費用・利益などを記載する場合が一般的です。
事業再構築補助金の注意点
事業再構築補助金はメリットの多い制度ですが、注意点もいくつか存在します。本項では、事業再構築補助金を申請する際にあらかじめ注意しておくとよい点を解説しています。
事業再構築補助金は後払い
まず最も注意しなければならない点は、事業再構築補助金が後払い制であることです。業績が厳しい状況であっても、資金の融資が受けられる制度ではありません。事業の再構築を実施するための資金は自社で用意しなければならないことに注意しましょう。
対象外となる経費
事業再構築補助金には、補助の対象となる経費と、対象外になる経費があります。対象外となる経費は以下のとおりです。
- 不動産の購入費
- 株式の購入費
- 自社の人件費・旅費
- 車両の購入費
- パソコン、スマートフォン、家具などの汎用品
- 消耗品
- 光熱水費
- 通信費
ただし、パソコンやスマートフォン、タブレットなどはIT導入補助金の補助対象となるので、事業再構築補助金とあわせて申請してもよいでしょう。消耗品は具体的にはコピー用紙などの事務用品や、マスク、アルコール消毒剤なども含まれます。
認定支援機関の支援が必要
事業再構築補助金の申請を行う際には、認定支援機関の支援を受けて行う必要があります。認定支援機関とは、正式には「認定経営革新等支援機関」といいます。中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上と認定された個人・法人・中小企業支援機関等の機関です。認定支援機関には、税理士・税理士法人・公認会計士・中小企業診断士・商工会・商工会議所・金融機関等が含まれます。
認定支援機関は、事業再構築補助金の申請者に対して、事業再構築に関するアドバイスや支援を行える機関です。事業再構築補助金の申請時には、事業者自身で事業再構築指針に沿った事業計画を作成し、認定経営革新等支援機関の確認を受けることが必要です。
補助金の活用目的から外れていないか
事業再構築補助金の申請を行う際には、自社が実施しようとしている事業が補助金の活用目的から外れていないかを確認しておきましょう。補助金の活用目的から外れている事業に対しては、事業再構築補助金を申請しても採択されない可能性が高いです。
本当に需要があるのか、事業計画を見直す
事業再構築補助金の申請には事業計画が必要ですが、実施しようとしている事業が本当に需要のあるものなのか判断しなければなりません。実際に売上の向上につながるのか事業計画を見直し、場合によっては事業計画を再策定する必要もあるでしょう。
事業再構築補助金の公募スケジュールを確認する
事業再構築補助金の申請を行う際には、必ずあらかじめ公募スケジュールを確認しておきましょう。事業再構築補助金の公募スケジュールは、年度によって異なります。2022年度の公募スケジュールは、3月28日から応募受付を開始し、6月30日まで応募を受け付けていました。
2024年度の公募スケジュールは、まだ発表されていませんが、中小企業庁の公式サイトで随時更新されることが予想されます。また、公募スケジュールに関する最新情報は、中小企業庁のナビダイヤル(0570-012-088)やサポートセンター(050-8881-6942)で確認できます。
事業計画書の事例を確認する
事業再構築補助金の申請を行う際にあらかじめ確認しておくとよいのが、過去に実際に採択された事例です。宿泊業の採択例も事業再構築補助金の公式サイトで確認できるので、自社のケースに近い場合は参考になるでしょう。
事業再構築補助金の申請方法
事業再構築補助金の申請方法は、事業再構築補助金の公式サイトで紹介されていますが、初めて申請する際には分からないことも多いでしょう。本項では公式サイトの内容をより分かりやすく解説します。事業再構築補助金の申請方法の流れは以下のとおりです。
- 公募内容の確認
- 支援機関の選定
- 必要書類の作成
- 応募申請
- 採択発表
- 交付申請
- 補助事業実施
- 実績報告
- 精算払請求
- 事業化状況報告
1.公募内容の確認
まず、事業再構築補助金の公募内容を確認しましょう。公募内容は年度ごとに異なる可能性があるからです。確認すべき公募内容は、おもに応募資格や申請書類、申請期限です。公募内容は、事業再構築補助金の公式サイトで公開されている公募要項で詳細を確認できます。事業再構築補助金の応募申請は、電子申請システムを利用しなければならないことにも注意しましょう。
2.支援機関の選定
事業再構築補助金を申請する際には、「認定経営革新等支援機関」などの認定支援機関を選定し、協力して事業計画書を策定する必要があります。認定支援機関が必要な理由は、中小企業を巡る経営課題が多様化・複雑化する中、中小企業支援を行う支援事業の担い手の多様化・活性化を図るためです。
認定支援機関となる条件は、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験が一定レベル以上と認定された個人・法人・中小企業支援機関などです。事業再構築補助金を申請する企業は、自身で事業再構築指針に沿った事業計画を作成し、認定支援機関の確認を受ける必要があります。また、補助金額が3,000万円を超える場合は、金融機関の確認も受ける必要があります。
3.必要書類の作成
認定支援機関の選定が決まったら、アドバイスを受けながら事業再構築補助金の応募申請に必要な書類を作成します。事業計画書のほかには、補助金額が3,000万円を超える場合に金融機関の確認書が必要です。事業計画書に記載する内容は、おもに補助事業の具体的取組内容・将来の展望・本事業で取得する主な資産・収益計画などです。
4.応募申請
必要な書類が用意できたら、応募申請を行います。事業再構築補助金の応募申請は、電子申請システムでのみ受け付け可能です。電子申請システムは、国が運営する「jGrants」というシステムを利用して応募申請を行います。「jGrants」は、個人事業主や中小企業等の法人が、補助金・助成金を簡単に検索・申請できるシステムです。
5.採択発表
採択発表は、事業再構築補助金の交付候補者が決定された後、公式サイトに掲載されます。採択発表日には、補助金交付候補者にメールが送信され、電子申請システムにログインして採択結果を確認できます。採択された場合は交付申請を行い、後に精査を経て交付決定が行われます。
6.交付申請
事業再構築補助金の交付を希望する企業は、補助金を受けるために交付申請を行います。交付申請が受理されると、申請された内容を事務局が補助対象経費として適切かどうかの精査を行います。採択された場合は補助金の交付決定です。ただし、事業再構築補助金の給付は後払いのため、交付決定の時点ではまだ補助金は支給されません。
7.補助事業実施
補助事業の実施は、事業再構築補助金の交付対象者が実際に補助金を受けるために必要です。事業再構築補助金の交付対象者は、提出した事業計画書の内容に沿って補助対象となる事業を遂行しなければなりません。また、事業計画を変更する際には、事務局への早期の相談が必要です。補助対象設備や証拠書類の適切な管理、申請書や報告書類の迅速な提出も重要です。
8.実績報告
事業再構築補助金の交付対象者は、補助事業が完了した後には実績報告が義務付けられています。実績報告を行うには、採択された設備やシステムの導入・発注・支払いなどの完了が必要となります。実績報告書は、電子申請システムを通じた提出が必要です。実績報告書の提出後に事務局で精査が行われ、補助金の額が確定します。
9.精算払請求
精算払請求とは、事業再構築補助金の確定通知書を受領後「補助金精算払請求書」によって精算払の請求を行うことです。精算払の請求は、補助事業の確定検査を受け、かつ補助金額の確定後でなければ行えません。精算払請求書を受領後、事務局より当該補助事業者宛に補助金額の振込を行います。請求書類に不備が無いことが確認できた場合は、8営業日程度で補助事業者名義の指定口座へ補助金を振り込みます。
10.事業化状況報告
事業化状況報告とは、事業再構築補助金の交付後に補助事業の成果を報告することを指します。補助金の交付を受けた事業者が、補助金を適正に使用しているかどうかを確認するためのものです。事業化状況報告は補助金交付後、原則として1年ごとに提出する必要があります。事業化状況報告の報告内容は、おもに補助事業の目的・実施計画・実施状況・成果・課題などです。
事業計画書の事例
事業再構築補助金の公式サイトには、事業計画書の事例として、過去に実際に採択された事業計画書が公開されています。事業計画書の事例を見ると、事業再構築補助金の採択を受けるために必要な事業計画書の内容が分かり参考になるでしょう。本項では宿泊業で事業再構築補助金を活用した2例を紹介します。
コワーキングスペース付き宿泊施設
1つ目に紹介する事例は、ワーケーション滞在を目的とする顧客向けに改築された「コワーキングスペース付き宿泊施設」への転換に関する事業計画書です。宿泊施設が事業再構築補助金を受給するために必要な事業計画書の記載内容の例を確認できます。
事業計画書では、以下のような内容が記載されています。
- 事業の概要
- 事業の背景
- 事業の目的
- 事業の内容
- 事業の効果
事業の概要には、おもに首都圏企業等によるワーケーション滞在の新規獲得に特化したコワーキング機能付宿泊施設を開業する件について記載。法人との定額利用計画の獲得を目指す方法で新分野展開を行う内容が紹介されています。
事業の背景は、おもに首都圏企業等によるワーケーション滞在の需要が増加しているという市場の動向です。ワーケーション滞在の新規獲得に特化したコワーキング機能付宿泊施設の開業により、新たな収益源の確保を狙うという内容が記載されています。
事業の目的は、ワーケーション滞在を目的とした顧客向けのコワーキング機能付宿泊施設の開業です。安定した収入を確保するために、法人との定額利用計画の獲得を目指す内容が記載されています。
事業の内容は、実際にワーケーション滞在向けのコワーキング機能付宿泊施設を開業し、具体的な運営方法や方向性などを紹介する内容です。法人との定額利用計画の契約を目指すために必要と思われる具体的な事項が記載されています。
事業の効果は、ワーケーション滞在向けのコワーキング機能付宿泊施設を開業することにより、新たな収益源を確保できるという点です。また、法人との定額利用計画の獲得により、安定的な収益を見込める点にも触れています。
民泊から旅館業への転換
2つ目の事例は「ゲストハウスますきち事業計画書」で、民泊から旅館業へ転換する際の事業計画書の例が記載されています。事業計画書は、旅館業法に基づく営業許可の取得に必要なため、旅館業への転換には不可欠です。
事業計画書には、以下の内容が含まれることが望ましいです。
- 事業概要
- 施設概要
- 経営計画
- マーケティング戦略
- 人材育成
- リスクマネジメント
事業概要では、事業の目的・規模・営業時間・提供するサービス・顧客層・競合環境など、事業の概要について記載します。施設概要では、施設の広さ・部屋数・設備・備品・清掃方法・消防設備など、施設の概要について記載します。
経営計画では、売上高・利益・費用・投資・資金調達・人件費・税金・保険・リスクマネジメントに関する資金などについて記載します。マーケティング戦略では、広告・販売促進・顧客獲得・顧客維持・顧客満足度・口コミなどについて記載します。
人材育成では、従業員の採用・教育・研修・評価・報酬・福利厚生・労働環境などについて記載します。リスクマネジメントでは、災害・事故・トラブル・法令違反・健康管理・セキュリティなどについて記載します。
また、事業計画書には、以下のような書類が必要となります。
- 営業許可申請書
- 図面
- 設備機器台帳
- 従業員名簿
- 保険証券
営業許可申請書は、旅館業法に基づいて営業の許可を求める申請書で、図面には、施設の平面図・立面図・設備図・消防図などが必要です。設備機器台帳には、設備機器の名称・数量・規格・設置場所・購入日・保守履歴などを記載します。
従業員名簿には、従業員の氏名・住所・生年月日・雇用形態・勤務時間・賃金などを記載します。また、労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険などの保険証券が必要です。民泊から旅館業へ転換する際には、以上のような内容を記載した事業計画書の提出が求められます。
事業再構築補助金の採択確率を上げるコツ
事業再構築補助金の採択確率を上げるためには、以下の4つのコツがあります。
- 事業計画書の作成に時間をかける
- 申請書類の不備を避ける
- 事業再構築補助金に適した事業計画を提案する
- 専門家のアドバイスを受ける
事業計画書は、採択の基準となるため非常に重要です。事業計画書を作成する際には、事業の現状分析や課題の洗い出し、解決策の提案、費用対効果・投資回収の計画などを詳細に説明する必要があります。事業計画書の書き方については、事業再構築補助金の公式サイトにフォーマットが用意されていますので、参考にするとよいでしょう。
申請書類に不備がある場合、採択される可能性が低くなります。申請書類を提出する前に、必要書類の不備がないかという確認が大切です。また、申請書類の作成には時間がかかるため、準備の時間を十分に取ることが望ましいでしょう。
事業再構築補助金は、事業の再生・再建を目的としているため、事業計画が事業再構築補助金に適しているかどうかが採択のポイントです。事業計画を提出する際には、事業再構築補助金の公募要領に沿った内容かどうか確認しましょう。
事業再構築補助金の申請には専門的な知識が必要です。申請書類の作成や事業計画の策定において、認定支援機関のアドバイスを受けることにより採択確率を上げられます。また、申請代行支援サービスの利用も、採択確率を上げるための1つの方法です。
【まとめ】宿泊業の事業再構築補助金について紹介しました
事業再構築補助金の申請を宿泊業で行う際におもなポイントとなるのは、成長枠の活用・建設費の補助・事業計画の策定の3点です。特に、適切な事業計画の策定は、事業再構築補助金の採択を受けるために欠かせません。認定支援機関のアドバイスを聞きながら、実際に売上の向上につながる事業かどうかを見極めて行うことが重要です。事業再構築補助金を上手に活用して、事業の新規展開や成長につなげましょう。